第四十五章
第四十五章
殉はその時に見た男の特徴を、一つ一つ挙げていった。
切れ長の、意思の強そうな目
V字に釣り上がった唇
風になびく痩せた長身
黒ずくめの衣服
握られた刀
「似ていたんです、兄さんに」
「でもよ、確かお前の目は生まれつき…」
「兄さんの目で、兄さん自身を見た事があるんです。随分と昔ですが」
「そんな事も出来るのか」
驚いた声で銀さんが聞いた。
「めったにありませんし、やろうと思っても出来ませんよ」
「フム。そんなものかね。俺にはよく判らねぇな」
溜め息と一緒に煙を吐き出す。
「カナちゃんは辛いと言ってた、辛いから近寄るなと。彼女にあの夜の記憶はないと聞きました。きっと心のどこかで、あの男…兄さんに似たアイツと僕に何か関係があると判っているんです。だから…」
「お前を避ける、と?」
殉が頷く。
「お嬢、泣いてたそうだ」
「え?」
「俺には聞こえなかったが、泣いてたらしい。ある子が教えてくれたよ。もしかすると、お嬢はずっと心の中で泣き続けていたのかも知れねぇな」
「銀さん、それって…」
「その後笑ったのさ、屈託無く。俺は初めて見たよ、お嬢の笑顔を。それで決まったんだ、九十九先生がお前とお嬢を…」
「それって、みーちゃんの事じゃないですか?!」
杖を放り出した殉が屈み込んで銀さんの肩をガッシと掴んだ。
「イテッ! おい、何だいきなり?!」
「みーちゃんが、碧ちゃんが銀さんにそう言ったんじゃないですか?!」
「そうだ、そうだよ! お前あの子を知ってんのか?」
「あの子は普通じゃない、あの子は… 僕と同じなんです! 仲間なんですよ! 心の声が聞こえる仲間なんです!!」
「判った、わかったから手を離せって」
興奮した殉の手を肩から引き剥がすと、その手を握り締めたまま銀さんが言った。
「俺ももしやと思ったが、やっぱりそうなんだな。いいか坊や、この事は誰にも言うんじゃねぇぞ。九十九先生はな、お前とお嬢を使って実験をしてるんだ」
「実験? 実験って…」
殉の顔に戸惑いが浮かんだ。
「サイコダイブ能力者を使った実験的治療。俺もエミちゃんも、そのチームの一員という訳さ」
これが話したかった事なのかと殉は思った。
(続く)