19話 真実
「ギルバート様!無事だったのですね。良かったです。心配していました」
部屋に入るとすぐに、ミコトがギルバートに駆け寄ってきた。真っ白な尻尾が、ギルバートの腕に絡み付く。その感触に、ギルバートはドキドキする。
「だっ、大丈夫だ。タイジュが俺を助けてくれたから。タイジュは俺の命の恩人だ。それより、そのご婦人は?俺の母親にとても似ている…」
ギルバートは、女性の顔を凝視する。
「先日は助けていただき、ありがとうございます。私の名前はコレット。エリスは元気ですか?」
(先日は?この女性に会った記憶はない。しかもエリスは俺の母親の名前だ。───そういえば…。コレットって、どこかで聞いたような…)
「まさか!コレット伯母さん?でも、母さんの姉のコレット伯母さんは、20年前、俺が3歳の時に死んだって聞いてたが…」
「あなたがギルバートなのね。直接会ったことはなかったけど、エリスから手紙を貰っていたわ。こんなに大きくなって…」
「コレット伯母さんが生きてた?」
「ギルバート様。コレットさんは、あの時、みんなを説得してくれた女性ですよ」
ミコトの説明に、ギルバートは驚く。
「はあ?マダムのところにいた女性?でも、その女性はデヴァルの愛人だったと…」
タイジュは、混乱しているギルバートを強引にソファーに座らせる。ミコトがギルバートの横に座ると、タイジュは空いている一人掛けのソファーに腰かけた。
「じゃ、そのあたりの話を詳しく聞かせくれるか?」
タイジュはコレットの目を見ながら、そう頼む。
「はい。タイジュ様も助けていただき、ありがとうございます。その上、不思議な治療まで。こんな状態になったのは、何年ぶりでしょうか…」
コレットは涙ぐんでいる。
ギルバートが混乱するのも無理はない。コレットはまだ少し痩せてはいるものの、顔色は良くなり、身体中のキズが消えて、別人のようになっていた。
「シャーリーの治癒は、エル仕込みだからな。でもいいのか?胸の焼き印は、治さなかったと聞いたぞ」
「はい。これは、すべてが終わるまで残しておこうと思います。あの子を助け出すまでは…」
「コレット。話すのはツラいと思うが、話してくれ」
コレットは、決意したように頷いた。
「30年前、私は隣国タレースの中級貴族、ランド家に嫁ぎました。ランド家は騎士の家系。私の夫はデヴァル家の騎士団に所属していました。その後、娘と息子を授かり、幸せに暮らしていましたが、ある日、夫が真っ青な顔で帰ってきたのです。私のことを気に入ったので、譲ってくれとデヴァルに言われたと…」
「譲ってくれ?愛人に差し出せってことか?デヴァルは女に眼がないようだな」
「はい。デヴァルは少しでも興味があるものは、手に入れないと気がすまない。そして手段を選ばない男です。夫はそれを知っていたので、家族で逃げようと言ってくれました」
「デヴァルに差し出すことを拒んだわけだ」
「そうです。夫はデヴァルのそういう気質を嫌っていましたから。でも、デヴァルに逆らうということは、タレースには居られなくなるということです。私たち家族は、父を頼ることにしました。バートン商会に匿ってもらうことにしたのです」
「バートン商会には、他国へのツテがある。タレース以外で暮らす決意があるなら、どれだけでも逃がすことは可能だ。サムはそれを了解したんだな?」
「迷惑がかかると思ったのですが、頼れるのは父だけでした。私たちは逃げ出す日を決め、後は決行するだけ。子供たちには、バートン商会のおじいちゃんが迎えに来るからね、と言い聞かせてありました。ところが、その日来たのは強盗。彼らは、私の目の前で夫と息子を斬り殺し、私と娘を連れ去ったのです」
あまりの内容に、ギルバートは言葉を失っていた。
(死んだと思っていた伯母が生きていた。でも、伯父といとこは強盗に殺されていた。───頭が追い付かねー…)
隣に座っているミコトの尻尾が、ギルバートの腕にそっと触れた。その感触に、少し心が落ち着いた。
「強盗に連れ去られた私は、デヴァルの部下だという人に助けられました。その人はデヴァルの命令で探していたと言い、私だけをデヴァルのところへ連れて行きました。娘は奴隷商に売られてしまったというのです。そんな私にデヴァルは優しく接してきました。そして、娘を探してくれるというデヴァルの言葉を信じて、私はデヴァルの愛人になりました」
そこまで話すと、コレットはツラそうに目を伏せる。
「ところが、何も情報が掴めないままが数年経ったある日、デヴァルとホーランドが話しているのを聞いてしまったのです。奴隷商に売られたという娘は、高級娼館であるマダム・ヴァイオレッタの館にいると。そして、娘の最初の客はデヴァルだったと。デヴァルは『さすが親子だ。そっくりだったよ。いろいろなところがね』と、ニヤニヤしながらホーランドに語っていました。わたしは、ショックを受けました。デヴァルのことを信じていたのです。強盗から助け出してくれて、娘も探してくれている。なんて親切で優しい人なんだろうと思っていたから。でも、それは偽りだった…」
「最低のヤローだな。しかし、デヴァルは社交界では、品行方正な紳士と評判だ。アイツは、表と裏の顔を上手く使い分けてる」
「品行方正?愛人がたくさんいるのにですか?」
ミコトの疑問に、ギルバートは丁寧に答える。
「タレース王国の貴族は、愛人がいることが普通なんだよ。たくさんいるのは、それだけ財力があるからだ。つまり、愛人がたくさんいることが、自慢なんだよ」
「貴族には愛人がいるのですね…。ギルバート様も?」
ミコトが悲しそうに聞く。
「おっ、俺はザガランティアの下級貴族の三男。妻は一人と決めている!」
ミコトの目を見て答えるギルバートに、ミコトの顔が赤くなる。そして、ギルバートも。
「はいはい。お前たちのことはいいから!コレット、その後、どうなったんだ?」
タイジュが、コレットに話の続きを促す。
「はい。その後はデヴァルにばれないようにこっそりと、娘のことや強盗のことを調べました。私はデヴァルの愛人として、デヴァルの屋敷のひとつに軟禁されていましたので、調べられることは限られていましたが、じつは強盗はデヴァルの指示だったこと、娘がマダムの館でスパイとしての教育を受けていることを知りました」
コレットはギルバートの方を見ると、ツラそうな顔をする。
(スパイ?コレットは何を言おうとしているんだ?何か嫌な予感がする…)
「ギルバート。娘は今年28歳。貴方の屋敷にいるアンナは私の娘、ソフィーナなのです…」




