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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第六部

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110/203

110.バグダッド攻防戦(13)

いよいよロボ戦にむかうライジングアースです。

 斎賀は、HUDで敵の位置を確認し、ミューナイトに注意を呼び掛けた。

 しかし、敵の位置がおかしい。一か所にはいないのである。

 一辺2マイルほどの三角形を描く形で布陣している……何かのバグだろうか?

 すると、次の瞬間には敵が一か所に集中しているというデータが表示された。

 どうやら、さきほどのデータは欺瞞情報だったらしい。

 敵もサテライト群をクラッキングしてきている……


「ユーランディア少尉、敵は一か所に集中している。そちらでも、位置確認を頼む」

 斎賀は無線で伝える。

「了解しました。……はい、こちらでも同じデータです。ライジングアースの内部データと一致しています」

「そんなことまでわかるのか?」

 斎賀は驚いて尋ねた。

「はい。それがQR‐Xの性能なのです。この機体があれば……」

「ライジングアース無双っていうこともあり得るね」

 斎賀はふむふむとうなずく。

 ミューナイトは、そんな斎賀とユーランディアの確信にやや疑いを持っているようだった。

 その疑いは、数十秒後に現実のものとなる。


「サイガ、敵はビッグマンじゃない。無人機のオルリヌイ・ルーチだ! わたしたちは騙された!」

 ミューナイトが思念通信を使わずに伝える。

 こうすれば、ユーランディアにも会話を追うことができるからだ。

「そうか、罠か。しかし、無人機群を攻撃できるのはチャンスだ。あいつらにユーマナイズは効かないからな」

「今のうちに、小うるさい敵を排除しておくっていうことだな?」

「その通りだ。ユーランディア少尉、敵の無人機をクラッキングしてくれ。互いに撃ち合わせるようにする」

「了解。少し時間がかかりますが、これでオルリヌイ・ルーチを一掃できると思います」

 その言葉通りに、オルリヌイ・ルーチの群体は互いをミサイルで攻撃し始めた。

 あちこちで起きる爆発。

 その煙と雲のなかに、ライジングアースも突入していく。

 QR‐Xはライジングアースの1000フィート上空を、低速で飛行していた。


 斎賀のHUDに、ふたたび敵ビッグマンが分散して表示された。

 互いに1.5マイルの距離を保っている。

 なるほど、徐々に間合いを詰めてくる作戦か……

「ユーランディア、今回の情報は正確か?」

「はい。敵の欺瞞情報を排除しました」

「よくやった」

(ダゴンの殲滅戦だな……)

 と、斎賀は思った。

(しかし、こちらもアスターテ会戦になる可能性があるよっ!)

(サイガ、アスターテ会戦ってなんだ?)

 思念通信でミューナイトに伝わったのか、そんな疑問を投げかけてきた。

(これは、銀河英雄伝説っていうSF小説での話でね……)

(サイガがオタクだとは知らなかった)

(オタクは銀英伝なんて読まない! あれは純文学だ!)

 斎賀は、思わずそのオタク的気質を露わにしてしまっているのだった……

(よくわからないが、わかったことにする)

 そのときの人間関数は31%だった。


「気を付けてください、サイガ中尉。敵は三角形の位置関係を維持したままで、距離だけを詰めてきています」

 と、ユーランディア。

「わかった。なんだかな、古来の兵法にそんなものがあったような気がする。が……おれは戦術家じゃないからな」

「わたしも……データベースを検索してみますか?」

「いや、今はそんなことは良い。それよりも、敵の罠に乗ったように見せかけろ」

「了解しました。ライジングアースの位置をサテライト群から消します」

「やってくれ」


 ──


「お、ライジングアースが動き始めたねえ。そばに1匹ハエがいるようだけれど、これは何だ?)

