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UMOと太陽系の位置関係

 アナントはAGI(人工汎用知能)の操作画面を開き、B―1信号ファイルと、その信号をドットとして二次元展開と三次元展開するようリクエストした。


 三十秒後、結果が出る。

「二次元展開は違うみたいだね。でも三次元展開後のファイルがある。グラスに転送するのメンドイから、PC内で開くね」

すると白い背景の中に、大小さまざまな黒い点が現れる。

「太陽系……いつのだ?」ガブリエルが呟く。

太陽の中心を原点として、各惑星と衛星が静止画像として表示されている。

「火星の位置的に、最近なことは間違いないね。この重力波を送信した時じゃないかな?」

「おそらくそうだな。しかも座標は正しそうに見える」

「衛星レベルの天体は把握しているってことは分かるけど……所々ノイズがあるね。同じ信号が三回あるといっても、ドットだからノイズ除去は難しかったか」

「うむ……いや待て。一セルの大きさはどのくらいだ?」

「えーとXY軸が十m、Z軸が五mだね」

「そう思うと火星の近くにあるこのまとまったセル群、ノイズにしては大きすぎないか? 輸送船レベルだぞ」

「うーん、断定はできないけど、輸送船の可能性もあるね。もし輸送船の場合、その小ささまでUMOは把握できているってことか。むしろ、人間がいたずらで作ったようにも見える。だって中心が太陽でXY平面が黄道面とピッタリって、人間仕様すぎない? UMOが作ったとしたら親切すぎる」

「人間のものである可能性も否定できないが……私の直観ではUMOからの信号としても全然ありうる。ちょうどいい、断定できないが私の仮説を共有させてもらおう」

アナントが声をださず頷く。

「端的に言うとUMOは、『重力波しか送れない』かつ『人類が扱う記号規則が分からない』という前提のもと、できるだけ人類が解読しやすいような信号を送っている」

「ブレーンワールド理論……」アナントが生返事でうつむき、三秒後に「一旦賛成」と顔を上げた。

「もう少し制約条件を増やせそうじゃない?」

「あぁ、あとで整理しよう。それよりもう一つ、A―1も試さないか?」

「そうだね。数理モデル的な信号とはいえ、そんなに情報量は多くないからスパコンよりもAGIの方がいいかも。やってみる」

「頼んだ」

 アナントはAGIの操作画面を開き、A―1信号ファイルと、「天体の各種運動方程式およびそのための定理群だと仮定して、信号の意味を解読してみて」とリクエストを出す。


 五十秒後、ログにずらりと方程式が並ぶ。

「出た。やっぱり天体の運動方程式だね。これ他のもいけるんじゃない?」

「あぁ。とはいえ、この二つの信号で把握できた情報は少ない。UMOは少なくとも天体レベルで太陽系を観測・モデル化できていることだけだ。何かしら、こちら側がするべきアクションを示唆する信号があればいいんだが」

「だね。次は本命、C―1をやってみよう」

「その前に『その重力波、ホントに自然現象?クン』の結果が出たぞ」そう言って確認したガブリエルは「ハハッ、まぁそうだよな」と笑った。


 二日目。前日の計画会議からちょうど二十四時間が経過し、多目的室に全員が集まった。まずはマークが口を開く。

「ある程度チャットで報告は受けているが、改めて現状の確認を行う。まず航行管理班からだ。こちらは順調に進み、挙動予測シミュレーションも大きく二パターンは完了している。先にその詳しい説明をさせてくれ。猫星」

「はーい。映しますねー」

全員のスマートグラスの眼前に、UMOを中心とした三次元宇宙図――デジタルツイン――が表示される。図の端っこにあるカドモスは光でマーカーされている。今は一倍速らしく、全ての動きはゆっくりだ。

「だいたい十の十乗分の一スケール。まずは重要な前提の確認からね。黄道面に対して、UMOは一定下向き約十度の角度で太陽に接近中。これは海王星のときから変わんないね」

