第91話。紅葉2「鴨の水掻き」ってどんなです?
『一人になりたい』
それはあの人にとって、かつての癒しであり、幸福であり……、今の私にとってのトラウマ……。
私はあの人を一人にしたくなくて、この世界に生まれることを志願した。自分の役目を勝手に投げ出した後ろめたさもあった。
(この人を一人にしてはいけない)
それは、私がこの世界に生まれて黒兄を見てから、ずっと漠然と思っていたこと。
黒助「なんか最近、無性に一人になりたくなるんだけど……」
きっと今回のこれは本気ではない。ただなんとなく前世の影響で、求めてしまっているだけだと私は思う。なんなら本当に甘えて言ってるだけなのかもしれない。一度、本当に一人にさせた方がいいのかもしれない。けど……、
(この人を一人にしてはいけない)
私のトラウマが何度も私にそう呟く……。
「よく分かんないけど、とりあえず一人旅でもしてみたらいいんじゃない?」――まりー
「そうだな、一度、黒助も外の世界を見てみるのも、いいのかもしれないな」――ゴルト
「ダメーーー!」
私は両親のその提案に、反射的にそう否定の声を上げていた。その後も私は否定し続けたけど……、一人旅と言う言葉に惹かれてしまった黒兄が、どうやら本気になってしまったみたいで、結局止めることが出来なかった。
ならばと! 私も一緒について行くと最後まで粘ったけど……、
「紅葉も一緒に行く! 行く!」
「いや、それだと一人旅じゃないし……、まぁ多分すぐ帰るから」
普段見慣れない私の駄々に、黒兄は困惑しているようだったけど、頑なにその私の駄々は聞き入れてくれなかった。そんなやりとりを何度も何度も続けた結果、私はとうとう渋々ながら引き下がった。
「もう黒兄なんて知らない! 何処へでも行っちゃえばいいよ! 私はヒロ兄もふって待ってるから! ヒロ兄のしっぽが禿げ上がらない内に帰ってきてよ! あと、お土産もね!」
少し熱くなっちゃった……。ヒドイ事、言ったかも……。
でもお土産は楽しみです。
黒兄は結局そのまま一人旅に出ていった。
シル姉が止めてくれないかなぁって期待したけど、それもダメだった……。シル姉は普段、がさつで豪快なのに、ここぞという時は、ホントにビックリするくらい奥手で繊細……。
黒兄の事が好きなのバレバレなのに、何を戸惑ってるの?
「だって……、私なんかが……、私なんて……、汚れてるし……」
あぁ……、シル姉の鬱スイッチ、入っちゃいました……。こうなるとホント長いんです……。普段からは本当に想像できないんだけど、なんていうか、シル姉の闇は深いです……。
「結局置いていかれちゃったし……、やっぱり私のことなんて……」 ぅ……
今回の鬱モードは特に濃い……。
本当はついて行きたかったんでしょうね。離れたくなかったんでしょうね。黒兄もこんな子、置いていかないで欲しいなぁー。
どうしよう……。
まぁでも私ではどうしようもないから。それ――シル姉――は放っておくとして、私は約束通り、ヒロ兄をもふります!
「ヒロくぅ~ん」 だきっ、もふもふ、もふもふ
はぁ~、ヒロ兄は私の癒しです。なんなのでしょう、このふわっふわで、もっさもさな尻尾は……、堪りません! そしてヒロ兄は、こんな醜い私の欲望をしっかりと受け入れてくれます。幸せです。大好きー! もふもふ、もふもふ。
「紅葉ちゃん……、今日、激しい……」
そんなヒロ兄の可愛らしい声につられて、そのあと、私のもふる勢いは増していきました。黒兄が居なくなっても、私にはヒロ兄が居ます。もっふもふです。もふもふ独り占めです。黒兄が帰ってきたら自慢しよー。きっと悔しがります。
……はぁ……、でもやっぱり早く帰ってこないかなぁ……。
私はもう、あの人が一人で居る所は見たくない……。
一人が好きになって欲しくない……。
一人に感謝して欲しくない……。
一人を望んで欲しくない……。
私が望むことは、望んだことは……、
私はあの人に……、
『誰かを愛して欲しかった』――ただそれだけ。
シル姉、本当に頑張ってよ! そんな隅っこにうずくまってないでさ……。
「私なんて……、どうせ……ぅ……」 ぅ……ぅ……
黒兄、お願い、早く帰ってきて……。
村人I「いもうと」 ――紅葉
村人F「フォックス」 ――ヒロト
村人Y「妖怪」 ――ヨウコ
つかれた~、休憩~。