 QR‐Xが統合戦線の前線に投入されていることを、まだヴォルガは知らない。

 これは致命的なミスと言えなくはなかったが、この際あまり問題とはならなかっただろう。

 ヴォルグラス、プライムローズ、ヴェガⅡのさらに1マイル外側には、無人機群が円形に布陣していた。

 最初の接触後に、それらの無人機群もライジングアースに特攻させるつもりだった。

 しかし、

「ん? ライジングアースの位置が消えた? ……いや、直前のライジングアースの位置から、以後の行動を予測」

 コンソールに音声入力する。

 レーダー内に疑似的にライジングアースの位置を表示させた。

 あとは目視である……

「敵さんが使った車がかりの陣を、こちらも使わせてもらうよ?」


「セラフィア三将、ピエタ三尉、まずはこの距離からミサイルを撃ち込んでくれ。俺は間合いをみてレーザーを照射する」

「了解しました、ヴォルガ二将」

「了解しました」

 ピエタとセラフィアから返答が返ってくる。

 良い返事だと、ヴォルガは思った。

 2人とも、今はヴォルガの補佐だということを弁えている。

 戦場で私情は禁物だ。

 もっとも、セラフィアに嫉妬しているのは自分のほうだと、ヴォルガは自覚していたが……


 プライムローズ、ヴェガⅡからミサイルが発射された。

 真っ直ぐではなく、サイクロイド曲線のような軌道を描いてライジングアースに向かっていくミサイル群。

 すると、ライジングアースの腕から高周波の振動のようなものが照射された。

 ライジングアースに衝突する寸前で爆発するミサイル。

 なんらかのバリアを使ったのだろう。

 レーダー画面内に、ミサイルが消滅したことが表示される。

「ほう。ミサイルに対処したか?」

 ヴォルガは感心した。

「これでは、位置を予測してのレーザー照射は意味がないね。目視で直接急所に叩き込むか?」

 ライジングアースの予測位置から1マイルまで近づく。

 プライムローズとヴェガⅡも、同様にライジングアースとの距離を詰めた。

 そして、ヴォルグラスのボディ全体にくまなく配置されているレーザーを、ヴォルガは一点に向けて打ち込む。

 光速の攻撃である。

 しかし、ミューナイトは一瞬で判断した。

 アブソーバー・アトラスだ。

 もちろん、ヴォルグラスのコックピット内をハッキングして、ヴォルガの思考を読み取ったのである。

 ライジングアースの周囲で、レーザー光線がいくつもの球体を作り、重力子に変換されているのがわかる。

 それが、こちらに向かって反転してきた。

 衝撃を受ける、ヴォルグラス。

「なんと!? そんな武器があるとは……」

 ヴォルガは驚いたが、すぐに冷静になった。


「セラフィア三将、敵のコックピット内の様子はハッキングできるか?」

 電子戦は、セラフィアのほうが得意である。

「はい。いま、ピエタ三尉が周波数の調整をしているところです。まもなく完了します」

「終わったら、すぐに僕の機体にデータを送ってくれ」

「了解しました」

 こちらも、電子戦の準備を備える。

 ミューナイトの思考は、この瞬間から読み取られ始めた。

「セヴァストポリでは痛み分けだったけれどね、今回はそうはいかないよ」


 ──


「ミューナイト、敵のコックピットはハッキングできているのか? 今の攻撃を躱せたのは……?」

「ああ。事前予測でレーザー照射があると判断した。だから、アブソーバー・アトラスを使ってみた」

「あの例の強力な武器か?」

「そうだが、今回は敵も本気ではなかったらしい。大したダメージを与えられなかった」

「でもまあ、計器類が狂うくらいの影響はあるだろう」

 と、楽観的な斎賀。

「そうなら良いんだが……敵も防御力を強化してきているような気がする」

「ユーマナイズは効くか?」

「分からない」

「いずれにしても、敵の包囲から逃れないといけない。一番防御が薄そうなところは、どこだ?」

「ヴェガⅡ……ではなくて、プライムローズだな。ヴェガⅡは巨大なロケット・ランチャーを担いでいる」

「なるほど。俺たちは平気だが、上空のQR‐Xには脅威かもしれない」

 そう斎賀が言うと、

「聞こえています、サイガ中尉。自分は、この戦況からいったん離脱します。ユーマナイズを使ってください」

「わかった。ユーマナイズの死角に回れ。オーバー」

 無線通信が切れた。

 そろそろ、メッセンジャーでの会話に切り替えないといけないだろう。

 そのためには、これからの作戦要旨をデータとしてユーランディアに送信しておく必要がある。

 斎賀は、高速でその作業を済ませた。

 いよいよ、ビッグマン同士の対戦である。

次章以降に続きます。

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