異世界のハズレ勇者とダークエルフの第二の人生4
それは吟遊詩人が村にやってきたときに聞いた話でな、若い人間の吟遊詩人だった。吟遊詩人ならば特別に村に入れて一晩泊めてやるのがルールだった。
吟遊詩人なんてしょっちゅう来るものではないから、私は勿論、病気で寝付いた子どもは騒ぎ出すし、鍛冶屋の大旦那までもソワソワしていた。
雪がほとんど降らないとはいえ寒い冬、村一番の屋敷で火を焚いて、そこに村人全員を集める。吟遊詩人をもてなす茶、あとはちいさな子どもに配る菓子ぐらいを用意して、やっと開演だ。
私達はダークエルフだ。外部との交流は少ないが、それでも定番の「王子の冒険」「姫の婚約」「貧乏人が富豪になる話」は伝わってきている。
そんな私達に、若い吟遊詩人は「各地の民話を一つにまとめた創作話」だと言って話を聞かせた。
内容は簡単、罠にかかった狐を助けてやった男に恩返しをする狐の話だ。さっきのごんぎつねのように狐が人間のような感情を持って行動している話で、最後に狐は自らの化ける力を使って男を富豪に、じつはメスだった狐は男と結婚する、というものだ。
今ふと気がついたのは、あのときの吟遊詩人は新人で、登場人物の名前を間違ったり、話を前後させてしまうことがあった。
それでも終わった後全員が拍手したし、今でもあの物語と語り手は幸せな記憶の中にある。
人間ではなく「ダークエルフ」の昔だ、もう新人も生きてはいまい。
「吟遊詩人。昔話をするNPO、とかとは違うんだろうな、どういうんだろう?」
「言うなれば吟遊詩人は役者であり物語作家であり歴史の記録語り、といったところか」
「……そんなプロと比べられたら、わたしなんて」
「あの吟遊詩人はヘタだった。じゃあ何故私はその吟遊詩人に感動したりしたのか、考えてみろ」
どう考えたって、「話が面白かった」「他の人のリアクションにつられて」くらいだろう。
的を射ぬ、考えもまとまらぬ葵に、
「つまり、吟遊詩人が来て話を聞くというのは人里はなれた場所に住む者にとって替えのない”娯楽”で”幸せ”なものなのだ。明日になればまた、寒い中豆をつんだり小さな獣を射殺す日常が待っている。春になる前に死ぬ病人もいる。そんな中その時だけは、村の誰もが楽しく夢を見ることが許される”非日常”だったのだ。獣が言葉を発しないことなど知っている。真ではなくとも、真でないからこそ”非日常”は全ての者の心を揺り動かすものだ」
「お祭り、みたいなものですか?」
「そうだ。それを貴様に感じた。異世界の知識をもつ貴様が、まるであの日の吟遊詩人のようで………」
続く言葉を待った。
「帰れない日常に帰りたくなってしまう」
女の声に、なんともいえない暗いものが混じった。
人と魔族が共存できなかった世界。
「モンスター」と「魔族」を区別出来なかった人々。
人と離れ、闇の魔法を使うダークエルフはその混沌に巻き込まれた。
今は確固として「モンスター」が定められ、意味もなく魔族が襲われることはなくなったが、すでに起きたことは戻しようがない。
「モンスター」の住処だと糾弾されて燃えた村。
その炎を食いに現れた「モンスター」によって、東の村はただの木屑まみれの隙間となった。
火付けの人間を斬り殺しても、モンスターには対抗手段がない。
生き残った村人は散り散りになった。
その一人が、彼女だ。
「私はな、他の村の様子を見に行った。西の森、北の山、交流があるのはそれくらいしかなかった。けれどどこも、私たちと同じだった。モンスター扱いをされて住処を追われた北の山の一族、モンスターとバグによってあとかたなく消えた西の森。生き残りで何をしようにも、まだ住む場所もなく財産も置いたきりではな」
「モンスター、扱いを」
「そうだ。人間、魔族。この2つが何度も魔王だ勇者だと争っていた中、白い肌したエルフたちは人間の味方をした。当時はエルフとダークエルフは敵対していたのでな、ならばこちらはと魔族についてやったのだ。お互い、技術提供、強い者を貸してやるくらいの対応で、エルフもダークエルフも味方した勢力に服従したわけではない。だが、こちらがそのつもりはないのだと言っても周りがどう解釈するかは別の問題だ」
「魔族はモンスターだと思われて、ダークエルフは魔族の一部だと思われて、ってことですか」
「ああ。人間の敵は魔族だった。今は全ての生物の敵がモンスターなのだが、なかなかうまくはいかぬようだ」
「普通敵が一緒だったら協力しあえそうなのに。それほど敵対心が染み付いているんですか?」
「敵対心を抑えて協力しあっているというのが本当のところだろうな。モンスター退治のためであっても、他の種族の縄張りに入るのは避けるだろうし、それは懸命なことだ」
地球の人種、国境問題みたいに複雑なんだろうか?
「とにかく、そんなことも”影の村”に行けば色々な意見を聞けるだろう。あの森で夜を明かすなど、私はしたくないからな」




