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追放された俺、辺境で畑を耕していただけなのに、いつの間にか都市ができていた件 ~売らない・奪わない・支配しない、静かな開拓村づくり~  作者: 影山クロウ


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第22話 安いは、奪うという意味

 カイルが去ってから、村の空気は微妙に変わった。


 騒がしいわけではない。

 だが、静かでもない。


 レオンは畑に立ちながら、その違和感を噛みしめていた。

 人の動きは普段通りだ。作業も滞っていない。それでも、どこかに「引っかかり」がある。


「……値段、か」


 言葉にした途端、その正体がはっきりした。


 昼前、境界の外に小さな荷車が現れた。

 前に来た商人とは違う。装備も質素で、明らかに個人商いだ。


 イオルが対応する。

「用件は」

「取引だ」

 男は即答した。

「干し葉を、安く分けてほしい」


 その言葉を聞いた瞬間、イオルの背中が強張る。

「安く、とは」


「南街道じゃ、銀三枚だそうだな」

 男は肩をすくめる。

「だが、俺は銀二枚でいい」


 ――来た。


 レオンは、遠目からそのやり取りを見ていた。

 カイルの言葉が、すでに外へ流れている。

 そして、値段が一人歩きを始めている。


 焚き火のそばで、男と向き合う。


「安い理由は」

 レオンが聞く。


「簡単だ」

 男は言う。

「大量に欲しいからだ」

「量は」

「今の保存量の半分」


 エルナが、小さく息を呑む。

 それは、生活を揺るがす数字だった。


「拒否する」

 レオンは、即座に言った。


 男は驚いた顔をした。

「なぜだ。銀二枚だぞ」

「安いからだ」


 その言葉に、男は言葉を失う。


「安い、というのは」

 レオンは静かに続ける。

「こちらの都合を無視する、という意味だ」


「だが、市場では――」

「市場の話はしていない」


 レオンは、棚の干し葉を指さした。

「これは、余剰ではない」

「生活の延長だ」


 男は、苛立ちを隠さなくなった。

「なら、いくらならいい」

「価格は、決めていない」


「……話にならんな」

「そうだな」

 レオンは頷く。

「だから、売らない」


 沈黙。

 男は舌打ちし、踵を返した。

「後悔するぞ」


 去ったあと、イオルが低い声で言う。

「……安い方が、楽に見えます」

「楽だ」

 レオンは答える。

「だが、それは一時だ」


 ミラが、帳面を開く。

「銀二枚が基準になれば、銀三枚は暴利になります」

「そして」

 レオンは続ける。

「次は、銀一枚になる」


 バルドが、低く笑った。

「削り合いだな」


「そうだ」

 レオンは頷く。

「安いは、奪うという意味だ」


 その日の午後、同じ話を持ち込む者が、もう一人現れた。

 条件はさらに厳しい。

 量は多く、対価は少ない。


 全て、断った。


 夕方、村の中に小さなざわめきが生まれる。


「売れば、楽になるのに」

「銀があれば、革も道具も一気に揃う」


 囁きだ。

 だが、無視できない。


 レオンは、全員を集めなかった。

 代わりに、焚き火の前で、短く言った。


「安さは、選択肢を減らす」

「今、楽になる代わりに、次を失う」


 反論は出なかった。

 だが、全員が納得したわけでもない。


 夜、ミラが帳面を閉じながら言う。

「……試されていますね」

「ああ」

 レオンは答える。

「こちらが、どこまで耐えるかを」


 バルドが、薪を足す。

「耐えきれなきゃ」

「奪われる」

 レオンは静かに言った。

「値段に」


 焚き火が、ぱちりと音を立てる。


 村は、まだ貧しい。

 だが、安くはない。


 レオンは、その線を守る覚悟を、改めて胸に刻んでいた。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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