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20話 陰謀

 


「はあ?アンナがコレット伯母さんの娘?───ってことは、アンナは俺のいとこ…」


「私はその後、夫と息子を殺した強盗の正体や娘の行方を調べていることをデヴァルに知られてしまいました。そんな私にデヴァルは激怒し、奴隷の焼き印を押して、マダムの館に入れたのです。あの別館で世話係をしていたのは、皆、そうやってデヴァルの怒りを買った者達でした」


「世話係ね。その中には、子供を教育する人もいたわけだ」


「はい。教育係をしていたのは、以前スパイをしていた女性です。彼女は、ちょっとしたミスで任務を失敗した。でも優秀だったために、教育係として残された。普通なら失敗した時点で殺されています。デヴァルは失敗を許さない男なんです。殺さない代わりに、彼女は足の腱を切られています。逃げ出せないように」


「あの別館では、素質がある子供にスパイの教育をしていて、それは元スパイが担当していた。ってことは、アンナも教育係として、戻ってくる可能性があるってことか…」


 タイジュの指摘に、コレットは頷く。


「デヴァルが私を殺さずに、喉を潰して別館で下働きをさせていたのには、もうひとつ理由がありました。デヴァルは、ソフィーナが任務を失敗したら、教育係として連れてくるつもりだったんです。『感動の再開が楽しみだな』とイヤらしい顔で笑っていました。私とソフィーナに、お互いの変わり果てた姿を見せて、その反応を楽しもうとしていた。あの男は、そういう男なんです」


「マジで最低ヤローだな…。でも、アンナがソフィーナってのは、間違いねぇーのか?」


 ギルバートが確認すると、それにタイジュが答える。


「それは間違いない。これを見てもらったから」


 タイジュは精霊球を浮かせると、映像を映し出した。娼婦のような派手な化粧をしたアンナとブロア家の教育係として地味な格好をしたアンナ、両方の姿が映っている。


「なんだ、これ。この派手な女がアンナ?でも、化粧をした顔はどこかコレット伯母さんに似てるな。地味な格好だと、わからねぇけど」


 空中に映し出されたものを見たギルバートは、もはや呆れている。


「タイジュ、オメーの道具はどうなってんだ?それにオメーは一体、何者…」


「オレのことは、そのうち話すよ。今は時間がない。デヴァルのヤツがこのままにしておくとは思えない。必ずバートン商会に何か仕掛けてくるはずだ。だが、デヴァルがバートン商会を狙ったのは何でだ?」


 タイジュは、考え込む。バートン商会の他にも、店はたくさんある。この中でもなぜバートン商会にここまでこだわるのかが分からなかった。しかも5年もかけて…。


「デヴァルの目的は、宝石だよ。俺がタレースに潜入して調べたんだ。ほぼ間違いない。バートン商会では、いろいろな商品を扱ってるが、特に宝石は、加工をして売るから、高値がつく。バートン商会の職人は、丁寧な細工をするって有名なんだよ」


「宝石は磨かないと、ただの石だからな。より高く売るためには、デザインも重要だし、丁寧な細工も必要だ。そこに目をつけたバートンはスゴイよなぁ。さすがバートン!」


 タイジュが、過去の自分を誉めている。が、ここにいるのは、それを知らない人ばかりだ。


「デヴァルは、その職人が欲しいんだ。いまタレースでは戦争の準備をしてる。いろんなところともめてるタレースだ。相手はどの国なのかは知らねぇが、戦争になれば金がいる。デヴァルは金を用意して、タレースの国王に取り入るつもりだ。だから、アンナにその職人の居場所を探らせてたんだ。でも何年かかっても、その職人が見つからない」


「宝石の加工をしている職人の居場所は、バートン商会でもトップシークレットだからな。それは見つからないだろうな」


「そうだよ。俺だって、知らねぇーから!───で。もう待てないデヴァルは、バートン商会ごと手に入れることにした。そして手始めに、バートン商会にとって大切な存在であるベイル家の二人を暗殺した。殺せてねぇけどな…」


