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25 村の墓地にて

 ベラの両親の葬儀は淡々と進められた。

 あらかじめ掘ってあった一人用の墓穴を墓守が拡げ、そこに二つの棺が収められる。村の司祭が祈りをささげ、供物と花が参列者の手で供えられた。

 ベラは日が暮れていく中、喪主としてあいさつした。


「みんな、今日はうちの両親のためにいろいろ尽くしてくれてありがとう。父さんも母さんも、畑のことで悩んで自ら命を絶ってしまった。だけど……エルザが、沼の魔女がその毒をなんとかしてくれた。ありがとう、エルザ。これからは、村のみんなと一緒にまた頑張っていこうと思う」

「ベラさん……」


 わたしはベラの言葉と、みんなからのあたたかい視線を受けて、はずかしくて下を向いてしまった。足元のカンテラがみんなの影を周囲に長く伸ばしていた。


「じゃあ、そろそろ()()()()()だ。父さん、母さん、ありがとう」


 最後にベラが花を一輪ずつ棺の上に置くと、墓守がその上から土をかぶせはじめる。

 時間ももう遅いので、ひとり、またひとりと人が去っていった。

 あとに残ったのは墓守と、司祭の神父様と、ベラ、ネストルの四人だけ。


 わたしは墓地全体を見渡すと、こっそり神父様に話しかけた。


「すみません。少しだけお聞きしたいことがあるのですが」

「おお、魔の者よ……!」

「いえ、あの……」


 神父様は先ほどからちらちらとわたしを気にされていたが、近づくとさすがに恐怖したのか神に祈りはじめた。唯一神・サイラスを信仰するサイラス教は、この国ではほとんどの人が信仰している。


「うう……」


 まずい。神への祈りが通じはじめたのか、若干具合が悪くなってきた。


 わたしが人として生きていた七十年前には、たしかドロスという名の神父だったはずだ。だが当然いまは違う人間に代替わりしている。名も知らぬ神父様に、わたしはもう一度あらためて話しかけた。


「あの、わたしは元は、人間で……。今は、村の図書館になっている……屋敷に住んでいた、男爵の娘、なんです。エルザと申します。その、父は……父のフレデリック・トードストーンはどこに、埋葬されているのでしょうか。こちらの墓地には……墓がありますか?」

「えっ、フレデリック・トードストーン……? それは、この地にかつていらっしゃった男爵、フレデリック卿のことですか?」

「そ、そうです……」

「し、失礼いたしました! そのお方のお墓でしたら、あちらに!」


 神父様はすぐさま祈りを止め、わたしを父の墓のある場所まで案内してくれた。


「遅ればせながら……わたくしはテオと申します。もう十年ほどこちらの村の教会に従事しておりますが、あなたのような魔の者……いえ、魔女ですか、そういった方にはその間お会いしたことがありませんでした。唯一は、王都の宮廷魔法使い、リフューズ様ぐらいでしたか。あとは修行の際に、対面させられたスライムぐらいで……」

「まあ、こんなカエルの顔をしていますし、驚かれるのも無理はありません」

「本当に失礼いたしました。森の奥の底なし沼にて、魔女として生まれ変わられたとお聞きしましたが、不思議なこともあるものですね。あ、こちらです」


 神父様が持つカンテラに照らし出されたその墓は、わりと大きい石でできていた。ジェイド様のものほど豪華ではなかったけれど、それでも立派ないでたちだ。

 フレデリック・トードストーンここに眠る、と石には刻まれている。

 亡くなったのは六十年前――。

 奇しくもジェイド様と同じ年だった。


「ああ、お父様……」


 わたしはその墓の前でひざまずき、静かに祈りをささげる。

 周辺にはちょうどいい野花がなかった。もしあったとしても、わたしが触れたらまた枯らしてしまうだろう。だから、お祈りだけ。


「お父様、こんなに長い間留守にしていてすみませんでした。わたしはあのとき……もう生きていかれないと思ってしまったのです。それなのに、お父様はずっとずっと、わたしの帰りをあの屋敷で待っていてくださったのですね。命を絶った愚かな娘を、どうかお許しください」

「エルザさん……」


 テオ神父が、わたしの告解にも似た父への謝罪を、そばでじっと聞いていてくれる。


「わたしは……森の奥の底なし沼で死に、そして先日の流星群の魔力によって、このような姿の魔女に生まれ変わりました。もはやかつての、あなたの娘ではありません。ですので……これからは、新しいわたしとして生きていきたいと思います」

「エルザさん……。エルザさん!?」


 テオ神父の並々ならぬ呼び声にまぶたを開けると、胸元の碧色のブローチがまた光り輝いていた。どうしてこの状況で光ったのだろう。テオ神父は、その光で照らされているであろうわたしの顔をまじまじと見つめていた。


「ど、どうしました?」

「いえ……エルザさんのお顔が、人間のお顔に、戻られているんです。そ、そういうお姿でいらっしゃったんですね……」

「ええっ!?」


 あのときと同じだ。王城の蔵書室で、ジェイド殿下の前でだけ、元の人間の姿になっていた。あのときもこうしてブローチが強く光り輝いていた。


「ああ、エルザさんのお父様が……ようやく笑みを浮かべてらっしゃいます。私の愛娘はきっとどこかで生きている、いつか必ず帰ってくると、信じていたと――」

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