46. 令嬢
――それから1ヶ月後、以前のように隣組の令嬢達と食堂で昼食を共にした後、教室がある廊下を歩いていると1人の令嬢に声をかけられる。
「あら? ファームス様。お食事の前にお贈りした物、お持ちになっていらっしゃらないようですが?」
「それでしたら、どなたかがお持ちになってくださっていると思います。席を離れる際にそう伺っているので」
この日、食事の前になぜか令嬢達から1つの贈り物を手渡されていた。
その後昼食を食べ終えた令嬢達が談話している時、ロゼッタの隣に座っていた令嬢が腕を伸ばした拍子にロゼッタのコップが倒れる。
「申し訳ございません! 私としたことが――」
「いえ、気になさらないでください。とりあえず、給仕にこの事を伝えた後、手を洗ってきますね」
「――ありがとうございます」
ロゼッタが席を立つと、向かいに座っていた令嬢が声をかける。
「ファームス様。もうすぐ戻る時間なので、先に廊下でお待ちしておりますわね。それから、贈り物の方は、私どもの誰かがお持ちいたしますので」
「お気遣いくださってありがとうございます。宜しいお願いいたします」
手を洗い終えたロゼッタが廊下に出ると、令嬢たちは彼女の姿を見るなり次々と教室へ向かうために歩き出す。
そのため、誰が持っているかも分からず、すぐに受け取ることもできないまま現在に至っていた。
「そう。だったのですね。どなたがお持ちになられているか確認してみますね」
「え? 宜しいのですか?」
「はい! 少々お待ちください」
そう言うと、その令嬢は先頭を歩いている令嬢達に声をかける。
少し経ってから、バツの悪そうな顔をしながら戻って来る。
「どうかなさいましたか?」
「……あの、誠に申し上げにくいのですが、どなたもお持ちになられておりませんでした」
「え?」
「私、今から取りに行きますね!」
「大丈夫です! 私が後で取りに行きますので」
「でも――」
令嬢が申し訳なさそうな顔をしていると、背後から別の令嬢に声を掛けられる。
「でも、ファームス様! 差し出がましいこととは存じますが、今日お渡ししましたのは、令嬢達の間で有名な香水でして、もしかすると向かわれた時には、すでに品性の欠けた者に盗まれてしまっているかもしれませんわ」
(びっくりした! 誰か後ろにいたんだ)
あまりの驚きに心臓をバクバクさせながら、ロゼッタはその人物が一体いつからいたのかと考えたが、全く見当がつかなかった。
そして、令嬢はさらに言葉を付け加える。
「それに、もし仮に善意の方が見つけてくださって、職員室に預けてくださったとしても、そこに名前が書かれているわけではないので、経緯を知っているものが自分の物であるかのように名乗り出て、受け取ってしまう可能性だって否定できませんわ」
ここまで言われても難しい顔をロゼッタはするが、これ以上彼女に気を揉ませたくなかったため頷く。
「……そうですわね。今から取りに行きますね」
そう告げたロゼッタは、急いで食堂へと向かうべく、階段を降り始めようとした時、背後から誰かに思い切り背中を押される。
「っ!!!」
ゆっくりと時間が流れる感覚の中、どう衝撃に備えるべきか必死に思考を巡らせていた――その時。
階段を上がろうとしていたアスベルトの姿が目に飛び込んでくる。
(このままだと、巻き込んじゃう、よけて!!)
そう願ったのも束の間、彼は躊躇なく階段を駆け上がってきて気が付いた時には、アスベルトの胸元で視界が塞がれていた。
そして、強く抱きしめられる感覚に包まれながら、2人は勢いよく階段から滑り滑り落ちていった。
△
あれから数時間後に目を覚ましたロゼッタは、虚ろな目で天井をぼーっと見つめて過ごすこと数分、何かを思い出したかのように瞳を大きくさせ慌てて上半身を起こす。
「アスベルトはどうなったの?」
ベッドを囲む純白のカーテンを開け、半個室になっていたところから医務室の共有スペースにでると、隣のベッドもカーテンで囲まれていた。
(もしかして、この中……?)
しかし、勝手にそのままカーテンの中を窺うわけにはいかないため、とりあえず今誰がそこに居るのか校医に確認しようよとあたりを見渡してみるが誰もいなかった。
校医がいつ戻るかも分からず、このままここで戻ってくるのを待っているのも、当てもなく捜し回るのも、どちらも一刻も早くこの中に誰が居るのかを確かめたかったロゼッタにとっては時間の無駄に思えた。
そのため彼女は意を決し、カーテンの隙間からそっと中の様子を窺う。
「っ!!」
ベッドの上には、横たわるアスベルトの姿があった。
「アスベルト様!」と言いながら慌てて近づき、顔を覗き込む。
しかし、彼は目を閉じたまま、その声に一切の反応を示さなかった。
「っ――」
自分のせいでアスベルトをこんな目に遭わせてしまったのに、自分の属性ではどうすることもできないため、せめて傍にいようと近くに置かれていた背もたれ付きの木製椅子に腰を下ろして、そっと彼の右腕を握りしめる。