「なるほどね。じゃ、暗殺が完了したと思ってるアンナが次にするのは…」


「バートン商会の乗っ取り、だ!」


 ギルバートは、はっきりと断言した。



 ◇◆◇◆◇



 アンナはその頃、バートン商会で店主と会っていた。アンナひとりではない。ザガランティアの役人の男と一緒だ。


「ギルバート・ブロアはどこだ?」


 役人の男が店主に問う。


「いまタレースに商談に行っております。ギルバートが何か?」


「ギルバートは、タレースのスパイだということが分かったのでな。連れていって調べるのだ。ギルバートはタレースから帰ってきていると報告がある。隠すとお前も来てもらうことになるぞ」


 男が店主を脅すようなことを言う。


「ギルバートがスパイ?何かの間違いでは?」


「ブロア家で働く者が証言した。間違いない!」


 男がアンナを見る。


「はい。ギルバート様の様子が変なので、こっそり調べていましたら、ギルバート様とタレースの貴族の手紙を見つけてしまったのです。そこには、ザガランティアの国王を暗殺する計画が書かれていた。私、恐ろしくて。すぐに報告を…」


「その手紙はすでに王宮に渡った。王宮の調査官が詳しく調べている。ギルバートを出せ!それともバートン商会の人間は、皆、スパイなのか?」


 男がイヤらしい笑い方をする。手紙は偽造されたものだろう。男とアンナはグルなのかもしれない。店主は、心の中でため息をつく。


「ギルバートがいないと言うなら、とりあえず、店主。お前に来てもらおう。じっくり話を聞かせてもらうからな」


 店主は素直に応じる。


「話せば分かってもらえるさ。皆は普段通り仕事を続けてくれ。じゃ、後は頼んだよ」


 店主は、店の金庫番の男にそう言うと、役人とアンナと共に店を出た。


 アンナは悲しそうな顔をしながらも、心の中で大笑いをしていた。


(これで、このバートン商会はデヴァル様のものだわ。店主とギルバートは国王暗殺を計画した罪で死刑。バートン商会は、デヴァル様の支配下にあるザガランティアの貴族に任されることになっている。うふふっ。完璧だわ。これでバートン商会は終わり。ザマーミロよ)


 アンナはバートン商会を憎んでいた。子供の頃、父と母が、祖父であるバートン商会の店主サムが来ると言っていたあの日。現れたのは強盗だった。彼らは父と弟を殺し、母とソフィーナを連れ去った。そして、ソフィーナはマダムの館に連れていかれ、様々な教育を受けた。母の行方は分からない。自分の身の上を何度嘆いたか…。


 そんな時、デヴァルに会った。彼は、ソフィーナの話を聞いて、慰めてくれた。そして、事件の真相を調べてくれたのだ。


 じつは強盗は、バートン商会の店主サムに雇われた者で、ソフィーナたちを殺せと命じられていた。タレースから逃げ出そうとしていたソフィーナたちを助けると、自分やバートン商会が巻き込まれる。サムはソフィーナたちよりも、バートン商会を優先した。ソフィーナが殺されなかったのは奴隷商に売るためだろう、とデヴァルは言った。


 たしかにあの時、父と母は、タレースから出ると言っていた。詳しくは教えてもらえなかったけど、祖父であるバートン商会のサムが、迎えに来るから、と母は言っていた。サムには数回しか会ったことはないが、大好きだった。あの大きな手にはめた指輪は忘れない。


(家族を殺すように命令した犯人はおじいさまだったなんて…。しかも、それはバートン商会を守るためだった。私の家族より、バートン商会を選んだのね…)


 ソフィーナは、祖父に裏切られたことを知り、激しく祖父を憎んだ。その後、祖父は亡くなったと聞いたが、憎しみは消えなかった。だから、代わりにバートン商会に復讐しようと決めた。ザガランティアに潜入する仕事があると聞いて、自分から志願した。この手でバートン商会を潰すために。


(もうすぐバートン商会は無くなる。これでやっと復讐が終わる。お父様、お母様、喜んでくださいね)


 ソフィーナは、復讐をやり遂げた充実感に浸っていた。


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