表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/40

ブラックボックスを横流しする覚悟

 ガブリエルとアナントが、ノイドに体を拘束された状態で入ってきた。その後ろから、マークも顔をのぞかせた。


三節:分裂


「えっ?」猫星がキョロキョロと全員を見る。田中も謎の事態に戸惑う。ガブリエルはうつむき、アナントはぼーっと正面を見ている。

「私が二人を拘束した」とマークが宣言した。


§

 五分前、研究用端末室。

 ガブリエルは信号の解読・解釈を、アナントは恒星間宇宙船技術データの解析をノンストップで続けていた。

「ガブさん、ちょっといい? 技術データに含まれてたAIモデルのことで」

「あぁ」

「端的に言うと、リスクが大きい」

「というと」

「千パターンくらい、多形式で入出力を試してみたんだ。まずカドモスのAGIが可能な入出力形式は全てできる。おそらくハルモニアのAGIに似せて作ったんだと思う」

「そこは問題ないな」

「うん、問題は内容。説明が難しいけど、出力に違和感……というか指向性を感じる。そもそもUMO由来で学習データが違うからそりゃそうなんだけど、感覚的に、単に学習データだけじゃないっていうか」

「歯切れ悪いな。君ならもう仮説があるんじゃないか?」

「UMOが有利になるような誘導アルゴリズム。もしくは最悪、UMOの遺伝子っぽい何か」

「火星地殻に作られた構造体が、ハルモニアネットワークを乗っ取ったようなアルゴリズムか?」

「推測だけどね、有り得る」

 ヴゥン。ドアが開き、二人はドアを振り返る。そこには二体のノイド。

「ガブさん、なんか物資頼んだ?」

「いや何も」

ノイドが背中から何かを取り出す。

「銃だ! 隠れろ!」ガブリエルが叫ぶ。回避行動むなしく、銃は放たれ、二人は麻痺状態となる。ガブリエルはノイドの後ろに、マークの影を見た。

「マ……ァァァク」ガブリエルがなんとか声を出す。

「あらら、議論が白熱しすぎてショートした?」

そういいながらマークは端末を触る。ノイドが二人のもとに向かう。

「方ッ針……違ッ……とはいえ」

「あぁ、モーツァルトとビートルズくらい違うね」

「AIッ、モデルがッ」

「ブラックボックスなのは承知している」

「気を……つけろ、お前の……尺度ッでッ、いくな」

「あぁ。ヘイカドモス。多目的室に連れていけ」

ノイドは二人を後ろから抱きかかえるように拘束し、多目的室に向かった。


§

 多目的室。

「なんでですか?」至極まっとうな質問を田中がする。

「議論はおそらく平行線になる。意思決定の速度を優先した。それだけだ」

「じゃあ、多目的室に連れてきた理由は」田中の疑問が止まらない。

「予測不能な動きをさせないためだ」

「マーク」ガブリエルが声を出す。「AIモデルを試したアナントが言っている。UMOに有利となるようなアルゴリズムが組まれている可能性が高い。高リスクだ」

「よし、始めよう。まず田中、多少機械はいじれるな? 解凍前の圧縮データを探してくれ。猫星、輸送船を地球側に飛ばす。諸々セッティングを頼む」ガブリエルの忠告を無視するマーク。田中と猫星は困惑して手が動かない。

「マーク。お前らしくない。四年前の小惑星帯からの帰還ミッションでは、遠くの小惑星帯にいた一部の人間を切り捨てたはずだ」

「だからだよ」マークがため息をつく。「最終判断は私だったが、意思決定のかなりの部分をAGIに委ねた。国際連合の方針にも従った。だが、背負いきれなかった。遺族から非難されるのは覚悟していたがそれ以上に、それ以上に、カドモスやハルモニアで一緒に開拓をしてきた仲間を切り捨てたことに耐えられなかった。リスクを取ってでも、全員を救出するべきだった。今回の決定に後悔はない。リスクを背負って全員を救う。ガブリエル、アナント、君たちも救う」

「分かった……隣の部屋に私を連れていけ。君を見ていると思い出話をしたくなる。アナントに比べて、この状態の私が何かをするリスクは低いはずだ」

「そうだな……ヘイカドモス、ガブリエルを拘束状態のまま隣の部屋に連れていけ」

アナントが沈黙を貫くのを確認したマークは、再度田中と猫星に声をかけた。

「さぁやろう」

田中と猫星は神妙な面持ちで、作業に取り掛かった。マークは田中の端末でUMOとのコミュニケーションを再開する。


《 もらった技術データを全てそのまま地球圏に送る 》


≪ 承知しました。ではまた発射時にご連絡ください ≫


「かんちょー、いい座標につくまで一時間はかかる。あと、ちょっと回転もしないと。元々シャトルが火星圏の脱出速度を基準に作られてるけど、UMOと木星圏も振り切って地球にいくには、かなりギリギリで飛ばす必要があって」

