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第二十四章

  第二十四章


 消えろ

 きえろ!

 消えてしまえ

 消えろ消えろきえろキエロキエロ、きえてしまえ!!


 ロウソクの炎を吹き消すのに似て、殉の思念が男の姿を大きく揺らす。


 兄と似たその姿を「嘘だ!」と否定した時、その姿が一瞬揺らいだ。

 それで判ったのだ。


 ここはカナちゃんの心の中、そして彼女は、無意識にせよ僕がここまで入り込む事を許した。 二人の意識が強く同調していなければ、こんな事は出来なかった筈だ。

 なら、僕の意識や思考が直接、彼女の意識に影響を与える事も出来るのではないか。


 ユラユラと右に左に揺れる男を、殉はありったけの思念で否定し続けた。

 悪夢の形が、陽炎のように薄らいできた。

 あと、少し。


 ここへたどり着く途中で見た、蔦の模様にしか見えなかった加夏子の断片的な記憶。

 それが、これから殉が向かおうとしている場所がどんな所なのか教えてくれた。

 ここは恐らく、加夏子にとって最後の避難所だったのだろう。

 長い、長い間彼女は、ここへ逃げ込む事でおぞましい過去からの迫害を逃れてきたのだ。

 だがその記憶が何かの拍子に戻ってしまい、同時にあの男は、彼女の最も中心となるこの場所に居座ってしまったのだ。

 もうここは避難所では無い。

 屠殺場だ。

 際限無く切り刻まれ、殺され続ける地獄から逃れる為、彼女の肉体は最期の手段… 生命活動の停止を選ぼうとしている。


 そんな事はさせない

 あと、あと少し…


 渾身の念を殉が放つ。

 朧になった男の姿が、その力で霧散する。

 やった!


 …薄明るくなった闇の中、じっと動かない加夏子を抱いて殉は立っていた。


 「もう大丈夫。怖いものなんて、もう何もないんだ。帰っておいで。みんな待ってる」

 優しい声で、腕の中の加夏子に話しかけた。

 身じろぎもしなかった加夏子が、糸に引かれたように顔を上げた。


 ゾクッと戦慄が走る。


 「イルジャン、ココニ」


 加夏子の右手が短刀と化して殉の水月に突き刺さっていた。


 「か…カナ…ちゃん?」


 気がつくと殉は、黒衣を着て手に刀を提げていた。

 「違う… 僕はあいつじゃない! アイツは僕の兄さんなんかじゃない! 違う、ちがうんだぁぁ!」


 …ヒ、ヒャ〜ハハハハハ…


  (続く)

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