第90話 また姿が変わった
「え? 魔女さんも行ってしまうのですか?」
とても不安そうなサラさんに、冒険者ギルドの建物を出たところで引き止められています。
「はい。色々確認したいこともありますし、薬草の在庫も心もとなくなっていますから」
私は夜の深淵の森『ヴァングルフ』に入ろうとしているのです。正確にはラファウール魔導師長さんに、グランディーア兄妹の術を解除してもらいのに、付き添いでついていこうとしているのです。
流石にご老人を一人で夜の森に行かせられません。
あとついでに薬草の採取もしておきたいです。
「サラさん。我々はここに待機ですよ」
治療師のツヴァイさんに肩を掴まれて項垂れるサラさん。
「絶対に魔女さんのほうが治療師に向いていると思うのです」
「私は魔女ですからね」
薬が作れるというだけの魔女です。治療師ではありません。
私は鈍器とランタンを取り出して、火をつけたランタンを引っ掛けます。
今の暴走気味の魔物に効果があるとは思えませんが、灯りとして役に立つでしょう。
鈍器に腰掛けふわりと浮き上がりました。そしてラファウール魔導師長さんも仰々しい魔法の杖に乗って出発できる準備は整ったようです。
「それでは行きましょうか」
私は外套のフードの中にケットシーの幼生がいることを確認して、灯りがところどころ見える森に向かって行ったのでした。
「流石、聖騎士ハイヴァザールといったところか」
私と魔導師長さんが飛行して進んでいるのですが、足場が悪く視界が悪い森の中でも同じ速度でクロードさんがついてきています。
そのことに魔導師長さんが感心していました。
聖騎士ハイヴァザールの名は有名ですものね。何故、このような辺境の地にいるのか不思議なぐらいです。
クロードさんは異界の勇者の件がなければ、アンドラーゼ聖王国の聖騎士として、その名を今でも轟かせていたことでしょう。
本当に、私の夫など自称しなくてもいいですのに。
「この方角であると、やはりガンディス渓谷か」
魔導師長さんが言うように、知っている魔力の存在が、ガンディス渓谷の方角で先程から動いていないのです。
ここで戦闘か、何かが起こっていると思われます。
「シルヴィア!」
クロードさんの声に、飛行高度を上昇させます。しかし、視界の端に映り込む三日月のような大きな爪。
この距離では魔法は間に合いません。
鈍器を握る手に力を込め、飛び降りながら大きな爪に向かって振り下ろします。
鈍器によって破壊される爪。
叫声を発しながら頭部が落ちて倒れていく獣型の魔物。
「シルヴィア。怪我はないか」
あら? いつの間にかクロードさんに抱えられて地面に着地をしています。
そして地面を揺らしながら倒れる魔物。
いったい何の魔物なのですか?
爪があったので獣型の魔物だと思うのですが。
「陰影の蟷螂だ。また姿が変わった。銀鋼熊が飛んだのがおかしいと思ったが」
地面に横たわっているのは蟷螂型の魔物でした。私が爪だと思ったのはカマの部分です。その部分が粉砕され形をとどめていません。
そうです。私と魔導師長さんは宙を飛んでいました。数日前にヴァンウルフの物体Xによって破壊された場所を、ちょうどいいと言わんばかりに進んでいたのです。
その飛んでいる私たちに横から、攻撃してきたのです。安全だと思って飛行していた。その思い込みが隙を生み出してしまったのでしょう。
基本的に飛行行動を避けるグエンデラ平原に、生息している陰影の蟷螂。あの場所は空を飛ぶモノが多いので、警戒するのですがね。慢心していたということです。
あと硬質な銀鋼熊はこのヴァングルフの森にはいません。
「ふむ。これはこれは幻術の部類であるな。あの若作り魔女の得意とするものである」
魔導師長さんは、黒いモヤを発しながら崩れていく陰影の蟷螂を近くで観察しています。
「これであると、本質は変わらず姿だけの偽装であるな。だが、それだけでも対処を間違い被害が大きくなっていくであろう」
すると魔導師長さんは地面に降り立ち、魔法の杖で地面を叩きました。
「このような場所では魔素が豊富である。しかし、解呪しようにも森全体に使用するほどの魔素量がない。地の流れは……ふむ。五箇所であるか」
そして魔導師長さんが私の方に視線をむけました。
「確か、核となるものを保管しておったな。それを使って使い魔を作らんか」
何かとんでもないことを言われましたわ。確かに陶器の破片を持っています。
バジリスク。ヴァンウルフ。霊樹。魔鉱蜥蜴。陰影の蟷螂。
あら? 五つもありますわね。
これは、まさか……
90話でした。読んでいただきましてありがとうございます。
書籍の2巻目がコミックシーモア様にて配信中です。1巻も割引されているのでこの機会にお手に取っていただけると嬉しく思います。
https://www.cmoa.jp/title/1101455605/vol/2/
さて、長編の作品は100話毎におまけ話を書かせていただいているのですが、なにかご希望の話があれば承ります。
次回は日曜日です。よろしくお願いいたします。




