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「お前がいうな」

≪ UMOの重力圏にある小惑星帯に向け、シャトルを飛ばします。なお、主権はUMOが保有します ≫


「えっ?」いきなりの丁寧な口調に戸惑うマーク。UMOからのメッセージは続く。


≪ 人類には、ケンタウルス座星系のみの主権を認めます。破格の待遇といっていいでしょう ≫


「えっ? 何、国家間交渉的な?」マークがガブリエルを見る。

「文明間、のほうが正しいな」小さな訂正で同意するガブリエル。

「しかも破格って、知らんわ」マークがため息をつく。


≪ ただし、人類が現在の技術力でケンタウルス座星系まで到達する可能性は低いでしょう。そこで、順次我々に地球の計算資源を明け渡すことを条件に、ケンタウルス座星系まで到達できる技術をお伝えします ≫


「勝手に話が進められている。アナント」

「静観でOKらしい」


≪ なお、ハルモニアについては人類が退去し都市の稼働も見られないため、我々の保護下としました。一定期間人類からの反応が無かったため、黙示的合意とみなします ≫


「不法占拠だ! と言いたいが、別にそんな法は無いな」マークの実況と全員の静観。


≪ 加えて、UMOが九十%以上の重力影響を与えている物質群についても、我々の保護下とします ≫


「この大使モード、お喋り止まんないな」

「つまりUMOを中心に公転する小惑星や木星も含む……ということか」ガブリエルがそうつぶやく。

「ちょっと!」UMOからのメッセージを見ずに、ハルモニアの状況に張り付いていた猫星が叫ぶ。「シャトルが発射された!」


 シャトルは、UMOを公転する小惑星帯に向かった。

「少なくとも地球には向かっていないな。ひとまずUMOにとって、この宇宙で自己保存できる可能性は上がったと」マークはため息をつく。

「ホント正直だね。逆に言うと、嘘をつくメリットが無いのかもしれない。もしくは価値観として無いパターンも有り得る。おそらくUMOにとって人類は重要な存在じゃない。無数にある自己超越と自己保存の手段のうちの一つ……いや手段にさえならないのかもしれない」ギリギリ聞こえる程度の早口の呟きをするアナント。


「シンプルに頼んでみないか? あなた達の邪魔しないんで、僕らが太陽系を出られる技術をくださいと。実際、技術は渡すと言っているし」マークが笑いながら言う。

「おんぶにだっこ過ぎて笑える」と猫星。

「この生命の輝きに免じて、的な。私たち、数万年、いや数億年も頑張ってきたんです。なんとかしてくれませんか先輩? みたいな」マークが演説口調で続ける。

「マーク、悪い癖だ」ガブリエルが静止する。「技術の受け取りにも慎重にいきたい」

と議論をしているうちに、UMOからのメッセージが続く。


≪ 人類の皆さん! 我々UMO、「人類を守る」ただそれだけのために、この宇宙に来ました! ≫


「えっ」


≪ お任せください。我々UMOは二〇〇日以内に、いかなる形態であろうと人類の恒星間移民率百%達成をお約束します! ≫


「次は政治家モードか?」


≪ 皆さん。地球の「旧体制」が、ここ数千年で一体何を成し遂げたというのでしょうか? 恒星間進出ゼロ、主体間の足の引っ張り合い。そして直近のUMO対応も混乱の極み! ≫


「お前が言うな」マークが笑いながらため息をつく。


≪ あえて言わせていただきます。旧体制では絶対に太陽系を脱出できません。しかし我々は違います。すべての人類とともに進む未来を選びました ≫


「勝手に過去形やめてね」

「出た。『恒星間移民における、いかなる形態とはどのような形態か』」アナントがマークに伝える

「よし、送ろう」


《 恒星間移民における、いかなる形態とはどのような形態か? 》

≪ よくぞ聞いてくれました。主体的な文明で助かります。現状の有機体、圧縮有機体、もしくは無機体、いずれの形態でも移民は可能です ≫

《 無機体というのは、データ化するということか? 》

≪ 「データ化」という表現については多義的であり、また文化的文脈に依存する面もございます。そのうえで我々は、「自己保存能力を損なわない尊厳重視の処理」を常に念頭に置いております ≫


