12.聖なる夜を切り取って
「んー、抹茶系スイーツはいいですねえ。景気のいいケーキです」
「寒い洒落を言うのが流行りなのか?」
美味しそうに食べるイヴ。こうしてるとまるっきり今時の女子校生だ。
「ありがと海くん。僕まで呼んでくれて。これ、すごくおいしいね」
「いいんだ。セラ君のおかげで助かるよ。そろそろイヴの相手も疲れてきたからな」
「あはは、いやですねえ海さん。そんなに休みたいなら、今すぐ長い安息をあげるというのに」
「ごめん」
フォークの尖端を俺に向けて眼を赤く光らせるイヴ。まだ生きていたいので謝っておいた。
にぎやかな夜。楽しい時間なんて、高校生のうちは無理だろうとあきらめてた。
「あれっ海さんイチゴいらないんですか? じゃあわたしがもらいますね、ひょいぱく」
「あああてめーよくも! 取っておいたんだよ強奪すんなよ!」
「ふふ、イヴお姉ちゃん素早かったね」
いろいろと、みんなのおかげ。きっかけがあれば変わるものだと学べた。
食べ終えた俺とセラ君は風呂に入ることにした。さりげなく脱衣所でセラ君の体を確認。
(ふむ、きれいだな……っていかん! あああ見たらいかん!)
「ど、どうしたの? 急に頭ぶんぶん振って」
「い、いやなんでも、精神が侵食された」
「?」
雑念を払う。腰巻きタオル姿で浴室へ。
まずは体の汚れを洗う。セラ君が小柄だから、あったかいお湯に並んでつかることができた。
「セラ君は防水なのか?」
「うん。人とおんなじ生活ができるように作られてるよ」
「うむ、さすがだ」
近年の科学ってすごい。セラ君がアンドロイドだとバレる要素は皆無だ。
「あれも人間と同じふうにできてたもんな」
「え、あれって?」
「男の勲章的な」
「……み、見たの?」
恥ずかしがるセラ君。
「まあその、つい」
「そっか……でも、海くんなら平気だよ。じろじろは、だめだけどね」
「あ、ああ気を付ける」
柔らかく笑うセラ君。はいかわいい。友達と入る風呂って楽しい。
「イヴお姉ちゃんって不思議だよね。自分らしく生きてて、なんかうらやましいなって」
「その時の気分が全てって感じだもんな。本当いい性格してる」
「なりたくても、なかなかなれないよね。すごいなって思うよ」
「ん、確かにな」
イヴは気ままだけど学ぶべき所もある。いつも本音を現実にぶつけているところとか。
それを見てると、どこかで俺も積極的になるべきだと感じる。ここぞという瞬間を探そう。
「海くんは、イヴお姉ちゃんのこと好きなの?」
「ん?!」
無邪気な質問。動揺して湯船から立ちかけた。つか立ち上がった。
「な、なにゆえだ!?」
「だって、イヴお姉ちゃんと話してる時の海くん、すごく楽しそうだから。どうなのかなって」
「さ、さあ分かんないな。考えたことないな」
話そらしに努める。お湯につかりながら。
「僕も、おじいちゃんのこと大好きなんだ。つい笑顔になっちゃうし。だから海くんもきっと、好きなんだと思うよ」
優しく話す声。たぶんセラ君が言いたいのは、親近感や信頼のこと。
(でも……今の俺は、それ以外にも)
他の形もある。例えば恋心。異性に対して誰もが抱く自然な気持ち。
「……そうだな。嫌いじゃないな、イヴのことは」
「そっか。よかった」
「イヴには秘密な」
「うん」
セラ君には、つい個人的なことまで喋ってしまう。のぼせたので先に上がることにした。
体をふいて服を着て部屋に戻る。居間の電気は落ちていて、全開の戸から冷風が吹き込む。
「さむうっ!!」
「あっ上がりました? あついと思って冷やしておきました」
「やりすぎだから! ありがたいけど、自分ごと冷やすのはだめだぞ」
「え、あ、すみません」
コートを取ってイヴの肩にかけた。外との境界線に座り、夜を眺めるイヴの隣に腰かける。
「今夜はホワイトクリなんとかになりましたね」
「なぜ最後だけあいまいにするのか」
聖夜らしく薄白い景色。ほのかに明るいのは街明かりのおかげ。
さみしいはずの雪が、今夜は特にあたたかい。手に落ちたかけらも、静かに眠るように結晶から水に変わる。
「ひどいですよねえ」
「なにが」
「わたしたち三人、誰も恋人がいないんです。サンタさんも(笑)ってなりますよ」
「それは言うな。気にしてるんだから」
急に高校生ぽいことを言うイヴ。恋人を探してるのかなと思った。
セラ君の言葉が蘇る。イヴを好きとか嫌いとか、正確な答えなんて簡単に出せるわけなくて。
「海さんは、好きな人とかいないんですか?」
「ど、どうだかな。イヴの方こそ、手紙の相手とはどうなんだ?」
「あー、実は自然消滅しちゃいました。縁なしだったみたいです」
「そ、そうか、そんじゃ仕方ないな」
よっしゃ。横入りする手間が省けた。しかと心中でガッツポーズ。
誰かと繋がりを持つのは、本当はとても難しいこと。ましてやお互いを好きになるなんて。
「どこかに恋人でも落ちてないですかねえ」
「真剣に探さないとな」
だけど、もしかしたら、なんて考えたりした。遠くを見渡さずとも、大切な人は案外近くに。




