エピローグ
それからつつがなく、一学年前期課程を修めた。
乙女ゲー<マジカル・オブリュージュ>でも、世界観の紹介や攻略対象との交流がメインでほとんど平和だった。後期では、立ち向かう巨悪の伏線や不穏な空気が流れてくるらしい。
まあ、白名井真奈は倍速&スキップ勢ゆえ全部凛子の受け売りなんだけどさ。
悪役令嬢が午睡にうつつを抜かすのはここまで。本格的に主人公を虐めてやるぜ。
原作再現すると、アンジェリカ破滅しちゃう。公爵家令嬢は忍耐と自重を嗜みましてよ。
転生してから、数カ月……正確に言えば、記憶を取り戻して、か。
「あたしの人生、マナーに振り回されてばかりだったなあ」
カリスママナー講師のパワハラのおかげで、異世界くんだりまで訪れたにもかかわらず、謎マナーに付き合わされる羽目になったでしょ。マナー魔法とか、おかしいじゃん。
――マナーとは、相手に気持ちよく接するための礼儀作法。
こんな当たり前のことを教えてくれたのは、カリスマが定めた枠組みの外にいた女の子。純粋な彼女の思いやりこそ優しさだと気づかされた。
だから、あたしが真のヒロインを導いてやるなんておこがましい。
「アンジェリカ様! 長期休暇、予定はありますか?」
「そうですわね。一度帰省しようかしら」
カフェテラスでヌン活。
以前披露した茶芸の噂を聞いたらしく、Cクラスのメンバーに体験会を懇願された。精一杯伝授して喜ばれたものの……友達はできましたか? ぐすん。
「ではしばらくご一緒できませんね」
「ルミナさん。前にも言いましたが、生徒会メンバーと交流を深めなさい。将来、あなたの力になりますわ」
「はい……」
ルミナが表情を暗く落としていく。
乙女ゲーの主人公なんだし、イケメンと楽しくすればいいじゃん。
悪役令嬢、全然邪魔しないけど? お気に入りが決まれば、応援しちゃうぞ。
あたしは、メインストーリーをなぞらない宣言をした。でも、使えそうなレールは引っ張ってくればいいでしょ。攻略対象はルミナと幸福を分け合う存在なのだから。
「わたしはその、欲張りなんです。最近、我慢が全然できなくて」
ルミナが辛抱足りないん? わたくし、贅沢で肥えまくりじゃん。
あたしのトングは、チーズケーキの次にモンブランとバナナクレープとプリンタルトへ狙いを定めていた。どうも、スイーツ別腹令嬢です。こればっかりはジェントレス家の権力も通用しないよん。体感二キロ増、悲しいね。
「もっとアンジェリカ様のおそばで、立派な淑女になるために学びたいんです!」
腹回りの悲鳴をかき消すような、感情の吐露が向けられた。
急いでアンジェリカの仮面を被り、キリッとビターに甘味の誘惑を打ち切って。
「その言葉に偽りはなくて? わたくしの眼に誤魔化しなど通用しませんわ」
「はい、もちろんですっ。少しでも早く恩返しさせてください」
キラキラに満ちた瞳。流石、光魔法の使い手。LEDより眩しいなあ。
ふぅとため息を吐いた、あたし。羨ましい、これが若……青春を謳歌せし乙女だ。
「いいでしょう。ルミナさんも同行なさい」
「え、それって」
「あなたをジェントレス家に招待しますの」
「――っ!」
満開スマイルが華やいだ。
「ただし、これは礼儀作法を徹底的に指導するため。このアンジェリカ・ジェントレスを教育係に据えた以上、あらゆるマナー違反を見逃せません。お覚悟のほど、よろしくて?」
あたしが知ってるのは、謎マナー。理不尽、屁理屈、詭弁ばかり。
新社会人研修やマナー講習じゃあ、本当に大事な事など身につかない。
わたくしの背中を追いかけてくれるルミナには、完璧な反面教師として振舞おう。
願わくば、貴女がエレガントなレディになりますように。
<完>




