第91話 表と裏
「使い魔ですか?」
作ることは容易ですが、問題は何を使い魔にさせようとするのかです。
簡単な行動しかしない使い魔であれば、すぐに作れますが、自我を持つ使い魔であれば、数日はかかりますわね。
「そうであるなぁ。術式に割り込んで、破壊する使い魔であるな」
魔導師長さんはそう言いながら、仰々しい杖で地面に何かを描き始めました。
魔法陣ですわね。
読み解くと複数体の融合。魂の変異。魔素の搾取。増幅。命令コードは破壊のみ。
これは……
「この部分である。複数体の融合を単体で反転消滅に書き換える。それだけで、厄災魂を食らうものは発生しない」
そう、厄災魂を食らうものを造る術式です。これは一般には知るすべがないものです。
なぜ、一国の魔導師長が知っているのです?
「言っておくがこれを吾に教えたのは若作りの魔女である。吾の知識のみで紙に書き写すことは契約上禁止しておるから安心せい」
それは三十年前に起こったときに、これを元に対処したということですわね。
それであれば、同じように対応できるとは思えませんわ。
「わかっておる。これだけでは失敗するであろう。だからこその使い魔である」
魔導師長さんも、対策はされていると考慮しているのですね。
「それだと自己判断できる使い魔ということですよね?」
「いや、そうでもない」
どういうことでしょうか?
薬草の知識は豊富ですが、魔導師としてはかけている部分があるのは認めましょう。
私の基礎知識はアンラヴェラータ魔導王国の教本ですからね。全てを網羅しているわけではありません。
「その核は元々は魔法陣にあったものだ。跳ね返されることはないであろう。単体を取り込んでというところがキモである」
「あ、取り込んでしまえば、魔法陣は受け入れるしかない」
「そういうことである。しかし保険もかけておかねばなぁ」
そういって魔導師長さんは再び地面に何かを描き始めました。
「なぁ、そもそものことを聞いていいか?」
私がランタンに照らされた地面を見ていると、クロードさんが聞いてきました。
「何ですか?」
「五つあるというのは、その……アルマトルーを造る魔法陣がということか?」
「そういうことでしょうね。微細な魔力検知は得意ではありませんので、私にはわかりませんが」
何度も言いますが、私は禁厭の魔女ですからね。戦いは不得手ですからね。
「さっきから気になっていたのだが、あっちの方から不穏な魔力の流れを感じる」
クロードさんが指す方向は、ベトリズ山道のほうです。この先で道が別れますが、サイさんたちがいる方向ではありません。
「むむっ! 確かに微細だが怪しい魔素の流れがある。言われなければ吾も気づかなんだ」
「それがその魔法陣があるところとか言わないよな?」
え? 魔法陣が発動しているということは、十人の犠牲者がでてしまったということになりますわ。
あの幻惑の魔女が人を集めていると言っていましたが、簡単にやられてしまうような人を投入するとは思えません。
「これは……勘違いしておったのかもしれぬ」
慌てて魔導師長さんは地面に描いていた魔法陣を消し、新たに同じような魔法陣を描き始める。
違うのは複数体が単体になっているところですかね?
「犠牲者が一人でたと聞いておる。もし、一つの魂を対価にして厄災魂を食らうものを出現できるのであれば、こちらは対応する時間は無いに等しい。……いや」
何かを思ったのか魔導師長さんは、自分の考えをまとめるように地面に書いています。その内容はとても恐ろしいことでした。
「まさか、厄災魂を食らうものの共食いですか」
「一つ出現すれば、直後であれば対応できるであろう。だが、複数体の出現は流石に厳しいところである。そこで、完全なる厄災魂を食らうものではなく、出現後に完全体にすれば、成功率は上がるであろう」
そうなると、五つという数字がおかしいですわ。一つでは守護か悪魔としか意味をなしません。守護を意味する正の五芒星と悪魔を意味する逆の五芒星を合わせることで、厄災が生み出されるのです。
世界を浄化する厄災がです。
「五つでは完全体にはなれません」
「恐らくではあるが、あの兄妹はグエンデラ平原で見つけてしまったのかもしれぬ」
もう五つの魔法陣をですか。
森と平原ですか……。
私は空間から冒険者ギルドで買える深淵の森『ヴァングルフ』の地図を取り出しました。
「ここに今感知できる魔法陣の場所を記してください」
表と裏。森と平原。
五芒星の意味が含まれているのであるのであれば、これが発動したときは最悪のことになりますわ。
91話でした。読んでいただきありがとうございます。
次回は水曜日です。




