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空気少女のトラブルダイアリー  作者: しろまる
第2話:「決闘だ」? 私音痴なんですけど。
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(13)

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 私は、歯止めの効かなくなっている永井の言動から確信した事、それを確かめるために、机の上のグラスを物色していた。

 彼は確か、ピーチジュースらしきものを飲んでいたはず……あった。

 永井の飲んでいたジュース、まだグラスの三分の一ほど残っている。

 それに何だろう……色がおかしい気がする。

 上の方は淡いピンク色なのだが、底の方がオレンジがかった赤色に染まっている。


「失礼します! お飲み物をお持ちしました! 」


 不思議に思っていると、ドアを開けた店員が、何杯か注文したジュースを持ってきた。

 店員はこのカオスな状況に、一瞬戸惑った素振りを見せたが、そこは流石の接客意識、すぐにグラスを机に置いて、「ごゆっくりどうぞ〜」と言って退室していった。あ、あの…何かごめんなさい……。


「……なるほど、僕の素晴らしい唄に心惹かれた、というわけか…ふむ、頂こう」


 間の抜けた声を発しながら、真っ先にグラスを手に取る永井。中に入っていたのは、恐らくこれと全く同じものだ。

 慌ててグラスに鼻を寄せてみる。すると、頭がくらくらするような甘ったるい香りが、鼻を刺激した。


 この匂いは知っている……よく夜遅くに、母さんがリビングで飲んでいるのを見かける。

 ……グラスに入ってたそれは、ピーチカクテルだった。


 という事は、やはりコイツはこのカクテルを飲んでしまって、見事に酔っ払って今に至る、という事か。

 確かにピーチジュースとか、あまり見ないって印象だからなぁ。どうりで珍しいと思った。

 でも、何故ピーチカクテルがここに…? 店員が間違えて持ってきてしまったのか?


 いや、今更そんな事を言っても仕方ない。

 永井がこれ以上酔っ払って、被害を拡大させるのを防がなくては。

 私はパッと永井に向き直る。


「永井君ちょっと待って、そのジュース何か色おかしくなーーー」


 声を上げた時すでに遅し、永井はとっくにカクテルを一気に飲み干していた。


「……んぁ⁇ 」


 とろんとした目に、林檎みたいに真っ赤に染まっている頰、さっきより間の抜けた声…完全に"出来上がって"しまっていた。


「……えっと、そのピーチジュース? ちょっと変な味しなかった? 」


 酔っ払いがまともに応えられるはずはない、そんな風に感じながらもダメ元で尋ねてみる。が、案の定、私の問いには応えなかった。

 ぷいっとそっぽを向かれ、再び高らかに叫ぶ。


「覚えておけぇ愚民どもぉ! この腐りに腐った世界は、この僕が変えてやるのだぁ‼︎ 果てしなく続く銀河ごとなぁ‼︎ ッハーハハハハハ‼︎ 」


 いよいよ訳の分からない事になってきた。酔っ払ってもこういった厨二的なとこは変わらないのな。


 側にいた人たちは、自分たちが怒り狂っていた事もすっかり忘れ、突如おかしな事を語り始めた永井に

絶賛ドン引き中だ。

 そして、フラフラと不安定な足取りで、何故か私の方に向かってきた。

 そのまま私の手首を力強くグッと握ると、


「いひか貴様らァ、ここから先は僕と水園(みほの)のもんらいら、もひ口を出ひた奴は……どうなっへひまうのか……恐怖に怯へて眠るがよひぃ……」


 くらくらしながら、謎の宣言をした。

 最早完全に呂律が回ってない。酔っ払いより酔っ払いしてるよ。

 周りの皆が「言われなくとも口出さねーよ」と言わんばかりに呆れ返って、その様子を眺めていた。


「さへ…けっほうを再開ひようか……」


 呂律の回らないまま言われた途端、腕がグッと引っ張られた。


「えっ⁉︎ ちょ、ちょっと‼︎ 」


 永井が室内から出ようとドアに向かったのだ。

 私は混乱しながらも、席からバッグを手に取り、財布から私と永井の2人分の料金を、目を丸くしている冬架に渡した。


「ごめん冬架さん、これ払っといて」


「えっ、あ……うん、分かったけど…マナちゃんもう帰っちゃうの? 」


「うん、何かそんな流れっぽいし…あとは皆で楽しんでくれれば」


 元々、隙を見て途中で帰るつもりだったし、引っ張られる事に対して抵抗はしなかった。

 皆が唖然として私たちを見守る中「ばいばーい! 」と空気の読めない明るい挨拶が一つ聞こえた。

 私はそれも無視して、ふらつく永井に付き添うようにして、カラオケ店を後にした。


 ☆★☆★☆★☆★☆


「に〜ひか〜らの〜ぼっ〜た おひはまが〜」


「ちょっ…永井君! ここもうカラオケ店じゃないよ!

ほら、皆こっち見てるし! 」


 通行人に白い目で見られながら、相変わらず酔いが醒めない永井に肩を貸す。


「あーもう……何で私がこんな…」


 何気なく腕時計を見てみると、針は8時40分を指していた。

 もうこんな時間なのか……まぁ2時間コースだったしこんなもんかな。


「あっほら、あそこベンチあるから! 一旦休もう! 」


 タイミングよく見つけた木のベンチを指差し、何とか永井を誘導する。

 意外とすんなり従ってくれて、無事ベンチに腰掛ける事に成功。休むだけでこんなに苦労する事って普通あるか? 思い切り損してる気分なんですが。


 しばらくの間、特に会話を交わす事も無かったが、


「水園……」


 最低限、呂律は回るようになったらしい永井が、

消え入りそうな声で私を呼ぶ。

 返事はせずに、項垂れている彼の横顔を見る。


 コイツって、黙ってればそこそこカッコいいと思うんだけどなぁ。性格とか言動で損しまくってるよね。

 ……タイプかと言われると、そんな事はないけど。

 そんな事を考えていると、次の瞬間、


「マズイ、出そう」


 何の前触れもなく、永井が口元を押さえて言う。

 顔面が急激にサーッと青ざめた。

 この状況で出るといったら…十中十アレだろう。


「ああああああ‼︎ ちょっとここで出さないでよ⁉︎ すぐ近くにトイレあったはずだから、そこで‼︎ 」


「無理、出る、終わった」


「ちょっとくらい我慢して‼︎ ほらまだ間に合う‼︎ 」


 慌ててトイレの方に引っ張っていった。

 勢いに圧迫されてか、道行く買い物客が次々と飛ぶように避けていく。

 こんなに大声出したの、いつ以来だろうか……。


 周囲の人々にヒソヒソと噂され、腫れ物を見るかのような目を向けられながら、私たちは一番近くにあったトイレに駆け込んだ。

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