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26話 討伐

 


 夜営地には悲鳴があふれていた。化け物は手当たり次第に人を襲っている。


 到着したタイジュが見たものは、身体は虎、尻尾は蛇、猿のような顔をした化け物だった。


『まるで、ヌエね…。日本の図書館で見たわ。平家物語に出てくる物の怪(もののけ)


(しかし、アレは固定の姿が無いのか?前に見たヤツと全然違う…)


『そうね。でもアレが出てくる前に、デヴァルを覆っていた黒い煙。あの黒い煙が呪いの正体なのかもしれないわ。やっと掴んだ手掛かり…』


 化け物は、騎士たちを両手両足で踏み潰し、尻尾でなぎはらっている。騎士団もなんとか反撃しようとしているが、剣で敵う相手ではない。


 そこにギルバートがやって来て、絶望的な声を出す。


「おいおい、どうなってんだ?これは…。あんな化け物どうやって倒すんだよ…」


 はじめて化け物を見たギルバートは、困惑している。たしかにあんな化け物を倒せるのか不安だろう。でもやらなくてはいけない。あの化け物は、必ず人を襲うのだから。


 とにかくこの場から化け物を離さなくてはと考えていたタイジュの元に、エルが現れる。


「マスター、お待ちしておりました。少し離れた場所ですが、良さそうなところがあります」


「さすがエル。仕事が早いな!一刻も早く、あの化け物をここから離さないと、騎士団の多くが死ぬことになる。それだけは避けないと…。しかし、どうやって誘い込めば…」


 思案するタイジュの近くの暗闇から声がした。


「我らが引き受けよう…」


 マダムの館で助けてくれた黒装束の男が現れた。


「お前たちを寄越したのはツクヨだな。じゃ、任せた。上手く誘い込んでくれよ」


 細かいことを言わなくても理解した男は、すぐに姿が見えなくなる。


 すると、化け物を囲むように煙幕が発生した。その隙に、周りの騎士団が逃げ出す。化け物は貴族が集まっていたテントを襲う寸前だった。間近で化け物を見た貴族たちは、悲鳴をあげながら我先にと逃げ出している。


 黒装束の男たちは、煙幕で、騎士団と化け物を上手く引きなはすと、今度は化け物に火球を当てはじめた。


「あいつらの中には術師もいるのか?スゲー、化け物があいつらを追って行ってる。あいつら、やるじゃねぇーか!」


 感心するギルバートと共に、化け物の後を追う。


 エルが探してきた場所は、山を切り崩したような窪地だった。そこに上手く化け物を誘導した男たちは、化け物が逃げ出さないように出口を塞ぐ。


「だが、この後はどうするんだよ?あの化け物は、並みの攻撃じゃ倒せないぜ?」


「ギル、今から見るものは他言無用だ!」


 タイジュはそう釘をさすと、化け物に近付いていく。


「マスター、術式設置完了です。今のマスターの声で登録してあります。マスターの安全はわたくしが確保します。詠唱に集中してください」


 エルがタイジュの後ろに立ち、タイジュをかばうような仕草をする。タイジュはエルの言葉に頷くと、何やら呟きはじめる。

 だんだんと大きくなる声。

 その間も黒装束の男たちが、化け物を牽制している。そして、化け物がある場所に踏み入れた時だった。地面が一瞬、まばゆく光る。そのタイミングに合わせたように、タイジュが叫ぶ。


「взрывающиеся!」


 すると、まるで内側から爆発したように、化け物が弾けた。ものすごい悲鳴をあげる化け物。


「これぐらいじゃ、倒せないか…。再生型だとマズイ。おい、お前たち。小さな肉片も残さずに、焼却だ」


 致命傷にはならなかったようだが、化け物の動きは封じ込めた。あとは、少しずつ化け物の体力を奪うしかない。


 タイジュの命令で男たちが、化け物に群がる。それぞれ固有の武器を構え、化け物の傷口を広げ、飛び散った肉片は術師が焼却していく。


 エルも大きな鎌を振り回して、化け物を細切れに刈り取っていく。


 化け物の動きが完全に止まると、タイジュは新たな術を発動させた。


「сжигание!」


 すると、今度は化け物の周りに炎が発生する。


「この炎は対象を燃やし尽くすまで消えない。これで、討伐完了だ」


 一部始終をただ見てることしかできなかったギルバートに、タイジュが説明する。


「あの化け物は完全に消さないといけないんだよ。例え元が人だと分かっていても…。一度あの姿になった者は、二度と元には戻れないから…」


「そうか…。タイジュたちはあの化け物と戦ったことが何度もあるんだな。だから、呪いが本当にあるって知ってるんだ…。そういうことか」


 あの男たちとタイジュたちの連携は見事だった。まるで同じ戦いを何度もしたことがあるかのように、息が合っていた。


「ギル、この世界は呪われている。あの化け物はそのひとつだ。このまま放っておいたら、この世界は確実に滅びる。アレは大きな戦争があると現れる。そのためにも戦争を無くす必要があるんだよ」


「ちょっと待った!今回は戦争を回避したよな?なのに、あの化け物が現れたのは、どういうわけだ?」


 ギルバートの疑問に、エルが答える。


「あの化け物がどうやって発生するかは、まだ謎なのです。わたくしたちの経験上、大きな戦争があった時に多いとわかっているだけなのです」


「それじゃ、何も分かってないのと同じじゃねぇーか!」


「そうだよ、ギル。だから、オレは王になるって決めた。今までは、ひっそりと調べてたが、それじゃ全然解決しないって分かったから。メンドクセーけど、自分でやるしかないって、やっと分かったんだよ」


「マスター。デヴァルは化け物になる前に、こう呟いていました。声は出ていませんでしたが、『死にたい、死なせてくれ。こんな状態で生きているのはイヤだ』としきりに言っていました」


 それを聞いたギルバートが何かに気付く。


「化け物が発生するのは、大きな戦争があった時だと言ってたな。それじゃねぇーか?」


「それって?」


「だから、生きる望みを失った人が化け物になるってことじゃねぇーの?化け物になるのは人なんだろ?じゃ、化け物になる条件ってのが、必ずあるはずだ。全員が化け物になるわけじゃねぇーんだろ?」


 ギルバートの指摘に、タイジュは驚く。


(考えたこともなかった…。でも、そうかもしれない。あの時のヤツもそうだった。絶望に満ちた目をして、そのまま化け物に変貌した…)


『ギルバートってすごいわね。本質を見抜く力があるのかしら?私たちが何百年も分からなかったことを指摘するなんて…』


(いや、まだ仮説だ!合っているかは分からない)


『でもこうやって、いろいろな人の意見を聞くためにも必要だと思うわよ。どんな人でも素直に自分の考えが言える国。そんな国をつくるのでしょ?』


(ああ、そうだ。そんな国をつくりたい!)


『一人で考えているよりも、多くの人が考えた方が早いわ。知識は多い方がいい、でしょ?』


 かつて、日本の弟に言った言葉をセシルに言われるとは思わなかったタイジュは、目を見張る。


(そうだな。そのためにも…)


「ギル、焼却完了を確認したら、ザガランティアに急いで戻るぞ!」


「何だよ、急にどうした?」


「ザガランティアの王宮に行って、店主を取り戻す!」




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