第四十八章
第四十八章
「なぁ、そろそろいいんじゃないか?」
いつものごとく、夕暮れどきの中庭のベンチで煙草をくゆらせながら、銀さんは目の前の白衣の女性に尋ねた。
「何が、ですか?」
恵美子が小首を傾げ聞き返す。
ふんぞり返って煙を吹き上げる銀さんの表情は茫々としていたが、目は優しくはなかった。
「俺はお嬢を助けたい。エミちゃんに協力もしたい。だがそっちははチト違うようだ」
「どういう意味ですか」
「そういう意味だ」
銀さんが指で煙草をはじく。
綺麗な放物線を描いて吸いがらが灰皿に飛び込んだ。
「俺が、ただエミちゃんに泣きつかれたというだけで今日まで、黙ってあの二人の監視と隔離を続けてきたと思ってたのか? 悪いがそれ程、俺ぁお人よしでもマヌケでもねぇぜ。狙いはあの坊やか?」
「な…何ですか急に、銀さんの言ってる事、よく判らないですよ!」
動揺と困惑の入り混じった顔で恵美子が言い返す。
「ワリィな…」
パァンという衝撃を頬に感じた次の瞬間、恵美子は地面に膝をついていた。
ベンチから立ち上がった銀さんが仁王立ちして見下ろしている。
「シラぁ切るのも相手次第だせ。以前から坊やの不思議な力に随分とご執心だったじゃねえか。あの若造の医者と組んで治療に利用しようとでも思ってたか? お嬢はどうでもいいのか!? あんた看護師だろうが、答えろっ!!」
人が変わったかのような銀さんの形相だった。
頬に手をあてうずくまっていた恵美子が、ボソリと言葉を吐いた。
「…何が悪いんです」
「?」
「利用して何が悪いんですかっ! 彼のあの力があれば、加夏子ちゃんだって昔のように戻れるかも知れないんですよっ! ほかの人だって… あのひとだって… それの何処が悪いっていうんですかぁ!!」
キッと顔をあげ銀さんを睨むと、恵美子が叫んだ。
「だからワタシは九十九さんに協力した! それで全てがいい方へ向かうと信じた! そのドコがいけないっていうんですか! 銀さんがワタシを責める理由が何処にあるっていうんですかぁぁぁー!!」
「…その坊やの力が、お嬢をあんなにしてしまったんだ。知ってたかい?」
ハッとした恵美子の言葉が止んだ。
(続く)