表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/32

9話 正体

 

 女は慣れた様子で部屋に入っていく。中には男がひとり。商人のような格好をしているが、騎士だろう。


「上手く映像を送ってきてるな。あの男の変装は下手だなぁ。オレでも騎士だって、分かるぞ。なあ、エル」


 精霊球が送ってくる映像を見ながら、タイジュはエルに話しかける。


「マスターにも分かりますか?あの男、身体の使い方が武人ですね。かなりの剣の使い手でしょう」


 一緒に映像を確認しているエルも、同じ感想だ。あの男はどこかの国の騎士に違いない。


「女が欲しくて来たって感じじゃないしな。当たりかな…。しかし、音声が聞けないのは痛いなぁ。まだまだ改良が必要だな」


 部屋に入るとすぐに、女は男に指輪を見せた。そして、グラスをふたつ用意して、酒をつぐ。祝杯ってことだろうか。女は高笑いしている。嬉しくてたまらないという表情だ。


「作戦が成功したから、喜んでるってことか?それにしても異様な光景だな」


「男が依頼主かと思いましたが、そういう感じではないですね。あの女自身が殺しを依頼した、ということでしょうか」


 男は指輪を確認すると、高笑いする女に何かを聞いた。しばらく会話を続けた後、女は慣れた感じで胸を押し付け、男を誘いはじめた。ここはそういう宿。何もないのは、周りも変に思うのだろう。


 が、男は相手にしない。女のことを、汚いものを見る目で見ている。そして男は女に指輪と金を渡すと、早く出ていけという手振りをした。


 女はそれを受け取ると、憮然とした顔で部屋を出る。そして階下で、宿屋の親父と少し話すと宿を出ていった。


「『あの男、私のことはお気に召さなかったみたい。帰るわ』『そうかい。こんなに美人なのにな。この街には最近来たのかい?また今度呼ぶから』、そう言っているようです」


「お前の能力って便利だなぁ」


「部屋の中の会話は無理ですが、この距離ならば、聞き取れます。夜ですから」


 エルは精霊種。ヒトには無い能力がある。特に夜になると、視覚や聴覚が鋭敏になる種族だった。


「精霊球は時間切れだ。これ以上、稼働できない。オレはあの女を追う。エルはあの男を追え。いいな!」


「わかりました。が、マスター。十分気をつけてください。───もう探すのはイヤです…」


 何度転生しても、エルはセシルを探し当てて、従者を続けてくれている。そんなエルと、こんなに長く離れていたのは初めてだった。長命な精霊種にとっては、16年はあっという間だったのかもしれないが、精神的に堪えたのだろう。表情が曇っている。


「大丈夫だよ。一応、剣は使えるし。この世界でやるべき事があるから、それまでは死ねないしな。それにあいつらも…。───いや、何でもない」


「わかりました。では、行ってください。わたくしは男を追います」


 タイジュは、女の後を追った。




 宿屋からしばらく行くと、あまり大きくない2階建ての建物があった。アパートのような建物だろうか。何人かが住んでいる気配がする。女は迷うことなく、そこに入っていく。


(ここは売春斡旋の本部か?それにしても、あの女の動き…。素人じゃないな。誰かに鍛えられた動きだ)


『そうね。それに、あの女はバートン商会、特に店主に関係しているのかもしれないわ。指輪の実物を知っているようだったし』


(それは、オレも思った。でも、今の店主は信用できそうだった。歴代の店主も裏切るようなヤツはいないと思うぞ)


 女の正体について心の中で話し合っていると、セシルが声をあげる。


『───あっ!出てきたわよ!』


 しかし建物から出てきたのは、地味な服装の真面目そうな女性だった。動き方も清楚で、どこか気品を感じさせる。


「人違いだろ?」


『いいえ、絶対あの女よ!女は化粧で化ける。あの男たちと酒場で2回も会う約束をしたのは、正体がバレないって自信があったからだわ!』


 タイジュは再び精霊球を起動する。精霊球は一度登録した人物を特定することができる。化粧には誤魔化されない精霊球が、反応した。あの女で間違いないようだ。


「マジか!女って怖いな…」


 タイジュはそう思いながら、地味な女を追いかける。女は貴族の屋敷が建っている区画に歩いていくと、ある屋敷に入っていった。


 タイジュは屋敷の家紋を確認する。


「ここの紋章って…。まさか…」


『この紋章はブロア家。例の下級貴族の三男、ギルバート・ブロアの実家よ』


 タイジュは、女が出てくる気配がないのを見届けてから、その場を後にした。





 次の日の遅くに、エルが帰ってきた。ずいぶん遠くに行っていたようだ。


「どうだった?」


「あの男は隣国タレースの中級貴族に仕える騎士団の者でした」


「隣国タレースの貴族の私設兵?なぜ、そんな男が?」


(ザガランティア王国の下級貴族とタレース王国の中級貴族が繋がってる?しかし、バートン商会のカネが流れているのは、タレース王国の上級貴族だ。どうなってるんだ?)


「これは詳しく調べる必要があるな…」


 バートン商会に入り込んだ虫の正体は、意外と複雑なのかもしれない。面倒なことになりそうだと思ったタイジュは、思わず「メンドクセー」とつぶやいていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