111.バグダッド攻防戦(14)
プライムローズに突進していくライジングアースです。
ライジングアースはプライムローズに向けて突進していこうとした……
しかし、
「僕にはもう、ネオスの目で君たちが捕捉できているんだよ、ライジングアース!」
ヴォルグラスのコックピット内でヴォルガが言った。
そして、2機のオルリヌイ・ルーチをライジングアースの機体に向けて特攻させる。
両腕で、がっしりとオルリヌイ・ルーチを受け止めるライジングアース。
急速な突撃によって、スーパー・アンブレラでは誘爆の危険があったからである……
まさに、スーパーロボット的な構図だと言える。
みしり、とオルリヌイ・ルーチの電子頭脳をつぶして、行動停止させるライジングアース。
そびえたつ脅威、と言ったところである。
が、ヴォルガもふふふと笑っていた。
「その状態では、両手のビームは使えまい?」
またも、一点集中のレーザーでライジングアースを攻撃する。
脚部のユニットが一部レーザーによってはじけ飛んだ。
一番弱いところを狙った、ヴォルガの作戦である。
ライジングアースのコックピットにも衝撃が伝わる。
コックピット内では、
「ミューナイト、クッショニング・メタル!」
「急いでやっている!」
ライジングアースの損傷した脚部ユニットにクッショニング・メタルが移動して、その個所を補完した。
これで、応急の処置は完了となる。
──
「くそっ、脚をやられた! ミューナイト、ユーマナイズをいつでも発動できる準備!」
「やりたくないが、やる!」
斎賀とミューナイトとの会話が交わされた。
言葉によってである。
それは、上空のQR‐Xにいるユーランディアにも伝わっている。
ユーランディアは唇をかんでいた。
それは、ミューナイトが危機に瀕しているからでもあり、自分の作戦が功を奏さなかったからでもある。
ユーランディアは、何かライジングアースにとって有利になる策を、また提示しなければならなかった。
「サイガ中尉。敵を一点に集めてください。ライジングアースはその後上空に離脱、ユーマナイズを発動します」
「それができればやってるよ。でもね、それは俺たちに敵の獲物になれっていうことだ!」
「そうでした! 作戦を撤回します」
「撤回はしなくても良い。貴官は引き続き敵のコックピックをハック。その情報を逐次俺たちに送ってくれ」
「了解しました!」
ユーランディアは、自分があくまでもライジングアースの補佐でしかないことを口惜しく思う。
自分がライジングアースに乗っていれば……
(戦況を打開できていたかもしれない)と、ユーランディアは思う。
しかし、それは斎賀を蔑ろにすることだった。
そこまでの傲慢は、ユーランディアにはない。
それで、斎賀の命令とは別に敵の無人機群をクラックする方向へと働いた。
……
敵のオルリヌイ・ルーチは、およそライジングアースから約1.5マイル圏内を旋回飛行している。
そのうちの何機かをクラックしてこちらの味方につけられれば……
ユーランディアは、即座にそう思って実行する。
成功!
