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解! 読! してぇ!

「りょ」そう言って猫星はPCに向き直り、ハルモニアのスパコンへのアクセスを始めた。

「えっ?」猫星の笑顔が消えた。


 マークからの呼び出しを受けた田中が、フライトコントロール室に入る。

「お疲れ様でーす……ん?」

マークと猫星が、口を半開きにしてそれぞれのPC画面に見入っている。

「あのー」

「この地表温度……発電系統がフル稼働かも」猫星の震える声。

「衛星通信の量も半端ない」マークが息をのみながら、小さく答える。

「まだ人いるってこと?」

「少なくともデータ上はノーだ」

「どうしたんですか?」

「あぁ、田中か」マークが気づく。猫星にいつもの軽口は無い。

「無人のはずのハルモニアがフル稼働している」

「はっ?!」

「私も整理しきれていない。猫星、いま取れるデータを全て取りながら列挙してくれ」

「待ってね……まずハルモニアのスパコンの稼働割り当て。私がアクセスしようとして気づいて、もう九十%稼働してる。次に電力生産。核融合発電と原子力発電がどっちも稼働し始めて、これは衛星の赤外線画像で分かった。ちょっと待って……?」猫星が口を止めて手を動かす。

「データ通信量を確認したが、衛星通信もかなり使われている。カドモスと饕餮は、少なくとも内部では衛星通信は使っていないからな」マークが自分に確認するようにつぶやく。

「もう何これ」猫星が青ざめる。

「どうした」

「ノイドが全稼働、なんか作ってる。あと宇宙センター周りもすごく賑やか」

「もっと定量的に」

「えーと、一三四体。建築っぽいことしてる場所はハルモニアの北西の大平野。宇宙センターでの稼働の目的は……シャトル発射しかあり得ない」

「相当な人間が残っていないと無理な活動量だぞ? とにかくシャトルが打ち上げられるのがリスクだ。カドモスに連絡が無いということは、少なくとも友好的な勢力ではない。シャトルを打ち上げるまでに最短で何時間かかる?」

「もし中に何も入れないとしたら、最速で三時間くらいかな」

「時間が無さすぎるな。解読を急いでもらおう。それ以外にリターンが見込める行動が無い。田中は解読のほうに戻ってくれ、ハルモニアからナノグレイを輸送できる見込みが小さいからな。私たちは引き続きハルモニアの現状を調べる」

「了解です」田中は急いで部屋を出た。


 研究用端末室に戻った田中は、先ほど設定した20:2のまま同期を始める。


――復習だ。C―1は千単語のリスト、C―2はその単語のみで構成される十万個の文。おそらく、文法構造の解析から初めて、接続詞的なものを特定して……


その思考が反響したのか、眼前に、無数の点が無数につながっている球が現れる。その右側には、「SVO」や「SVC」といった過去に習った文法構造がもれなく整列する。左側には蝶番、Wi-Fiのアイコン、さらに男女の交わりなどの映像が表示される。


――「接続」が反響しすぎてるなぁ。まぁいいや、接続詞っぽいのはどこかなぁ? 多分、「多くの文に現れて」かつ「文頭でも文尾でもない場所に現れやすい」系かな?


すると球を構成する点と線の一部がピカピカと光りだす。そのうち、特に二つが一等星のように強い煌めきを放っている。上を見上げると、自分が知っている接続詞の一覧がふわふわと浮かんでいる。


――晴れた夜空みたいだ……


すると、白かった背景が急に暗くなり、夜空に変わる。球も文字も白くなり、映像は星座に抽象化された。


――いいねぇ。プラネタリウムじゃん。で、どうしよう。適当に接続詞をぶっこんでみようか。接続詞は「AND」と「BUT」あたりかな。名詞は私、あなた、宇宙、天体くらいで。


すると、星になった点と線がチカチカと点滅を始める。


――一分、現実時間では三十秒待ったけど何も分かりそうにない。ただプラネタリウムを眺めていただけ。考え直すか。確かガブリエルさんが、UMOは「重力波しか送れない」かつ「人類が扱う記号規則が分からない」状況と仮定していたな。


夜空の星達が消え、中央にひらひらと赤い膜が舞う太陽が大きく現れる。左下には、黄道面から明らかに上側にずれた小さな点や、土星の輪のような細かい粒子が見える。


――あぁそうだ、太陽系の三次元マップが太陽を中心に描かれていたんだ。小さな点はおそらく木星、集まった粒はUMOの重力に引かれた海王星の残骸や小惑星か。「人類が解読しやすいように頑張ってくれてる」という仮説も立つ。それでも、自然言語は難易度が高い。なるべく汎用的な記号規則にしてくれてると思うんだが……数学的に扱える自然言語とか無いのか?


天体が消え、夜空の中にアラビア数字が1から10まで整列する。1に注意すると、1からシュッと細マッチョな手足が生え、腕を組んで仁王立ちを始める。すると3が淡い緑色に光り、ぐんぐんと縦に伸びていく。その間にある2は、手を生やして横に伸ばし、1と3を握手させようと試みた。


――変なアニメだ。確かに数字ごとに意味らしきものは感じるけど、UMOも同じ感覚を持っているとは限らない。


左上で、「0ー1」という数式が生まれる。するとその式から無数の白い粉がぶわわっと全方向に染み出す。右上では「0÷1」という式から、一本のレイピアのような剣先が僕の眼前に高速で突き出される。


――うおっ。なんだこれ。四則演算の概念版みたいな? 0が無限、1が頂点みたいなニュアンスだとして、「0ー1」は頂点なき無限。「0÷1」は……なんだ? 無限の中から頂点が出てくるみたいな感じか? でもしっくりこないなぁ。これだと抽象的な意味しかやり取りできない。C―2を見返したいな。あれも違和感があった。


c1, c2, c3

c2, c4, c5

c3, c6, c7

c4, c8, c9

c5, c10, c11

……


――そうそう。3単語のみで規則性もある文が、c33が出てくるまで合計16文ある。17文目以降は2単語~15単語とかなり幅があるのに、最初の16文だけ不自然だ。しかもc2以降は17文目以降も頻出するのに、c1は一文目しか出てこない。逆に言うとめちゃくちゃ大事そう。とはいえ解き方は分からない。もっと親切に解読させてほしいなぁ……。


解! 読! してぇ!

眼前にデカデカと筆で描かれる。


――解読して、アナントを驚かせたいよなぁ……。待てよ。「解読」という行為自体は、どんな記号規則を持つ生命でも行うのでは? より汎用的な記号規則を目指すなら、「私」とか「宇宙」よりは、「解読」のほうがc1としてあり得るのでは? 待て、そうすると次に重要そうなc2~c33はどう解釈できる?


左に「解読」という文字、そしてそこから右側に樹形図が展開される。まずc2とc3に分岐し、c2からはc4とc5……と続いていく。そして全方向からうるさいファンファーレが響いてくる。


――有り得る。意味的にc1=c2+c3。c2=c4+c5。例えば「解読」=「分かりやすく」+「変換」。いやこれは違う。「分かりやすく」みたいな形容詞は汎用的にならないだろう。もっとこう……なんというか……物理的な現象?


すると、透き通った中性的な声が響き渡る。


” 生命間で交換可能な現象とは何か


それは物理的な変化を産むもの

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