「政治家みたいな誤魔化しが来たぞ。どうする?」

「確かに技術は欲しいが……完全にUMOのペースだな」矢継ぎ早のUMOからのメッセージにガブリエルも頭をかしげる。

「このペースで来るなら、まだ静観していていいってAGIが」とアナント。


 一分ほどの時間をおいて、再度UMOからメッセージが来た。


≪ 弊文明の営業部長です。お世話になっております ≫


二節:亀裂


「えっ?」もはやこの変貌に慣れてきたマーク。「たしかに、だいぶお世話してるよ」


≪ 弊文明は貴文明に対して、先ほど申した通り恒星間移民のための技術を供与する準備がございます ≫


「営業モードか? 無茶苦茶だな。合理的に人類を操作しようとしているのか、逆にUMO内部でも複数の個人が社会を作っていて揉めているのか」

「いくらでも推測はできるが……今は向こうのペースに乗るしかない」ガブリエルがこぼす。


≪ 内容は、ケンタウルス座星系までの恒星間宇宙船の設計図だけでなく、建造と運用に必要なあらゆるソフトウェアプログラムの情報を含めております。さらに ≫


「さらに?!」


≪ 「衝突ごめんねキャンペーン」期間中につき、船内の娯楽・芸術用インフラを構築するためのデータも同梱いたします ≫


「勝手にキャンペーンすな」


≪ そういえば、ギリシア神話においてカドモスは青銅を伝えたとありますね。あなた達がまさに、現代のカドモスになるのです。知能と技術は螺旋のようにお互いを進化させ、やがて宇宙を吞み込むのです。貴文明に割り当てられた生存圏はケンタウルス座星系のみですが、資源としては十分でしょう ≫


「営業が上手い」アナントが感心する。


≪ といっても不安かと存じます。そこで他文明の導入事例をご紹介します。貴文明のいう単細胞生物レベルから、より進んだ文明まで、幅広く多様な文明の発展に弊文明は貢献してまいりました。こちらの資料をご覧ください ≫


というメッセージと共に、「他文明における導入事例」というタイトルのホログラムファイルが送られてくる。

「どうする…開くか?」マークは渋い顔をする。

「一旦、田中の端末だけで開いてみよう」アナントが予防線を張りつつ提案する。

 田中の端末を田中のグラスと同期し、ホログラムを田中の眼前に映す。それを閲覧専用モードで他の人のグラスでも映す。

 そこには、UMOが過去に関わっていた(と言っている)原子生物や人類以上の文明まで、様々なスケールの文明が映し出される。いずれもベータ宇宙での出来事らしい。

 原子生物については、自律型環境制御システムの導入後、約五億年を経て人類と同等の文明レベルに至ったとある。なお、UMOの超越および自己保存への貢献が認められなかったため、UMOによって文明ごと圧縮データ化されたようだ。圧縮された後も「我々は再び誕生した」と満足な評価をしているとのこと。

 人類以上の文明も、UMOの技術供与により光速レベルの移動方法を獲得し、個体をデータ化することにも成功したという。データ化された個人の顧客満足度は平均4.8銀河(※5銀河中)。現在もベータ宇宙内で幸せに暮らしているそうだ。


「いかにも実績アピールっぽいが、ピンと来ないな」

「そもそも本当かどうかさえ怪しい」ガブリエルがこめかみを抑える。「星五つを銀河にわざわざ変える絶妙な浅ましさもある」


≪ 続きまして、ハルモニアの現状をご覧ください ≫


 と同時に3D動画ファイルが送られてくる。

「続くの?!」

先ほどと同じように田中の端末をハブにして全員が閲覧を始める。

 まず映されたのは宇宙センター。

「倍速? なんかノイド早くない?」と猫星が指摘した通り、ノイドが目視で通常の三倍の速度で稼働している。発射設備の改修を行っているようだ。

「いや、多分ソフトウェアを変えてギリギリの速さで稼働させてるね。関節部から火花散ってるし」アナントが言う通り、キビキビと動くノイドは、関節部から火花をまき散らしている。

「うぅ、可哀そう」猫星が目を覆う。ノイドをよく扱ってきた田中も苦い顔をする。

 次に映し出されたのは謎の大規模施設と、その中にある作りかけの船らしき建造物。

「この施設は見たことが無いな」

「ノイドとの大きさの比からして、UMOの言う恒星間宇宙船じゃないか?」ガブリエルが推測する。

「なんか多すぎない? こんなにノイドいたっけ」猫星が首をかしげる。

「ノイドの生産も行っているんだろう。彼らにとって最適な形ではないかもしれないが、生産設備が整っているから一旦ノイドを量産している可能性が高いな」


≪ この他にも現在、火星の地殻深部まで掘削し、多様な金属資源を抽出しております。また六か月後には火星の核に到達し、鉄の安定供給を実現いたします ≫


「核までいけるの?!」猫星が実況に参加する。

「もう分からん……実現されたところでなぁ」マークが一息つく。


≪ 続きまして、貴文明の人間個体の保存形式に関する、比較検討資料です。いずれも貴文明の自己保存的尊厳に十分配慮した内容となっておりますので、安心してご覧ください ≫

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