第四十九章
第四十九章
「聞いたんだ。あの晩、お嬢とあの坊やの間に何があったのか」
「………」
ゆっくりとしゃがみ込んだ銀さんが、真正面から恵美子の目を覗き込んだ。
「知りたいかい?」
涙目の恵美子がコクンと頷く。
「確かにあの夜、お嬢を救ったのはあの坊やさ。何がきっかけかは知らないが、あの傷を負った時の事を、その時の恐怖を思い出して、そこから命ごと逃げ出そうとしたらしい。よほど怖かったんだろうな、可哀想に」
痛ましい表情のまま銀さんが続けた。
「だがな、よりにもよってお嬢は、自分を助けにきた坊やとキチガイ野郎を混同しちまったんだよ」
「えっ?」
「何でそんな事になっちまったかは判らねぇ… ヒトの心の奥底のことなんて俺には想像もつかねぇし、坊やにだってあんな経験は初めてだったらしいからな」
銀さんは、あえて殉から聞いた事実を伏せた。
「そんな…そんなことって…」
恵美子の目線が激しく揺れる。
「なぁエミちゃん、よーく考えてみな。坊やのあの力は治療なんぞに使える代物じゃねえ、それどころかひとつ間違えれば他人を破滅させるトンでもねぇ爆弾になりかねないんだ」
銀さんの言葉が熱を帯びる。
「もうよさないか、こんな風にあの二人をイジくり回すのは。もう止めようぜ」
「でも…でも…あの子が接した患者はみんな嘘みたいに回復して…そうよ、回復したじゃない! あのコやっぱり出来るのよ! そうでしょ銀さん?!」
まだわかんねぇのか!
両肩をガッシリと掴んだ銀さんが、目を覚ませと言わんばかりに恵美子の体を激しく揺さぶった。
「みんなが治ったのは坊やの“あの力”のせいなんかじゃねぇ! 誰もかれもみんな愛おしくて、助けたり支えたりしなきゃいられねぇあのオセッカイでトンでもなく優しい坊やの心根に触れたからなんだ! みんな自分で立ち直ったんだよっ! それが判んねぇのか!!」
鬼瓦のような顔のまま、いつか銀さんは泣きながら恵美子を揺さぶっていた。
少しずつ、少しずつ銀さんの動きが遅くなり、やがて止まった。
顔を上げた恵美子は、今度は真っ直ぐに銀さんを見つめていた。
(続く)




