33.荷物は今日に置いていこう
「さあ友香さん。おしゃれとは程遠い部屋ですが、遠慮せず上がっちゃってください」
「わあーっ、ほんとに超地味な部屋だね。お、おじゃましまーす!」
(なぜ二人して言葉が余計なのか)
友香を自宅に招いた。以前から抱えていた秘密に光をかざすために。
『海さん。わたしは決めました。アンドロイドであることを友香さんに打ち明けます』
『おお、ついにか。応援してるからな』
『もしも嫌われたら、その時はその時です。当たって砕けやがれーってやつですね』
こんな会話が今朝。現在は放課後。有言実行の時は訪れた。
友香が好きだから、うしろめたさを打ち捨てる。時間が許す限り仲良しでいたいから。
「ところでイヴちゃん、話したいことって?」
「あっ、えと、まずは座りましょうか。いま座布団をお出しします」
ささっと座布団を並べるイヴ。ぎこちない仕草は本音の表舞台。
向き合って座る二人。イヴは言葉を空気にゆだねかねていた。
「珍しいね。イヴちゃんが緊張するなんて」
「あ、いえあの、なんというか。これを伝えたせいで、友香さんに嫌われてしまうのが怖くて」
「やだな、嫌わないよっ。私たち親友だもん。これまでもそうでしょ?」
「――友香さん」
心から当たり前のように言う友香。おかげでイヴも意思を固められたみたいだった。
「その、友香さんには、ずっと内緒にしてたことがありました」
「え、なあに?」
「小中学校のこと。友達や家族のこと。いろいろ話せなかったのも、わたしが弱かったせいなんです」
友香は信じてくれるだろうか。受け入れてくれるだろうか。これからも関係は続くだろうか。
「わ、笑わないで、聞いてくださいね」
「うん」
「お、怒るのとかは、別にいいですけど。親友に隠していた、わたしのせいですから」
「ううん、安心して。なんにも怖くないよっ。私はここにいるから」
「そう、ですね」
優しい笑顔。イヴの深呼吸が終わる。ずっと心に抱えていた荷物の封が開けられた。
「その、実はわたしは、アンドロイドなんです」
「………え、え? アンドロイドって?」
「AZ―1500型。感情学習式アンドロイド。田中という名字も、イヴという名前も作り物で」
イヴの後頭部からコードが伸びる。
「ときどきは、充電が必要な体質です。いくら人間に近付こうとしても、同じにはなれなくて」
「………」
「肉体も、流れる血液も、みんなとは違うんです。もしかしたら、わたし自身の『こころ』も」
友香を見つめる瞳が赤く光った。アンドロイドだという烙印。決して埋められない高低差。
「……そっか」
戸惑っている友香。受け入れるには時間がかかる。そう思っていたのに。
「そうなんだ。えへへ、教えてくれてありがとね」
友香が咲かせたのは笑顔。いつも見ているものと同じ色の花。
「イヴちゃんはイヴちゃんだもん。みんな違う方が、いろいろ楽しいよね」
友香はドジだと言えるけど、それはおおらかであることの証明。
「私は好きだよっ。イヴちゃんの名前も『こころ』も。いろんなものを私にくれるから」
「その、わたしのこと、受け入れてくれますか?」
「もちろんだよっ。今までとおんなじ、たくさんよろしくねっ」
「――ふふ。わたしは、考えすぎてたんですね。すごく、頑張りました」
ぐたーっと床に倒れるイヴ。荷物を背負い続けた疲れを癒すため。
よかった。現実は甘い味なんだ。どこかで希望を持ちながら生きていてもいいんだ。
「これからも親友でいようねっ。あと、すごく大事な質問があるんだけど聞いていい?」
「え、なんですか?」
上半身を起こすイヴ。友香は真剣そのもの。おのずと場が緊張する。
「ほら、私たちって思春期でしょ? やっぱりその……生理が重い日とかってあるの?」
「あー」
真面目に聞いた俺がバカだった。大事っちゃ大事かもしれんけど流れがおかしい。
「いえ、さすがにアンドロイドなので。友香さんは、最近ちょっとつらい感じですか?」
「そうなんだよねっ……今日は落ち着いたけど、昨日はひどかったかな」
「例のものは切らしていませんか?」
「うん。先月発売されたのがすごいんだよ。違和感なし吸収力よし、たくさんの日も安心でー」
(外に行こう)
予想外に続いたので部屋を出る。アホかあいつら。普通に盛り上がんなよ俺もいるよ。
外に来た。ちらちらと雪が降り始めている白い空。なかなか冷えるけど我慢できそうだ。
「よかったな。イヴ」
祝いの言葉は、冬の空気に溶かしておこう。二人には不必要だから。




