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愛し子 その九


「…愛…なのかな…」と、僕は言う。

「愛でしかねえな」と、アーシュが笑った。


なので、

僕はとうとう山の神を、さらいに行く決心をした。



愛し子 9



「俺もそろそろ向こうに行く時期だしな。ま、今度会う時は、スバルの二年越しの恋人とご対面できるってわけだ」

アーシュの言う「向こう」とは、彼の生まれた場所、こことは次元の違う異星「クナーアン」の事だ。

アーシュはその星の神さまで、イールと言う神と共に、クナーアンを統治しているらしい。

年に二、三度、クナーアンとサマシティを行ったり来たりしている。


「アーシュ、その事だけど…。あの子を…山の神をあの村からさらうことができても、すぐにはここへは連れてはこないつもりなんだ」

「どうして?」

「あの子は、これまでの12年間、異文化の小さな村のやしろに軟禁状態で過ごしてきたようなもので、その社だけが彼の世界だった。本当の名前も知らないみたいだし、学習もなにも、一般的な社会性など、何一つ身に付けないまま今まで生きて来た。今のままでこちらに来ても、生活も言葉も全く違うんじゃ、あの子が可哀想だろ?せめて本人が引け目を感じない程度の学力とかさ…」

「まあ、スバルの心配はわかるけどね。世界を識ることは悪い事じゃないし、嵐の如く荒れ狂う荒野に佇む無垢な子っていうのも絵になるさ」

「そんな他人事みたいに…」

「俺にとっては他人事だもの。それに、おまえが守るんだろ?その子を。何もない無垢な少年を、おまえがどんな色に染めていくのか、楽しみだよなあ~」

「…」

アーシュは重荷を背負おうとする僕に、更に追い打ちを掛ける。

確かに、僕がさらっていく限り、あの子の親代わりになるしかないだろうし、僕もそれを望んでいるのだから、責任重大なのはわかっているけれど…


アーシュは僕を面白がるような含み笑いで眺め、立ち上がった。

「じゃあ、行くわ」

「う…ん」


ドアを開けるアーシュに、どうしても聞きたかった質問を投げかけた。

「アーシュ、あのさ…聞いてもいいかい?」

「なに?」

「君は…気が重くなったりしないのかい?クナーアンの神さまと、こちらでは注目される魔王として生きることに」

「別に。全然。だって、俺はみんなを守る力があるし、俺はそれをやり遂げたいって思っているんだもの。力を持つ者が、何かの為にその力を使わないのは、何の為に生きているのか意味ねえじゃん、って事だろ?」

「…じゃあさ、もし、ひとつだけアーシュが選ばなきゃならないものがあるのなら、それはなんなのか、聞かせてくれないか?」

アーシュは少し考え、そしてすぐに答えを出した。

「どちらの世界にも守るべきものは多いけれど、選ぶのは簡単だ。俺のたったひとつのすべては、イールだ。俺はイールのものであり、イールは俺のものなんだ」

「…」

そう言い切ったアーシュの清々しさに、僕は言葉もなかった。


「じゃあな、スバル」

「うん、行ってらっしゃい、アーシュ」


たったひとつのすべてはイール…か…


響く言葉だと思った。

僕はまだまだ未熟だなあ。

24になろうとしているのに、たった一人の少年の未来を引き受けることを重荷に感じたり、怯えたりしているなんてさ。



それから僕はニッポンに向けて旅に出た。



「次の満月で12歳になる。その時、わたしの山の神としての役目は終わるのだ。そしたらスバルはわたしをさらいにくるのだな。約束だぞ」

去年の山の神との約束を果たす為に、僕はあの山を目指した。


暦の満月には五日ばかり早かったが、あの子の様子が気になった僕は、村へ向かった。そして、到着した途端、異変に気づいた。

あの子の…「山の神」の気配がしない。

いつもは恐ろしい程に静かな神社かみやしろが、嫌にあわただしい気に満ちている。

僕は、境内を歩く神官の頭の中を覗いてみた。


…今夜、新しい山の神が、お社に届けられる…

どういうことだ?

新しい山の神だと?

じゃあ、あの子は…今までの山の神は一体どこに…


途端に心臓が鐘のように鳴り響く。

嫌悪感と不安が増長する。

急がないと…あの子が…あの子の命が…危ない。


神社は聖域だと言う。清らかな者しか足を踏み入れてはいけないとも言う。だけど、僕は躊躇しなかった。

魔方陣を真上に投げ、神社の本殿、あの子の住んでいた場所へ向かってワープする。


まだあの子の匂いは微かに残っていた。

今朝まで、ここに山の神が居たはずだ。

だけど、あの子の気配はない。

一体、あいつらはあの山の神をどこへやった?まさか…殺してしまったとか…。

そういう噂は確かに聞いていたけれど、まだ12にもならない罪もない子供を、本当に殺せるのか?


いや、僕はなにかを信じ込んだ人間が、簡単に人を殺す現実を見たはずだ。

トゥエ・イェタルの死は、そういう人間たちが善と信じて起こした犯罪だった。

あの時、テロリストのハールートが僕たちを殺せなかったのは、彼らよりも強い力を持ったアーシュがいたからだ。

人は信じるものの為には、非道になれる生き物だ…。


山の神…僕を呼んでくれ。

一言だけでもいい。

僕の名前を…

そしたら僕は、君を、絶対に救いだして見せる。


僕は祈った。

あの子を救いたいと願った。

あの子と共に生きる運命を、僕に下さい、と…



「…ルっ!スバルっ!…わたしは…ここだ…。わたしは…スバルと一緒に、生きたいんだっ!」


はっきりと、聞こえた。

僕の立つ床の下、土の中から、山の神の声が…


僕を呼ぶ声が…


「山の神…今、助けるからねっ!」

「スバルっ!」



…ありがとう。


僕は君を守る為に、ここに居るよ。




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