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空気少女のトラブルダイアリー  作者: しろまる
第2話:「決闘だ」? 私音痴なんですけど。
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(7)


 結局、この日は全く授業に集中できなかった。

 HRの時間も、ずーっと頬杖をついて、担任の連絡が頭に入ってこなかったのを覚えている。

 集中するべきなのは承知してるつもりだけど、どうしても気持ちが向かない。

 今日一日ずっとコレ。自分でも心配になってくる。




「お前は不思議なチカラの持ち主……そうだろう? 」


「一目見た時から感じたんだよ……お前はタダ者じゃないとな……」


「会長の僕の右腕として、この腐った世の中を変えていこうじゃないか! 」


「いつでも、生徒会に歓迎してやるぞ」




 脳内では、含みのある言い方で語りかけてくる、永井の声が繰り返し再生されている。

 ……バカバカしい、何が不思議なチカラだ。

 そもそもの話、ああいった役職とかって、自分から立候補した人がやるものじゃないの?

 私みたいに、やる気無い人が無理矢理やっちゃった場合は、それこそこの学校が終わりそうなんだが。


 昼は何とか切り抜けられたからいいけど、これから会う度に話を蒸し返されそうで嫌だなぁ。

 ……やっぱり関わりを持たないのが一番なのかな。


 ☆★☆★☆★☆★☆


 明日は土曜だし、久々にゆっくりできる。

 帰ったら、買って以来放置してる推理小説でも読もうかな。

 そんな事を考えながら、階段を下り、昇降口を抜けると、


「あっ、いたいた。マナちゃーん! 」


 ふと、私の名前を呼ぶ、聞き覚えのある声がした。

 振り返ってみると、茶髪のゆるふわボブヘアーが、視界にすっと映った。どことなく、シャンプーのいい香りがする。


「冬架さん」


 冬架は「えへへ〜」と笑顔を浮かべながら、首筋の汗をハンカチで拭う。可愛い。


「探したよ〜。マナちゃんすぐ教室出て行っちゃうんだもん」


 笑顔を保ったまま、冬架が続ける。かと思えば


「……今日どうしたの? 授業中ずっと幽体離脱してたみたいになってたけど……何かあった? 相談したい事あるなら乗るよ? 」


 心配そうに、私の両手首を優しく持ちながら、私をまっすぐに見つめてくる。

 こんな美少女にされてしまったら、大多数の男子はイチコロだな。

 ……流石に幽体離脱はしてないけど。


「いや……大丈夫。ちょっとした考え事」


 変に心配はかけたくない。

 それと個人的に、あの厨二病生徒会長の話はしたくない。

 無垢な彼女を、あの悪魔の毒牙にかける訳にはいかないからだ。


「あっそうだ! そんな事より……」


 思い出したように、手をポンと叩いた冬架。

 こういう時は決まって、私が何かしら面倒なことに引きずり込まれる風潮がある。本人に悪気は無いんだろうけど。


「あのね、今日クラスの皆でどこかに遊びに行こうかなって話ししてたんだ〜。よかったら、マナちゃんも一緒に行かない? 」


 ……ほら来た。

 

「……いや、私はいいかな」


 冬架から目を逸らしながら答える。

 いくら彼女の頼みでも、今日は溜まった推理小説を読み進めるという予定があるのだ。

 これは決定事項。冬架さん、私なんかより他の人を当たってくれ。


「そんなぁ〜、一緒に行こうよ? 確かにマナちゃん、休みの日もずっと引き篭もってそうなイメージだけど……たまには遊びに出てもいいんじゃない? 」


 オイ、今さらっと失礼な事言ったな。まぁ事実だし否定する気もないけど。


 そもそも遊びに行くってどこへ? 場所にもよるが、どのみち私は目立つような事はしたくない。


 しかし、彼女なら分かってくれるだろうなと思っていたが、まさか粘られるとは思ってなかった。

 曖昧な返答ばかりで、キッパリとした答えを出せないでいると、


「……私、マナちゃんの事、もっとよく知りたいんだけど………ダメ、かな? 」


「……っ⁉︎ 」


 両目に少しだけ涙を浮かべ、小動物のように上目遣いをしながら頼む冬架。きゅるんとした子犬のような瞳が、じっと私を見つめる。

 こんな美少女にされてしまったら、大多数の男子は可愛さのあまり、鼻からの出血多量者が続出しそうだな。


 ってか私一人を誘うためだけに、わざわざここまでやるか⁉︎ 諦めて他の人誘えば済む話なのに……。


 冬架の可愛さに圧倒されるあまり、すっかり反応に困ってしまった私。

 しばらくして冬架は、たじろぐ私からピョンと後ろに離れ、


「ふふっ、それじゃ待ち合わせ場所と集合時間はまた連絡するから、よろしくね〜」


「……え? あ、ちょっと! まだ話はーーー」


 にこっと柔らかい笑顔を作り、手を振りながら

何も無かったかのように走り去っていった。

 ……涙は完全に引いていた。あの変わり様は凄い。

 私はただ、呆然と立ち尽くすのみだった。真夏の筈なのに何故かちょっと寒い。

 騙されたにしても、あそこまで完成度の高い演技をされてしまっては、非難の感情は一切湧いてこない、むしろ軽く賞賛までしてしまう。


 あの()……意外とやらかすな……。


 結局、誘いを断りきれなかった私は、何気なく空に浮かぶ入道雲を薄目で見上げ、大きく溜息をついた。

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