第二十章
第二十章
ベットに横たわる加夏子。
その横に置かれた椅子に、膝を揃えて背をピンと伸ばした殉が暝目して座っている。
既に15分が経過していた。
「叔父さん、彼は一体何なんですか? いきなり現れて“任せてくれ”って… 彼も患者じゃないんですか? 顔色だって酷く悪いし…」
そう問掛ける憲一自身も、今は藁にもすがりたい気持ちであった。
「医者がさじを投げたんだ、例え死神が目の前に現れて取引しようと言ったとしても、私は受けるさ」
恒彦もまた、憲一と同じような気持ちであった。困惑した表情の中に、微かな望みにしがみつく必死さが見え隠れしていた。
「彼は何をしようとしているんだ」
「多分、お嬢さんの心の中に入ろうとしてるんじゃないかと思う」
先程から妙に緊張した表情のままの銀さんが答えた。
「そんな事が出来るのかね? あの半病人のような少年に」
「判らねぇ。確かにあの坊やには不思議な力がある。現場で何度もそう感じる場面を目にしてきた。だか死にそうな子を蘇らせたなんて事は無かった」
「サイコダイブ…か」
憲一が呟いた。
「何だね? そのサイコなんとかというのは」
「大学で以前、心理学の教授が特殊事例の一つとして講義した事がありました。他人と同調し、そこからなにがしかを引き出す人間がいる。現象としては様々ですが、彼等の行いを総称して心理潜行、サイコダイブと呼ぶそうです」
「スプーン曲げみたいなもんか」
落胆した様子で恒彦が言った。
「超能力とは違うそうです。その教授が言っていました、ある意味では『常能力』である、と」
「…コーヒー、買ってきますね」
紗季子がゆらりと立ち上がると、精気の無い足取りで自販機コーナーへ歩き出した。
「叔母さん、僕の分も御願いします」
憲一の声に、彼女は振り返らなかった。
「俺も一度、当直の所へ行きます。清水さん、坊やを…彼を信じて、ここは任せてやって下さい」
一礼すると、銀さんは暗い廊下を歩き去っていった。
残された恒彦と憲一は、ただ祈るしかなかった。
廊下の角を曲がった銀さんの前に、小柄な和服の女性が立っていた。
紗季子だった。
「貴方とこんな所で会うとは思わなかったわ… 久我サン」
「サキ…」
時が、鈍く凍っていた。
(続く)




