第二十話 顛末
「まず、ヴァイゼ様が土砂崩れに遭いました。」
ヴァイゼ殿下が土砂崩れにあったのは彼等にとっても想定外だった。私達は付いているとか言っていたし。そもそもとして、天災を人工的に引き起こすという話は荒唐無稽な話の訳で、状況と言い回し的に推察するに、
あれらの計画は__
「便乗ですか?」
私の言った言葉をそのままマッカーサー隊長が呟く。
「そうです。元々、それに近い計画を立てていたのでしょうが、タイミング良く殿下が土砂崩れにあった。」
「フェリを殺すには丁度良かったということだな。」
唾を吐き捨てるような言い回しをするヴァイゼ様を苦笑いで見つつ、私もその言葉に首を縦に振った。
「彼等の目的は最初から最後まで私を殺すことでした。細かい理由は分かりませんが、今後の動きをしていく中で私という存在が邪魔だったんでしょう。」
私がヘブライに交渉材料に渡された資料は、私が落ちる前に回収されてしまった。黒ずくめの男達にも持っているかと聞いたけど廃棄したと言っていた。まぁ、流石に重要な資料を残す程敵も甘くはなかったという訳だ。
「では、細かい内容はわからないということですね。」
「あぁ、それは」
マッカーサー隊長が少し落ち込んでいるとヴァイゼ様がこちらを見た。えぇ、わかってますよ。そんな私が泣かせた悪人みたいな顔で見なくても。
「廃棄された情報に関してはそこまで問題ないです。」
「え?」
「フェリが書き起こしてくれたよ。」
本当辛かった。解放されて早々に、ヘブライの捕獲、騎士団達への対応や資料の書き起こし…色々な処理をやらせたのだ。ボーナスは弾んで貰おう。いや、絶対に弾ませる。でないと、割に合わない。
「流石に手書きはきついので、魔道具は使いましたが。99.9%は書き起こし出来ているかと。手元に資料があれば確実だったので本当に惜しいですが。」
「…何ページあったのですか?」
「ざっと30ページくらいですかね。」
「さ、30?!」
「そうか、マッカーサー隊長は知らないのか。フェリって驚異的な記憶力の持ち主なんだよね。ほら?偶にいるだろう一回見ただけで覚えるっていう、フェリは正しくそれ。秘書官になってからは、驚異的な情報処理や迅速的かつ柔軟な対応が評価されていたからあまり知られてなかっただろう。」
学生の頃は寧ろその驚異的な記憶力の方が有名だったんだよね、と我が物言う己の主人に渋々頷く。なんでそんな陳腐なことを知っているんだこの人と思ったがそんな話をしては今話している話から脱線するのは火を見るより明らかなので、一旦頭の端に追いやった。
「まぁ、なので書き起こしは完了してます。今、騎士団の秘書課と王宮の秘書課の総出で調査してます。」
「もう、そこまで事が進んでいたのですね。捕まった直後で大変だったでしょうに。」
えぇ、本当に。思わず頷く。
「ボーナスはプラス50%貰うつもりです。」
「…30%にならない?」
「仕方ないですね、じゃあ今月の給料に危険手当分を追加して貰って。私の誕生日プレゼントはエーリミスも追加で手を打ちましょう。」
「うん、それでいいよ。」
流石フェリ交渉上手だね、とヴァイゼ様は笑った。よし、これで貯金が貯まるぞと少し気分が上昇したところで目の前にいるマッカーサー隊長に意識を戻す。
「すいません、話が脱線し過ぎましたね。えーと、なので今はまだ私が見た資料の内容に関しては話せないです。信憑性が裏付け出来ましたら連絡します。」
「お願いします。それで、フェリシエ様とヴァイゼ殿下はどのように連絡を取り合ったのでしょうか?」
「正確な事を言うと、連絡は取り合ってないんです。」
「へ?」
「ヴァイゼ様は私を、私はヴァイゼ様を、互いに互いの動きを予測して動いていたという感じです。」
「…そんなこと、実際に可能なのでしょうか。」
「可能っていうのか、実際出来てるしね。」
マッカーサー隊長の素朴な質問にヴァイゼ様が紅茶を呑みながら呑気に答えた。まぁ、現実的に私とヴァイゼ様、そして5年以上の長い付き合いが成せた芸ではある。
「私はヴァイゼ殿下がいるところを絞って土砂崩れな捜索をしていたと思います。」
「そうですね。」
「目の前ということもあり、殿下が埋もれた位置はある程度予想できましたし。殿下が3日以内に見つかる可能性は高いと思いました。」
実際に2日目の夜頃に発見されたと聞いた。
「出てきた殿下はまず私の行方を確認する筈です。」
「確かに、ヴァイゼ殿下の開口1番は「フェリはどこ?」だったと私も記憶しています。」
「それだけ切り取られちゃうと恥ずかしいね。」
「ヴァイゼ殿下は放っておいて」
「あ、今フェリ私のこと”この阿呆”とか思ったでしょ。全く失礼だな。羞恥心は大切だよ。」
「思ってないです。」
「いや、絶対「思ってないです。」」
これ以上余計なこと言うな、と笑みで圧を掛けると「私の勘違いだったかも、アハハ…」と苦笑いするヴァイゼ様を見ながら軽く溜息を吐いた。
「そして、私が誘拐または事故に遭ったことを知る筈です。声明が届いてもいいタイミングでもあると思うので声明を見たというところでしょうか。」
「そうです。丁度私達の所に手紙が届いた頃、ヴァイゼ殿下も見つかり、その声明を見せました。」
「その声明には?」
「フェリのことを誘拐、監禁した。12時間以内にこの者は死ぬ。死なせたく無ければ、俺を差し出せってね。」
マッカーサー隊長の言葉の後、ヴァイゼ様が言う。その後、自分が持っていた酒のグラスをドンとテーブルに少し強めに置いた。結構怒ってるな、これは。
「まぁ、声明は多方予想通りの内容ですね。で、ここで重要なのが’’誘拐監禁’’と”12時間”です。」
誘拐&監禁ということは、私はまだ殺させていない。生きているということ。生きてどこに監禁されている。生きている人間を監禁する為には、人がいないところや大きな荷物を運んで他人に見られないか、怪しまれないところを選ぶ。今回だと、山が近くにあった為、森の中に建物がありそこに運んだと考えるのが定石。
そして、12時間という時間指定。時間が来ると私が死ぬと考えると先ずは沈む系。地盤が緩いところや水流地に上手く立っている建物があれば、じわじわと沈んでいく所に私が監禁されている可能性がある。あとは、今回みたいな時間的制約が着く魔道具を使用されている状況。今回はロープに時間制限が付与されている形となっていた。…あの声明でヴァイゼ様ならここまで考え、可能性を潰しここまで来ることはわかっていた。




