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22話 自覚

 


(国民のために国がある。オレはそう思ってた。でもタレース王国は違っていた。国って一体何なんだ?)


『タイジュ。この世界の国は、国のために国民がいると思ってるところばかり。でも国民は国を選べない。そこがどんな国であっても、そこで暮らすしかないの』


(オレが育った日本は平和な国だったよ。貧富の差や強盗、殺人。問題はたくさんある国だったけど、多くの民は餓えることなく生きていた。戦争をしないという誓いを守っている国だった。その国で、オレは良い親に拾われて、良い弟もいて。───幸せだったよ)


『この世界では考えられないことよ。ここでは、餓えて死ぬ子供は多いし、いつもどこかで戦争をしている。誰かが変えない限り、ずっとこのまま続いていくわ。タレース王の言っていたとおりよ』


(誰かが変えない限り続く…)


『どうしたらいいのか、もうわかってるでしょ?怠惰なあなたには大変だろうけど…』


(そうか。日本の『普通』は、この世界では、普通じゃないんだ。オレは目立つのがイヤで普通を目指してた。この世界の普通は、オレにとっては、『最低』だ。せめて、『普通』になるといいなと思うけど、誰かが何かしてくれることはないんだろうな…。これまでもそうだったし、これからも…。誰かが変えない限り続く。───はあ…。メンドクセー…)


 タイジュは思わず、ため息をついた。



 ◇◆◇◆◇



「ただいま戻りました」


 エルがバートンの私室に戻ってきた。


「早かったな」


「わたくし一人だけなら、転移門が使えますから」


 エルは、精霊種。人の形をしているが、ヒトとは違う組成をしている。だから、姿をすぐに変化できるし、不思議な術が使える。


「誰でも使える転移門があったらなぁ。どこへでもすぐに移動できれば、国なんか必要ないのにな」


「先日使った『門』ではダメなのですか?」


「アレはまだ試作段階。あの時は上手く起動して、シャーリーがいる『島』と繋がったが、まだまだ不安定だ。改良が必要だな。───しかし、改良には人手がいるしな…。あいつらにこれ以上負担をかけるのはなぁ…」


 タイジュは、試作品のことで頭がいっぱいになり、エルの言葉が耳に入らなくなる。


「そうですか。───あっ、そういえば。長が来ると連絡がありました」


「───んっ?いまなんて?」



 バンッ!!!



 バートンの私室のドアが激しい音をたてて開いた。


「久しいのぅ、アルファ!」


 入ってきたのは、真っ白な毛並みの白猫だった。ミコトに良く似ているが、妖艶な色気があった。年齢は20代後半だろうか。白く長い髪は、神秘的な雰囲気を醸し出している。


「よっ、よお。ツクヨ…。相変わらず騒がしいな…」


「なんじゃ?今度のアルファはちっこいのぅ。普通のヒト種の子供ではないか!ワレの夫の『アルファ』は、それはそれは素晴らしい男だったぞ!」


「うん。それ、昔の話だから。それと比べられても…」


 タイジュはゴニョゴニョと答える。タイジュはこのツクヨの前だと、いつもそうなってしまう。苦手だから、とか、嫌いだから、という理由ではない。


「また何やら悩んでいるようじゃの。アルファはアルファのしたいようにすればいいのじゃ。我が一族が全力で助ける。アルファが悩んでいることなんぞ、些細なことじゃ!」


「はあ。ツクヨにはお見通しだな…」


 ツクヨの一族では、稀に不思議な力を持つ真っ白な個体が生まれる。その白猫が代々、一族の長となる決まりだ。


 ツクヨの能力は、予知と精神感応。言わなくても、ツクヨには全てわかってしまう。それが何だか、恥ずかしいのだ。だから、出来ればツクヨにはあまり会いたくないと、タイジュは思っていた。


「オレの今の名前はタイジュだ。アルファはかつてのオレの名前。もうこの世にはいない存在だよ。なのに、オレのことをいつまでも『アルファ』と呼んで助けてくれる。ありがたいが、そんなことをする必要はないんだぞ」


 暗にもう助けなくてもいいと言ったつもりだが、ツクヨは豪快に笑う。


「何を言うておる。アルファは我が一族の救い主。アルファが居なければ、我が一族は滅んでいたのだぞ!感謝して、いつまでも仕えるのは当たり前のこと。アルファは黙って、そこに居るだけでいいのじゃ。あとは我らが実行するからのぅ!」


(はあ。言ってもムダだよな。わかってたけど…。ツクヨは押しが強いんだよ。昔からなぁ)


『そうよねぇ。それであなた、ツクヨの夫になったんだったわね。彼女、相変わらず元気ね。もう100年以上も経つのに…』


「ほう。今度のアルファはややこしいことになっておるようだのぅ。タイジュにセシル。二つの意識が共存しておるのか?大変じゃなぁ。しかし、ワレはまだ146歳じゃ!年寄り扱いするでないわ!」


 白猫の寿命は長い。普通の獣人種の倍は生きると言われている。


 ツクヨはすべて知っているかのような表情で、タイジュの目を見る。


「アルファ、いや、タイジュ。ワレが獣人種を引き受けるとしよう。タイジュは、ヒト種の方を何とかするのじゃ。戦争をとめたいのじゃろう?」


「ツクヨには敵わないな。───戦争は止める。そうしないと、アレが発生してしまうからな」


「うむ。たしかにアレの発生は困る。アレを知らないバカ共は、すぐに戦争をしたがる。何が部族の誇りだ。そんなもののために部族が滅んだらどうする気なのじゃ!どうやら、裏切り者がいるようじゃな。それを手土産に、説得するとしよう。こちらはワレに任せるのじゃ!」


「わかった。頼んだぞ、ツクヨ!オレはヒト種の方を何とかするから」


「ふふっ。今度のアルファもやっぱり、頼もしいのぅ。ワレは、タイジュがつくる国を見てみたいと思う。タイジュの思うような国があるといい、そう思うぞ!タイジュは素晴らしい男だ。見た目はちっこいがのぅ」


 ツクヨは愉快そうに笑いながら、部屋を出て行く。


(ハハッ。やっぱりツクヨには敵わないな。さてと、オレも行くとしよう。メンドクセーとか言ってられない。結末をこの目で確かめなければ…)


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