110.バグダッド攻防戦(13)
いよいよロボ戦にむかうライジングアースです。
斎賀は、HUDで敵の位置を確認し、ミューナイトに注意を呼び掛けた。
しかし、敵の位置がおかしい。一か所にはいないのである。
一辺2マイルほどの三角形を描く形で布陣している……何かのバグだろうか?
すると、次の瞬間には敵が一か所に集中しているというデータが表示された。
どうやら、さきほどのデータは欺瞞情報だったらしい。
敵もサテライト群をクラッキングしてきている……
「ユーランディア少尉、敵は一か所に集中している。そちらでも、位置確認を頼む」
斎賀は無線で伝える。
「了解しました。……はい、こちらでも同じデータです。ライジングアースの内部データと一致しています」
「そんなことまでわかるのか?」
斎賀は驚いて尋ねた。
「はい。それがQR‐Xの性能なのです。この機体があれば……」
「ライジングアース無双っていうこともあり得るね」
斎賀はふむふむとうなずく。
ミューナイトは、そんな斎賀とユーランディアの確信にやや疑いを持っているようだった。
その疑いは、数十秒後に現実のものとなる。
「サイガ、敵はビッグマンじゃない。無人機のオルリヌイ・ルーチだ! わたしたちは騙された!」
ミューナイトが思念通信を使わずに伝える。
こうすれば、ユーランディアにも会話を追うことができるからだ。
「そうか、罠か。しかし、無人機群を攻撃できるのはチャンスだ。あいつらにユーマナイズは効かないからな」
「今のうちに、小うるさい敵を排除しておくっていうことだな?」
「その通りだ。ユーランディア少尉、敵の無人機をクラッキングしてくれ。互いに撃ち合わせるようにする」
「了解。少し時間がかかりますが、これでオルリヌイ・ルーチを一掃できると思います」
その言葉通りに、オルリヌイ・ルーチの群体は互いをミサイルで攻撃し始めた。
あちこちで起きる爆発。
その煙と雲のなかに、ライジングアースも突入していく。
QR‐Xはライジングアースの1000フィート上空を、低速で飛行していた。
斎賀のHUDに、ふたたび敵ビッグマンが分散して表示された。
互いに1.5マイルの距離を保っている。
なるほど、徐々に間合いを詰めてくる作戦か……
「ユーランディア、今回の情報は正確か?」
「はい。敵の欺瞞情報を排除しました」
「よくやった」
(ダゴンの殲滅戦だな……)
と、斎賀は思った。
(しかし、こちらもアスターテ会戦になる可能性があるよっ!)
(サイガ、アスターテ会戦ってなんだ?)
思念通信でミューナイトに伝わったのか、そんな疑問を投げかけてきた。
(これは、銀河英雄伝説っていうSF小説での話でね……)
(サイガがオタクだとは知らなかった)
(オタクは銀英伝なんて読まない! あれは純文学だ!)
斎賀は、思わずそのオタク的気質を露わにしてしまっているのだった……
(よくわからないが、わかったことにする)
そのときの人間関数は31%だった。
「気を付けてください、サイガ中尉。敵は三角形の位置関係を維持したままで、距離だけを詰めてきています」
と、ユーランディア。
「わかった。なんだかな、古来の兵法にそんなものがあったような気がする。が……おれは戦術家じゃないからな」
「わたしも……データベースを検索してみますか?」
「いや、今はそんなことは良い。それよりも、敵の罠に乗ったように見せかけろ」
「了解しました。ライジングアースの位置をサテライト群から消します」
「やってくれ」
──
「お、ライジングアースが動き始めたねえ。そばに1匹ハエがいるようだけれど、これは何だ?)