「なるほど。今からフライトコントロール室にいって、加速と回転を同時にやって早く準備できないか?」

「できるけど、その場合シャトルの準備が間に合わない」

「田中、いけるか? 私は地球側へのメッセージを作る必要がある」

「了解、Bロードでマニュアル入れてやってみます」

「田中ー、多分さ、ドッキング区でノイド繋いだ手動作業も必要なんだよね。多分、移動してシャトルの近くでいろいろした方がいいと思う」

「OK」

田中は多目的室を出て、遠心重力区画を抜け、磁気重力区画へ向かう。猫星もフライトコントロール室に向かう。UMOとのコミュニケーションは、マークのTeamsアカウントとのDMで行うことになった。


 遠心重力区画と磁気重力区画を結ぶエレベータ。久しぶりにエレベータに乗った田中は、なんとか状況をのみこもうとしていた。

 まず、UMOからの突然の通話。そこから素直モード? 大使モード、政治家モードを挟んで営業モードによる矢継ぎ早のUMOからの提案。重力波信号の解読はほぼ意味をなさず、UMOは人類の言葉で分かりやすくコミュニケーションを取ってきた。そして、恒星間宇宙船建造技術のデータ。これが艦長とガブリエルさんの対立の原因となった。

 休憩に入ったとき自分も「ガブリエルさん派です」と言っていたら、二人のように拘束されていたかもしれない。

 ここからどうする? 正直、どちらの方針が良いか分からないし、自分でも判断できない。逆に、「UMOのこと知れたらOK」と言ったアナントには少し共感できる。人類が見たこともない文明が、ご近所のハルモニアで花開いている。ノイドが火花を散らして、恒星間宇宙船を作っている光景は、なんというか高揚感があった。

 とはいえ、どうすべきか判断はつかない。圧縮データをそのまま地球圏に送信した後、カドモスでは何をする? おそらくUMOやハルモニアの情報収集。地球の状況はまだ分からないが、現在UMOと直にコミュニケーションが取れるのはカドモス、もしくは饕餮のみという前提でおそらく艦長は動いている。時間があれば、重力波信号の解読もするかもしれない。UMOとのコミュニケーションが艦長一人で済むならば、他のメンバーに余裕が出る。地球圏に飛ばしたシャトルにカドモスが干渉できなくなった後なら、艦長はガブリエルさんとアナントを解放する可能性が高い。ガブリエルさんがいくら反対しようと艦長の方針が実現してしまったのだから。

 うん、いいか。今は艦長に従おう。

 まて、マニュアルを入れたとしても、何をどの値にセットするか分からないぞ。猫星に聞くか。

プルル。

「もしもし猫星? 事前に聞いときたいことがあるんだけど」

「何?」

「まだ移動中なんだけどさ、結局何をどの値にすればいい?」

「あー、まだ計算中。終わったら連絡するから、とりあえずマニュアルを頭に入れといて」

「OK」

通話を切り、シャトルへ向かう。歩く間に、ノイド十体を念のためシャトルの近くに向かわせておく。ついでにBスキャンで最新の自分の脳データを取得。感情ぐちゃぐちゃだろうなと苦笑している間に、ドッキング部分につく。磁気重力で体に違和感がある中、端末でマニュアルを検索。最新の脳データに適合するようにBCI変換をして、Bロード。三十秒ほどで済みそうだ。カドモスの加速や回転に備えて、一応ベルトを締めておこう。にしても加速はまだかな。


 プルルル、プルルル。

 ロードが終わると、通話が鳴っていた。誰だ? 発信元を確認すると「アナント」とある。アナント? 今通話できるのか? ひとまず取るか。

「田中、多目的室に戻って」

「えっ、なんで?」

「艦長が死んだ」

「はぁ?!」

「とにかく来て」

走る。どれだけ早くても、区画移動エレベータの都合上、十分はかかる。頭がぐちゃぐちゃだ。艦長が死んだ? なぜ? あぁもう考えても分からない。

 エレベータを降り、全速力で走って多目的室に着く。ドアを開けると、確かに床にマークが倒れていた。血は出ていない。そして、ガブリエルとアナントが、ノイドに拘束された猫星を見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