(7)
結局、この日は全く授業に集中できなかった。
HRの時間も、ずーっと頬杖をついて、担任の連絡が頭に入ってこなかったのを覚えている。
集中するべきなのは承知してるつもりだけど、どうしても気持ちが向かない。
今日一日ずっとコレ。自分でも心配になってくる。
「お前は不思議なチカラの持ち主……そうだろう? 」
「一目見た時から感じたんだよ……お前はタダ者じゃないとな……」
「会長の僕の右腕として、この腐った世の中を変えていこうじゃないか! 」
「いつでも、生徒会に歓迎してやるぞ」
脳内では、含みのある言い方で語りかけてくる、永井の声が繰り返し再生されている。
……バカバカしい、何が不思議なチカラだ。
そもそもの話、ああいった役職とかって、自分から立候補した人がやるものじゃないの?
私みたいに、やる気無い人が無理矢理やっちゃった場合は、それこそこの学校が終わりそうなんだが。
昼は何とか切り抜けられたからいいけど、これから会う度に話を蒸し返されそうで嫌だなぁ。
……やっぱり関わりを持たないのが一番なのかな。
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明日は土曜だし、久々にゆっくりできる。
帰ったら、買って以来放置してる推理小説でも読もうかな。
そんな事を考えながら、階段を下り、昇降口を抜けると、
「あっ、いたいた。マナちゃーん! 」
ふと、私の名前を呼ぶ、聞き覚えのある声がした。
振り返ってみると、茶髪のゆるふわボブヘアーが、視界にすっと映った。どことなく、シャンプーのいい香りがする。
「冬架さん」
冬架は「えへへ〜」と笑顔を浮かべながら、首筋の汗をハンカチで拭う。可愛い。
「探したよ〜。マナちゃんすぐ教室出て行っちゃうんだもん」
笑顔を保ったまま、冬架が続ける。かと思えば
「……今日どうしたの? 授業中ずっと幽体離脱してたみたいになってたけど……何かあった? 相談したい事あるなら乗るよ? 」
心配そうに、私の両手首を優しく持ちながら、私をまっすぐに見つめてくる。
こんな美少女にされてしまったら、大多数の男子はイチコロだな。
……流石に幽体離脱はしてないけど。
「いや……大丈夫。ちょっとした考え事」
変に心配はかけたくない。
それと個人的に、あの厨二病生徒会長の話はしたくない。
無垢な彼女を、あの悪魔の毒牙にかける訳にはいかないからだ。
「あっそうだ! そんな事より……」
思い出したように、手をポンと叩いた冬架。
こういう時は決まって、私が何かしら面倒なことに引きずり込まれる風潮がある。本人に悪気は無いんだろうけど。
「あのね、今日クラスの皆でどこかに遊びに行こうかなって話ししてたんだ〜。よかったら、マナちゃんも一緒に行かない? 」
……ほら来た。
「……いや、私はいいかな」
冬架から目を逸らしながら答える。
いくら彼女の頼みでも、今日は溜まった推理小説を読み進めるという予定があるのだ。
これは決定事項。冬架さん、私なんかより他の人を当たってくれ。
「そんなぁ〜、一緒に行こうよ? 確かにマナちゃん、休みの日もずっと引き篭もってそうなイメージだけど……たまには遊びに出てもいいんじゃない? 」
オイ、今さらっと失礼な事言ったな。まぁ事実だし否定する気もないけど。
そもそも遊びに行くってどこへ? 場所にもよるが、どのみち私は目立つような事はしたくない。
しかし、彼女なら分かってくれるだろうなと思っていたが、まさか粘られるとは思ってなかった。
曖昧な返答ばかりで、キッパリとした答えを出せないでいると、
「……私、マナちゃんの事、もっとよく知りたいんだけど………ダメ、かな? 」
「……っ⁉︎ 」
両目に少しだけ涙を浮かべ、小動物のように上目遣いをしながら頼む冬架。きゅるんとした子犬のような瞳が、じっと私を見つめる。
こんな美少女にされてしまったら、大多数の男子は可愛さのあまり、鼻からの出血多量者が続出しそうだな。
ってか私一人を誘うためだけに、わざわざここまでやるか⁉︎ 諦めて他の人誘えば済む話なのに……。
冬架の可愛さに圧倒されるあまり、すっかり反応に困ってしまった私。
しばらくして冬架は、たじろぐ私からピョンと後ろに離れ、
「ふふっ、それじゃ待ち合わせ場所と集合時間はまた連絡するから、よろしくね〜」
「……え? あ、ちょっと! まだ話はーーー」
にこっと柔らかい笑顔を作り、手を振りながら
何も無かったかのように走り去っていった。
……涙は完全に引いていた。あの変わり様は凄い。
私はただ、呆然と立ち尽くすのみだった。真夏の筈なのに何故かちょっと寒い。
騙されたにしても、あそこまで完成度の高い演技をされてしまっては、非難の感情は一切湧いてこない、むしろ軽く賞賛までしてしまう。
あの娘……意外とやらかすな……。
結局、誘いを断りきれなかった私は、何気なく空に浮かぶ入道雲を薄目で見上げ、大きく溜息をついた。