敵のオルリヌイ・ルーチのうち6機が、ヴォルグラス、プライムローズ、ヴェガⅡに向かって特攻していった。
ビッグマンの眼前まで迫る、無人機の機体。
ヴォルグラスはレーザーによって、プライムローズとヴェガⅡは量子かく乱フィールドによって、それを防いだ。
それぞれの機体の周囲で上がる爆音。
爆風によってダメージを受ける機体。
ヴェガⅡへのダメージがもっとも大きく、ついでプライムローズとヴォルグラスが軽微な損傷を受けた。
作戦は、一応の成功を収めたのだ。
QR‐Xのコックピットで、ふうっと息をつくユーランディア。
(自分はこの戦いに貢献できている)
という自信が、よみがえった。
だが、その自信が次に何を呼び込むのかを、ユーランディアはまだ知らなかった。
「ミューナイト、作戦を変更する。3機への同時のユーマナイズ照射は諦めて、1機のみに集中させる」
「それで戦況が好転するのか? サイガ?」
「しなくても、そうしなければ、俺たちの命がない。ミューナイト、ハイ・フリークエンシー・ソードを構えろ。どれかの機体に特攻する!」
「ならやはり、プライムローズだな。あの機体のミサイルはぜい弱だ」
「他の機体に比べたらな?」
「それを言ったんだよ、今」
ミューナイトは不満を漏らした。
斎賀は答えない。
戦場での決死の表情になっていた。
ライジングアースは、ハイ・フリークエンシー・ソードを構えて、目視で確認のできたプライムローズに向かって突進していった。
しかし、敵も武装を強化してきていた。
同じくハイ・フリークエンシー・ソードを構えて、ライジングアースの前に立ちはだかるプライムローズ。
──
ソード同士のぶつかり合い、斬りあい。
超電磁の炎が、2つの剣のあいだで立ち上がった。
今、ライジングアースのメインカメラと、プライムローズのメインカメラは向かい合っている。
セラフィアは、「この機体に死を!」ということをずっと念じていた。
一方の斎賀とミューナイトは、「誰も死なないでくれ」という祈りを祈っていた。
何度かの剣劇を交わす、ライジングアースとプライムローズ。
ヴォルグラスとヴェガⅡは攻撃を繰り出せない。
ライジングアースが攻撃を直前で躱せば、それはプライムローズに当たる。
車がかりの陣はもろ刃の剣だったと、ヴォルガは悟った。
そんななか、ヴォルガがレーザーを放った。
「ままよ、これでどうか!」
直前でジャンプする、ライジングアース!
レーザーは、プライムローズの左腕にあたって、弾け飛んだ。
「ヴォルガ二将!」
と、コックピット内で叫ぶセラフィア。
「悪い! 悪かった! いや、すまない、セラフィア三将!」
ヴォルガは、無線通信でセラフィアに謝罪した。
プライムローズは、今両腕の二の腕の部分にあるミサイルのうち、左腕のほうが使えない。
そして、ハイ・フリークエンシー・ソードでの斬りあいも、ライジングアースに優勢になりつつあった。
その間にも、ライジングアースへと近づいていく、ヴォルグラスとヴェガⅡ。
1対3の接近戦になれば、確実にこちら(ジェマナイ)側が勝てるはずだった。
──
しかし、そのとき上空のQR‐Xから榴弾の雨が降り注いだ。
足元で爆裂する榴弾。
ヴォルグラスとヴェガⅡとはバランスを失って転倒する。
そのまま、メインカメラのほうから砂漠に突っ込んだ。
「なんだ! この攻撃はっ!」
上空の「ハエ」を侮っていたヴォルガは、コンソールに向かって罵声を発した。
同じくピエタ三尉も、ロケット・ランチャーを取り落として狼狽している。
QR‐Xはただの電子戦機ではなかったのである。
ユーランディア少尉は、「やった」と思うよりは、ほっとしていた。
このままライジングアースが上空へと逃れられれば、3体同時へのユーマナイズ攻撃が可能になるかもしれない。
が、そううまくはいかなかった。
左腕を地面に残したまま、急速に後退していくプライムローズ。
そのコックピット内で、セラフィアは叫んだ。
「ヴォルガ二将、後退してください! わたしたちは近づきすぎました! これではユーマナイズを浴びます!」
それは、南極戦線で未知の光を浴びた、当事者としての言葉だった。
あれから自分は何かが変わってしまった、とセラフィアは思い始めている。
砂漠の砂が舞う中、3機のビッグマンはライジングアースの攻撃範囲内から離脱した。
それは、ジェマナイにとっては屈辱的ながらも賢明な判断だった。
ただ、砂漠のただなかにプライムローズの左腕だけが残された。
──
「これも一つの戦闘だが、いったい俺たちは何をやったんだ?」
と、ライジングアースのコックピットで斎賀はつぶやいた。
「サイガ、ただの戦争だよ」
ミューナイトが答える。
上空のQR‐Xからは、ユーランディアのこんな言葉が聞かれた。
「サイガ中尉。今この瞬間もバグダッドの市街地は破壊されていますが、わたしたちはそれをいくぶん食い止めたんです」
たしかに、その通りだった。
QR-Xも有能です。




