おまけ 異世界チートの裏側を支えた人
「めっちゃ苦労した、ほんと大変だって、ライのリクエストは毎回、鬼だよな。ほら、最初は…、海苔だったか。あんなもん、見たことも聞いたこともねぇよ、って言ったら作れ。って、普通、言うか?作らせたけど、今では潰れそうだった漁村の一大産業に成長したけど。あと、もち米。家畜の餌の中から条件にあった品種探すの、大変すぎて泣くかと思ったから。それから…、そうだ、お節の器。そもそもお節ってなんだよ、四角い器でなんだっけ?上品で高級感のある素材と色がいいって、わがままかっ。無茶ぶりすぎる、応えたけど!」
グレイがきゃんきゃん吠える横で、料理長に手伝ってもらいながらたこ焼きの準備を進めていた。
初めて作るため、庭でバーベキューと並行して作るよう準備している。
バーベキュー用の網とコンロもグレイに頼んで作ってもらった。腕の良い職人にツテがあるようで、大抵のものは試作品一回で、細かな点を直してもらう程度で完成品が届けられる。
さて、うきうきバーベキュー。人数が多いし、作りたい物も多いから、大きめのバーベキューコンロを三つ用意してもらった。
ひとつめはまんまバーベキュー、肉、野菜を適当な大きさに切って焼いていく。焼肉のたれは塩だれと甘辛の二種類を用意した。
ふたつめは四角い鉄板で焼きそば、丸くて浅い鉄鍋でパエリア。
最後、三つ目のバーベキューコンロにたこ焼きプレートを設置した。
たこ焼きと呼ぶが、この国の人達にタコは未知の食材…というか、サイズがおかしい。見上げるサイズのタコは私でも抵抗があるため、中に入れるものはチーズ、ソーセージ、唐揚げ。魚介からは貝とエビにした。タコとイカは非常識なサイズだったが、貝とエビはちょっと大きいかな、くらいのものもある。漁村では普通に食べられている。
最後はデザートとしてまん丸ホットケーキも焼く予定だ。
厨房チームに作り方を教えて、それぞれのコンロにバーベキュー奉行が誕生する。豪快なバーベキューを仕切る料理長、麺、ご飯ものを担当している副料理長、そしてたこ焼きはデザート担当の女性で、見習い達に指示を飛ばしていく。
さて、食べるぞーっ。
サクラの様子を見にレリアン様とフューイ様が来て、呼んでいないのにゼナード様もやってきた。ゼナード様は豪快に肉を焼くのが気に入ったようで、料理長とお酒を飲みながらうまい肉と酒談義。
レリアン様とお母様はたこ焼きが気になるようで、丸いフォルムに目が釘付けだ。
ジェイデンとフューイ様は焼きそばとパエリアを競うように食べている。この二人、炭水化物が大好きなんだよね。念のため準備しておいたおにぎりもすごい勢いで減っている。
フードファイターか。
サクラと私もまずはたこ焼き。サクラの背後にデレデレと表情を崩しているバーナード様がいるが、これは見なかったことにしよう。触れたら負けな気がする。
「嬉しい、バーベキューもやってみたかったの。ライラは凄いね」
「ううん。凄いのは道具を手配してくれたグレイと、それを形にしてくれる料理長と、資金を手配してくれるお母様」
厳密には私が興した事業からの収入で、その管理をお母様が一括管理して帳簿をつけている。いずれは自分でやる予定だが、今は次から次へとあがってくる企画書や報告書に目を通すことを優先しているためその暇がない。
「ライラはこのまま国境都市にいるんだよね?」
「そのつもり。ジェイデン様と結婚したら体質が変わって寿命が延びるらしいから、二、三百年、辺境伯夫人として働いて、子供が大きくなったらさっさと引退して趣味に生きるんだ」
お父様よりジェイデンのほうが年上だが、爵位は私の代に譲られる。ジェイデンが何歳まで生きるかわからないが、正直、百年でも嫌だ。責任のある立場は荷が重い。
「スクロールをもっと極めたいし、本も読みたいし、あと、旅行に行きたい」
「わかる。私も旅行、行きたい。この世界、絶対にとんでもない自然とか生き物とかあるよね」
見たい、見たいと話していると。
「旅行なら、いつでも連れて行ってやるぞ」
と、ジェイデンが私を抱き上げた。
「空路ならば早い」
「それは、そうなんだろうけど…。行くなら陸路でゆっくり回りたいな」