QR‐Xが統合戦線の前線に投入されていることを、まだヴォルガは知らない。
これは致命的なミスと言えなくはなかったが、この際あまり問題とはならなかっただろう。
ヴォルグラス、プライムローズ、ヴェガⅡのさらに1マイル外側には、無人機群が円形に布陣していた。
最初の接触後に、それらの無人機群もライジングアースに特攻させるつもりだった。
しかし、
「ん? ライジングアースの位置が消えた? ……いや、直前のライジングアースの位置から、以後の行動を予測」
コンソールに音声入力する。
レーダー内に疑似的にライジングアースの位置を表示させた。
あとは目視である……
「敵さんが使った車がかりの陣を、こちらも使わせてもらうよ?」
「セラフィア三将、ピエタ三尉、まずはこの距離からミサイルを撃ち込んでくれ。俺は間合いをみてレーザーを照射する」
「了解しました、ヴォルガ二将」
「了解しました」
ピエタとセラフィアから返答が返ってくる。
良い返事だと、ヴォルガは思った。
2人とも、今はヴォルガの補佐だということを弁えている。
戦場で私情は禁物だ。
もっとも、セラフィアに嫉妬しているのは自分のほうだと、ヴォルガは自覚していたが……
プライムローズ、ヴェガⅡからミサイルが発射された。
真っ直ぐではなく、サイクロイド曲線のような軌道を描いてライジングアースに向かっていくミサイル群。
すると、ライジングアースの腕から高周波の振動のようなものが照射された。
ライジングアースに衝突する寸前で爆発するミサイル。
なんらかのバリアを使ったのだろう。
レーダー画面内に、ミサイルが消滅したことが表示される。
「ほう。ミサイルに対処したか?」
ヴォルガは感心した。
「これでは、位置を予測してのレーザー照射は意味がないね。目視で直接急所に叩き込むか?」
ライジングアースの予測位置から1マイルまで近づく。
プライムローズとヴェガⅡも、同様にライジングアースとの距離を詰めた。
そして、ヴォルグラスのボディ全体にくまなく配置されているレーザーを、ヴォルガは一点に向けて打ち込む。
光速の攻撃である。
しかし、ミューナイトは一瞬で判断した。
アブソーバー・アトラスだ。
もちろん、ヴォルグラスのコックピット内をハッキングして、ヴォルガの思考を読み取ったのである。
ライジングアースの周囲で、レーザー光線がいくつもの球体を作り、重力子に変換されているのがわかる。
それが、こちらに向かって反転してきた。
衝撃を受ける、ヴォルグラス。
「なんと!? そんな武器があるとは……」
ヴォルガは驚いたが、すぐに冷静になった。
「セラフィア三将、敵のコックピット内の様子はハッキングできるか?」
電子戦は、セラフィアのほうが得意である。
「はい。いま、ピエタ三尉が周波数の調整をしているところです。まもなく完了します」
「終わったら、すぐに僕の機体にデータを送ってくれ」
「了解しました」
こちらも、電子戦の準備を備える。
ミューナイトの思考は、この瞬間から読み取られ始めた。
「セヴァストポリでは痛み分けだったけれどね、今回はそうはいかないよ」
──
「ミューナイト、敵のコックピットはハッキングできているのか? 今の攻撃を躱せたのは……?」
「ああ。事前予測でレーザー照射があると判断した。だから、アブソーバー・アトラスを使ってみた」
「あの例の強力な武器か?」
「そうだが、今回は敵も本気ではなかったらしい。大したダメージを与えられなかった」
「でもまあ、計器類が狂うくらいの影響はあるだろう」
と、楽観的な斎賀。
「そうなら良いんだが……敵も防御力を強化してきているような気がする」
「ユーマナイズは効くか?」
「分からない」
「いずれにしても、敵の包囲から逃れないといけない。一番防御が薄そうなところは、どこだ?」
「ヴェガⅡ……ではなくて、プライムローズだな。ヴェガⅡは巨大なロケット・ランチャーを担いでいる」
「なるほど。俺たちは平気だが、上空のQR‐Xには脅威かもしれない」
そう斎賀が言うと、
「聞こえています、サイガ中尉。自分は、この戦況からいったん離脱します。ユーマナイズを使ってください」
「わかった。ユーマナイズの死角に回れ。オーバー」
無線通信が切れた。
そろそろ、メッセンジャーでの会話に切り替えないといけないだろう。
そのためには、これからの作戦要旨をデータとしてユーランディアに送信しておく必要がある。
斎賀は、高速でその作業を済ませた。
いよいよ、ビッグマン同士の対戦である。
次章以降に続きます。




