第123話 この大陸にドラゴンが少ない理由
「何を作っておるのじゃ?」
シャロンさんが興味津々に聞いてきました。
まだ、薬草を切り刻んでいるだけですわよ。
「それよりもなぜ、ここにいるのですか? 最低一ヶ月は戻ってこないと言ったはずです」
はい、私は魔女の中庭に降り立っていました。
門さえあれば、私はどこからでも中庭に降り立つことができます。
ですから、今は王都の宿泊施設の別館と繋がっているのです。
「友達に会いにくるのに、理由はいらないのじゃ!」
ですから、留守にすると言ったではないですか。
「それに、そろそろミルクが必要かと思ったのじゃ!」
ノエルのミルクはありがたいのですが、留守なのに毎日来ていたとか言いませんわよね。
ノエルはシャロンさんが持ってきてくださったミルクを美味しそうに飲んでいます。
そう言えばいつになったら、固形物を食べさせていいのでしょうか?
「それで何を作っておるのじゃ?」
「石化の解除の薬です」
「ん? 石化は呪いであろう? 薬で解除できるのか?」
確かに基本的に石化は呪い系です。呪いの本体をどうにかしないかぎり、どうにもなりません。
まぁ、呪いではない石化もあります。今はそちらの石化解除の薬を作っています。
「今回のは死の呪いをベースにした石化です」
「ん?」
「死の呪いは解けません。しかし、石化であればどうにかできます」
「なぜ? わざわざ石化を解くのじゃ? それでは死んでおるのではないのか?」
そうなのですが、私にはこれ以上はどうすることもできません。
死というものが確定できなければ、夫人は納得できないのでしょう。
切り刻んだ薬草を冷水でさらして、一晩漬け置きです。今日の工程はここまでですね。
「さぁ、死というものを受け入れられないのかもしれません」
「そう言われると、わからないでもないのじゃ。……しかし、解体する量が半端ないような気がするのじゃが、聖騎士はどうしたのじゃ?」
クロードさんは今、小川の側で山積みになっている魔物を解体していっています。道中で遭遇したモノや、夕食に確保したときに余ったモノですね。
「それに、何やら唸り声も聞こえてくるのじゃ」
そうですね。クロードさん越しに唸り声も聞こえてきます。
「たぶん、騙されていたことが、バレてしまったのでしょう」
「聖騎士を騙していたのか?」
はい、満腹感を与える薬草を混ぜていたことにです。
実は、ものすごく空腹なのだと気づいたのだと思います。
解体するクロードさんの背中から覇気が漂っているように思えますから。
「はぁ、これだとやはり移動速度を落とさないといけませんわ」
聖獣の空腹を紛らわせようとするのは危険です。
ビシビシと聖気が飛んできます。危険を察知して張った結界に火花が飛んでいますから。
「なんじゃ? ドラゴンで移動すれば、遠くでも一瞬じゃ!」
「今いる大陸には、飛竜種があまりいないのです」
「むっ? アンラヴェラータ魔導王国があった大陸におるのか?」
「そうですね」
「あそこは、ドラゴン狩りが行われて飛竜が全滅したとあったのじゃ。それは移動手段に困るじゃろう?」
「なに!」
遠くの方からクロードさんの叫び声が聞こえてきました。
どうされたのでしょう?
そして、解体中の血まみれのナイフを持ったままクロードさんがこちらにきました。
「ドラゴンがこの大陸にいないのか!」
「いっとき全滅しかけたらしいから、ドラゴンは他の大陸に移動したと歴史にはあるのじゃ」
「昔ほどは、いないでしょうね」
シャロンさんと私の答えに、クロードさんが絶望したように地面にうなだれています。
いないとは言っていませんよ。
先に、その血まみれのナイフをどうにかして欲しいです。あと、クロードさんから聞こえてくる唸り声がうるさいので、取り敢えず何か食べてください。
「ドラゴンを狩りにいけないのか」
「渡りのドラゴンならいると思うのじゃ」
シャロンさんが、大陸間を移動するドラゴンのことをおっしゃいましたが、あれは季節性のものなので、今すぐと言われても無理ですわよ。
「どこに行けばいい!」
「さぁ?そっちの大陸のことは知らぬのじゃ」
「ドラゴンに関する生態書物なら王都に売っているのではないのですか?」
私もその辺りの知識はないので、他の大陸に向かったぐらいですから。
それに今いるのは王都なので、情報であれば一番集まっている場所と言えます。
「シルヴィア!今からデートをしよう!」
私をデートに誘ってきましたが、私としましては、先にその唸り声を上げている聖獣のお腹を満たして欲しいですわ。
それから、デートというより、ドラゴンの情報集めですわよね。クロードさんは、本当にドラゴンスレイヤーになるつもりのようです。




