表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/90

第四十六章

  第四十六章


 「おはよう、殉クン」

 白く長い病院の廊下で、恵美子が声をかけてきた。殉の背中が一瞬、ピクリと反応する。

 「おはようございます、衣笠さん」

 ゆっくりと振り返る殉の顔は、いつもと変わらぬ微笑を浮かべていた。

 「ちょっと、いいかな?」

 「えぇ、何ですか」


 きた…

 銀さんの言った通りだ


 恵美子の言葉に備え、殉は心の中で身構えた。

 「今度の月曜日なんだけど、リハビリの後、彼女… 清水加夏子さんに会ってくれないかな」

 「カナちゃんに? でも今彼女は…」

 「そう、手のつけられない暴力癖で誰からも敬遠されてる。貴方自身も被害者の一人よね」

 「被害者だなんて… あの時は九十九先生に助けてもらいましたが」

 「彼女に変化が現れたの。ついこの間の話よ。笑ったの、あの娘が」

 「笑ったんですか? カナちゃんが」

 「そうなの、笑ったのよ。それでね…」

 恵美子が少しの間、言い澱むような仕草を見せた。


 「今なら、貴方と加夏子ちゃんを会わせる事が出来るわ。今までは貴方の身を案じて、彼女を貴方に近付けないようにしてきたけど、今ならきっと…」

 「気のせいかな。僕から会いに行くのも出来なかったような気がするのですが。検査だとか何だとか、その都度色々な事があって」

 「それは…知らない。偶然じゃない? 私達は加夏子ちゃんの方だけを見てたから」

 「わたし、たち?」

 恵美子の顔がスゥーっと白くなる。


 「それはともかく。月曜日はマズいな、僕、また一時帰宅しようと思うんです」

「そ、そう。じゃあ月曜日は無理よね。いつなら大丈夫?」

 「その一週間後なら、たぶん」

 「なら、その頃にお願いする。頼むわね。加夏子ちゃんの回復は、恐らくあなたにかかってると思う」

 「判りました、衣笠さん」


 歩き去る恵美子の足音を見送りながら、殉は銀さんの言葉を思い出していた。


 お嬢と会うなら、誰にも知られず、誰も居ない所がいい

 病院は駄目だ。恐らく途中で邪魔が入る

 それはお前達の為にならねぇ事だ

 坊やもそんな事は望むまい

 それから…

 みーちゃんの事、あの二人に勘づかれるな


 一人きりの廊下で、殉はゆっくりと頷いた。


  (続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