「しかし…、馬車での旅は疲れないか?」
そうなんだよ、ガタゴトで乗り心地、あんまり良くないんだよね。確かに疲れるが、空だと一瞬すぎてつまらない。
「なんだっけ、そーゆーの、ほら、馬車の揺れを吸収するヤツ。ないのかな?」
サクラの言葉に首を傾げる。
「揺れを吸収…。なんだったかなぁ」
「待って、転生でよくあるヤツだよ、えっと、サ、サス…、サペ…、サスペンダー!」
「いや、サスペンション」
思い出した。あった、あった、異世界転生あるあるのひとつ。でも、構造はよく覚えていない。
「板バネだったかな~、あれ、普通にバネでいいのかな」
見たような気はするが詳細を思い出せない。生きていた時代に馬車はなく車と電車は乗るだけで構造など知らない。
「板バネって?」
グレイに聞かれて、柔らかな鉄の板を二枚用意して、丸みをもたせて説明をする。
「こーゆーのを重ねて衝撃を吸収するの。あと、鉄の棒を円で…」
地面に枝で図を描く。
「これがバネ。クッションになるんだよ」
「なるほど、なるほど」
「でもどうやって馬車に使っていたのか、まったく思い出せない」
板だったのか、棒だったのか、バネだったのか。なんか、弓みたいな形のものも見たような?
いろんなバネの組み合わせかも。
「オッケー、問題ねぇよ、ともかく、こういった金属のものが衝撃を吸収して、使い方次第で馬車の揺れを抑えられるんだろ?原理がわかれば魔石でも代用できんじゃね?」
そうだった、こちらの世界には魔法があった。
衝撃吸収の魔法もあったね。
「魔法を何時間もかけ続けることは不可能だし、魔石で全部代用させようとしたら高価な魔石が必要になるが、その、バネってヤツに補助機能の魔石なら安く済むな」
「グレイ、天才、その通りだよ、やったね。じゃ、私が新婚旅行に行くまでによろしくね!」
サクラが『私も新婚旅行に行きたい!』と言い、今度は全員で『新婚旅行?』となった。
説明しよう、新婚旅行とは。
既婚者は『今からでも遅くないか?』と真剣に日程を検討し始め、未婚者は『そんなイベントがあるのか…』とかなり乗り気。バーベキューに参加していたメイド達や文官、騎士達がなんだかざわざわしている。
いいよね、新婚旅行、ラブラブ夫婦なら絶対に楽しめるよ。普段は泊まらないような洒落たホテルに宿泊して美味しいものを食べるだけでも記念になる。
きゃっきゃと盛り上がるサクラと私にグレイが叫んだ。
「鬼かーっ、間に合わせるけど、なんとか考えるけどっ、期限を区切るな、ノルマになっちまっただろーがっ」
数年後、ジェイデンと私は最新の馬車で海辺の町に向かった。二人で並んで座れる広さだが、ジェイデンの膝に乗せられて移動する。
新婚旅行ですからね、旦那様のお膝に乗るのにも慣れましたよ。もう、ベテランの域に達したが、私よりもたぶんサクラのほうがベテランというか、マスタークラス。彼女、バーナードがいると椅子に座れない。
怖いわぁ、ナチュラルストーカーの強化版。まさかお父様を超える男がいるとは。国の最高権力者だからサクラ以外、止められないし。
で、私に便利に使われてかわいそうなグレイだが、遅れて三年後、城のメイドの一人と結婚をした。犬獣人で仕事もできるし性格も一生懸命なとってもいい子。
結婚式は城内の教会で、披露宴も城のホールや庭を提供して盛大なものとなった。
可愛らしい新妻にデレデレしているグレイに声をかける。警戒した顔をしたので、期待に応えてあげましょう。
「でね、こんな感じの赤ちゃんのためのゆりかごが欲しいの。あとね、歩行器とベビーカーと…」
「結婚式当日に、仕事の相談か!?」
「急がないから」
「いや、遠慮しろ、今日は…」
本気で焦っているグレイに、リボンをかけた小さな箱を差し出した。
「ふふ、冗談よ、結婚おめでとう、グレイソン・ケイレブ商会長。これは私達夫婦からの結婚祝い」
ジェイデンの名で発行した金等級の通行証を渡すと目を丸くしていた。
そして。
「オレ…、あん時のオレ、マジで見る目あったなぁ…」
と、顔をくしゃくしゃにしながら笑った。
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