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2 子どもが少ない国

 わたしは、本来ならばジェイド様とお近づきにすらなれない身分の娘だった。

 男爵家の令嬢など、王族の結婚相手としては不足もいいところだ。しかし貴族の中で歳が近く、さらには女子である子供など、この国ではわたしくらいしかいなかった。


 この国ではそのそも子供の数が少ない。

 

 それゆえ、必然的にわたしに白羽の矢が立ったのだった。

 結果的に仲良くなれたからよかったが……相性が悪く、遊び相手としてすら務まらない可能性もあった。


 この国でなければ、きっとお会いすることのなかったお方。

 その方と十数年もともにいられたのは……奇跡だった。


 お父様はわたしたちの婚姻によって、男爵以上に家の格が上がることをひそかに期待されていたようだった。しかし、その夢も潰えた。

 我が家の跡を継ぐ者は、わたししかいない。

 家を盛り立てるには、このありがたすぎるお役目を遂行するしかなかったのだ。

 ……それなのに。


 お母様はわたしを産んでしばらくして亡くなられていた。

 お父様はお母様を愛しすぎていたために、後妻を迎えられることもなかった。

 よって、我が家にこれから嫡子が増えることはない。


 この国では、不妊・不育が蔓延していた。

 子ができる方が奇跡であり、無事に産まれる方が奇跡であり、産んでから母子ともに生きつづけることもまた奇跡であったのだ。


 どうして、そうなるのか。

 学者によるとそれは、この国の大地がケガレているからだという。


 昔からこの国では、さまざまな鉱物が土中から産出していた。

 わたしたちはそれらを他国に売り、生き延びてきた。しかし水や作物だけは遠方から入手することは困難だった。それらに汚染されたものを必然的に摂取しなければならない我々は、病んだ。そして――。


「しばらく、ひとりにさせてください……」

「エルザ……」

「失礼……します」


 わたしはふらふらと父の執務室を出た。

 これからどうすればいいのだろう。

 ジェイド様を忘れて、ジェイド様が望んだように、別の幸せを求めないといけないのだろうか。この家に、「婿」を呼んで?


 貴族の中で、他家に出せるほど余っている子息はいない。

 しかもうちは男爵家だ。ここまで下りたいと思う者もまた少ないだろう。であれば、庶民の家からもらうか。はたまたジェイド様のように、他国から相手をもらってくるか。


「ジェイド様……」


 どちらにしろ、ジェイド様以上の方はもう現れないような気がした。

 この人生は、これから「諦め」と「妥協」との日々になる。あんなきらめく日々はもう二度と訪れない……。


 自室の方へ行こうとして、なぜか玄関の方へ足を向けた。

 ふらふらと、そのまま屋敷の外に出る。

 外は信じられないくらいによく晴れていた。


「ジェイド様……」


 雲一つない青空を眺めていると、ジェイド様との思い出が様々に思い浮かんでくる。


「これから、どうしよう……」


 そういえば、少し離れた森の奥に、深い深い底なしの沼があると聞いたことがあった。

 なんでも、近所の人は不要なものをすべてそこに捨てているのだとか。


「不要なもの……」


 それは――わたし自身だ。

 この身こそが一番不要なもの。

 わたしはその底なしの沼があるという森の方角へ、ゆっくりと歩きはじめた。

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