猫星の流暢な喋りに応えるように、床と並行になっている黄道面が薄い黄色でマーカーされる。田中がグラスをつけたまま下を見ると、自分の胸あたりを切りさくように表示されている。その後、UMOの推定中心点と太陽の中心点が線で結ばれ、黄道面との間に10.3°と表示される。

「次に木星の運動状態。木星はかなりシャープな楕円公転軌道を描いていて、UMOと最接近時は約〇・八AU、最離反時は約二・八AUの距離で公転してて、一周に約八十五日かかる。けっこう早い。公転方向は、あー、太陽含めた方が理解しやすいか。黄道面に垂直な面を立てたとして、だいたいこの面で回ってる。このとき太陽側から見て、反時計周りに木星は回ってる。UMOの自転方向と一緒ね」

先ほどのように、猫星の説明を補足するようにマップが光ったり文字が加えられたりする。

「火星も公転方向は一緒で、公転面はちょっとズレる。軌道は木星ほど楕円形じゃないけど、UMOと最接近時は約〇・五AU、最離反時は約一・三AUの距離。今のところ一周に四十日かかる」

 ふぅ……と猫星が一息つく。

「で、ここからが本題。今後の現実的な予測が二つ。一つ目が、UMOの見かけの質量がほとんど変わらない場合。この場合は…ちょっと待って、見た方が分かりやすい…百倍速にするねー」

猫星が少しいじると、グインと一気に全物質が速度を上げる。

「もっと加速するよー!」

火星が木星に近づく。小さな点で表示された近傍小惑星が散乱を始める。

「はいここストップ! 四日後付近がヤバイ。海王星ちゃんの子どもとか、木星ちゃんがたくさん連れてきた小惑星とかが火星圏に大量にお出まし」

「ヤバいねー」あっけからんとした表情で、呑気な声を発するアナント。

「ふむ……」おそらく別のタブも開いて何かしらをしているガブリエル。

(え……何も起こらなくてもヤバイってこと?)一方で田中は汗をかいていた。

「猫星、パターン2をヒァウィゴー」マークが猫星を促す。

「オッケー。パターン2は、UMOの見かけの質量が、だいたい十時間以内に十%以上の増加を見せた時。それぞれのサブパターンのシミュレーションは……どのくらい説明しよっかな」

「サブパターンの数は?」アナントの質問。

「えーと、まず見かけ質量増加にかかる時間ね。1から10時間を1時間ごとに刻むのと、30分と10分の計12種類。次に、見かけ質量の増加幅。10%から30%を1%ごとに刻んで21種類。あと、増加率のパターンが線形型、y=x^2の指数関数型、y=logxの対数関数型の3種類。最後にそれがいつ起こるかで、今日から10日後までを1時間ごとに区切って240種類」

「大体18万種類のサブパターンか。増加が断続的に複数回起こる可能性は……まぁ今はいいね」アナントは自分で納得して頷く。

「そうだね、それ含めて他の変数も後で試す。で、危険なサブパターンが何個かある。ここで詳しくしゃべってもいいけど、どうするかんちょー?」

「大丈夫だ。後で詳しいファイルは送るから、皆はBロードで一応確認してくれ。いずれにせよカドモスの航行に支障がでる原因は、大きく分けて二通り。小惑星が飛来して物理的損傷を受けるか、木星磁場の影響で電子機器がダメになるかだ。木星かUMOに火星圏が引っ張られて衝突する可能性は、ほぼ無い」

「一つ」

「なんだガブリエル」

「UMOの引力源が、球形じゃない可能性もある。いやむしろ、確信と言ってもいい。不定形ではないと思うが、円柱形または扁平に近い楕円形であり、太陽系に影響しているのはその先端部である可能性だ」

「その可能性を踏まえるとどうなる?」マークが首をかしげる。

「マジ……?」猫星の顔が引きつる。

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