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第二十一章

  第二十一章


 一分にも満たないであろう時間がまるで永遠に続くかのように、その一角の沈黙は重く息苦しいものであった。


 銀さんと紗季子。


 どちらも、相手の目を底まで覗き込むように見つめ合ったままジッと動かない。


 先に口を開いたのは銀さんだった。

 「…元気、だったか?」

 紗季子が固い表情のまま微笑む。

 「おかげさまで…っていうのはおかしいわね、勝手に居なくなったひとには」

 「…」


 「6年、かしら」

 「7年だ」

 「そう」

 感心無さげに目をそらすと、ハンドバックから細いメンソールの煙草を取り出し火をつけた。

 先程までの脆く崩れ落ちてしまいそうな佇まいの下から、何処か下卑たふてぶてしさのようなものが姿を現していた。

 「まだ、タバコ吸ってるのか」

 「余計な御世話。7年で、変わるものもあれば変わらないものもあるのよ」

 「俺は…」

 言い澱む銀さんに構わず、紗季子が言葉を続けた。

 「あの日、貴方は死んだと思った。ビールでも買いにいくようにフラリと部屋から出ていって、それっきり。店にも来ない。電話も何も繋がりゃしない。夜が怖かった… 真っ暗な部屋で枕を抱えて、帰らないかも知れない男を待つ女の気持ちなんて判らないでしょうね」

 フゥ〜っと煙を吐き出す。

 「そして翌朝の新聞。『中華街で発砲事件。死者、負傷者合わせて9人』 私がどんな気持ちでそれを読んだか、貴方に判る?」

 紗季子の目の光が強くなった。


 「俺は確かに死んだよ。今ここに居るのは生まれ変わりか、死にぞこないなのか、今も判らねぇ」

 非常灯が照らす銀さんの横顔には、疲れ切った老人のように深い皺が刻まれていた。

 「結婚… したんだな。まさかあの嬢ちゃんの母親がサキだとは思わなかったよ」

 「一年も入院してたのに気付かないなんて、おかしな話ね。主人はお店の常連だった。奥さんを病気で無くして… 男を無くした私と関係が出来るまで、それ程時間はかからなかった」

 短くもない煙草を灰皿に捻り消し、紗季子は背を向けた。

 「突然、10歳の子の親になっちゃったのよ、おかしいでしょ? あの子、とてもいい娘だった。後妻の私を実の親のように慕ってくれた。それなのに…それなのに…どうしてこんな事に…」


 ぽつん。

 ぽつん、ぽつん。

 暗い廊下に、雨粒のような染みがふたつ、みっつ。


 気がつくと、銀さんは彼女を背後から抱きしめていた。


 大丈夫

 大丈夫だって…


  (続く)

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