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23 ジェイド様の魂の行方

 わたしの「問い」に、リフューズは言いよどんだ。

 ジェイド様の魂があるとかないとか、どうして「いち魔法使い」にそんなことがわかるのだろう。そして、もし「いない」のならば、あの方の魂はどこに行ってしまわれたのか。

 わたしが心底切実な思いで見つめていると、宮廷魔法使いはようやく口を割った。


「人間は――通常死ぬと、時の経過とともに『生まれ変わり』がいつか起きる。けど、なんらかの条件が重なるとその『生まれ変わり』は起きなくなる。君のようにね……。この公営墓地に眠る遺体はすべて『生まれ変わり』が起きないよう、特別な儀式を済ませたものばかりだ。それは死後生まれ変わりたくない、ずっと子孫をここから見守っていたい、そのような希望者のためだ。だから、ジェイド一世の魂も、そのようにしてずっとここにあるはずだった」

「それが、どうして……?」

「わからない。ちょうど二十年前にジェイド一世の魂がいなくなっていることに大司教が気づいた。でも、どこに行ったかはわからなかった。なぜきちんと儀式をしたのに魂が離れてしまったかも……。考えられるのは、なんらかの手違いが原因でもうどこかの誰かに『生まれ変わり』をしているかもしれない、ということだった」


 ジェイド様が、生まれ変わっている?

 だから、もうここにはいない?


「そんな……」

「だから、花を供えようが、墓前で語り掛けようが無意味なんだよ。残念だったね」


 ジェイド様が――。

 もうとっくに生まれ変わられていて、新しい人生を歩んでおられて、さらに幸せでいてくださっているのなら、それでいい。

 なぜかわたしが魔女として生まれ変わって、カエル顔になって、毒の体になっているなんて、知られなくていい。

 あの方が、どこかで幸せでいらっしゃるならば。


「わかりました。いろいろと教えてくださってありがとうございました」


 わたしはお礼を述べつつ、そろそろこの場を辞することにした。場に残った毒の痕跡をドレスの裾で片づける。

 リフューズはばつが悪そうに言った。


「君は、これからどうするんだい?」

「ひとまず住処である沼に帰ります。またどこかでどなたかが困っていたら、手助けをするかもしれませんが。この毒の体にだけは気を付けます。ご指摘いただきありがとうございました。助かりました」

「いや……」


 そういうつもりで試したわけじゃないんだけどな、とリフューズが頭をかく。

 ネルブスはようやく落ち着いた様子で、わたしに労いの言葉をかけてきてくれた。


「なんというか……強く生きろよ。元が人間で、今はカエル顔の魔女って……おれがお前の立場ならちょっとどういう身の振り方をしたらいいかわからないと思った。でも、お前にはそうなった意味が必ずあるはずだ。おれにもおれの意味があるように」

「はい、ありがとうございます。ネルブスさんもお元気で。それでは、」


 ごきげんよう、とカーテシーをしてわたしは墓地の上空へと舞い上がった。

 そして、西の、わたしの住む沼がある森へ――。



 ※ ※ ※



「行ってしまいましたね、リフューズ様」

「ああ。そして、また僕の【拒絶の結界】をいとも簡単に突破されてしまった……。宮廷魔法使いとしてこれは、恰好がつかなさすぎるね」

「だからそれは、あの者が魔の者ではないからでは?」


 【沼の魔女】が去っていった空を、墓守と魔法使いは見上げていた。

 墓守はどこかホッとしたように、魔法使いはどこか悔しそうに見ている。


「そう、なのかもしれないけどね。それはあの魔女が半分人間だからだよ。でももう半分は魔物だ。そして、主人格があのエルザという人間なだけで、今後その魂が変質しないとも限らない。非常に危うい存在のままだよ」

「そうなんですか」

「今は、魔の者ではない。でも今後の成り行き次第では魔の者に傾くかもしれない」

「そうなったら、次は結界が有効になりますか?」

「そうだね」


 魔法使いは木の杖を振り上げて、墓地の上空に結界を張りなおした。

 白い光の膜がうすく空に広がっていく。


「【沼の魔女】が沼で生まれたように。この墓地にも、魔力の流星が落ちてきたら、同じような魔女や魔法使いが生まれてしまうだろう。そうならないように、僕は長年この場所に結界を張りつづけてきた。『来るべき日』のために――。それまで、ネルブスもここを頼むね」

「はい。それは……たしかに承っております。えっと、長年って……リフューズ様っておいくつなんでしたっけ」

「言わなかったかな? ジェイド一世より何代も前の国王の時代から仕えてきたんだよ。僕が魔法使いとして生まれたのは……そうだね、この間の流星群の、前の、そのまた前の流星群のときだった」

「え、じゃあ……」


 ざっと二百年前だね、そう言って、魔法使いは姿を消した。

 墓守は急に消えたことに驚きつつも、いつまでも慣れないな、と自嘲した。そして王家の墓の木立の外に出て、鉄柵の鍵をまた閉めた。


 今日もまたひとり埋めなくてはいけない。

 その予定地の穴を掘りに、墓守はシャベルを担ぎ歩き出した。

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