第八十八章
第八十八章
やたらと横に長い土地だ。
どこもかしこも寺、寺、寺…
俺は坊さんじゃねえぞマッタク。
ぶつくさとぼやきながら、北山は山間の道を駅の方へと歩いていた。
野郎、てめえだけ美味しい所を持ってくつもりだな。俺だってあの害鳥とは因縁があるってーのに、なぁ〜にが”女の子の確保が最優先です”だ。優等生ぶっててもテメェが一番、アイツと遣り合いたがってんじゃねえのか?
そもそもあの会社は俺のモンだろうに、何時からあんな若造に指図されるようになっちまったんだ。
クソッ!
共同経営者への呪いの言葉を胸の中で唱えながら、後をついてくる猫やら鳩やらに蹴りのポーズを見舞ってみせた。
よほど人に慣れているのか、猫も鳩もその程度では逃げ出さない。相変わらず北山の後ろをトコトコと付いてきた。
とうとう畜生共にもなめられたか
情けねぇなぁ〜
まるで北山の声が聞こえたかのように、唐突に携帯電話の着信音が鳴り響いた。
「オウ」
「北サン、今どこですか?」
「尾道にゃあ着いてるぜ。今しがた誘拐容疑者の実家にも顔を出してきた。お高くとまった女将に冷たくあしらわれて、猫やら鳩やらになぐさめられてるところさ。うらやましいだろ?」
「衣笠恵美子が実家へ女の子を置くとは考えられません。どこか別の…誰にも知られてない場所でしょう。そこは彼女の地元だ。顔は知られ過ぎてる」
電話の声は、北山の嫌みなど一切聞いていないかのように話を急いでいた。
「そんな初歩的なアドバイスをこの俺様にする為に、わざわざ乏しい経費を削って携帯に掛けてきたのかテメェは?俺の忍耐にも限度ってモンが…」
「どうしたんですか北サン?もしかして怒ってるんですか?」
「おぉ、判るか!俺は今すこぶる機嫌が悪い!!」
顔の真ん前にかざした携帯に吐き捨てるように北山が怒鳴る。
「…鴉が、消えました。所在が掴めません」
電話の向こうから冷ややかな声が響いた。
「なんだと…」
「僕もそちらに合流します。奴は弟の後を追ったのかも知れない」
「…」
「今は女の子の捜索が第一です。すぐにこちらを出ます。連絡は到着後に。じゃ」
北山が言い返す暇も無く、それだけ言って電話はブツリと切られた。
(続く)