第二十一話 破顔一笑
「わかっていた?」
「はい。ヴァイゼ殿下もここまで考え、私の事を捜索した筈です。あと、まだ自分が見つかったという情報を敵に遅らせる為に騎士の装いとかして。」
マッカーサー隊長は、感心したように頷いた。
「そうです。山に建物がないかを捜索しろと。それで今回塔を発見し、塔に向かったという訳です。」
「まぁ、スムーズに助ける事が出来たのはフェリが機転利かせて僕達に黒ずくめの男たち使って監禁場所を正確に教えてくれたのも結構デカいけどね。」
いらないウィンクを咬ます男を横目で冷たい目で見る。様子から全然効いてないことだけはわかる。
「使って?教えて?…彼らはどちらかというと我々の進行を妨げていたように思うのですが。」
「それが正しくフェリの機転。ね、フェリ」
渋々、ヴァイゼ殿下の言葉に頷く。
黒ずくめの男には、契約通りに彼らから私を邪魔して欲しいということは言った。ヘブライのことだ。私の監禁場所まで護衛達を隅々まで配置したに違いない。そして、それを見逃す程ヴァイゼ殿下も間抜けじゃない。
「なるほど。邪魔があればある程我々はフェリシエ様に近付いていることを暗に示していたんですね。」
「はい。彼らにはヘブライの契約通りに仕事を行って貰いました。契約が切れるタイミングも聞けたので、後は私がヴァイゼ殿下に助けて貰った後に邪魔しないとかヘブライから私を守るって言った細かい契約を結んだです。私も殿下に居場所を示せるし。彼らにとっては2倍儲けられんですから悪い話ではなかった筈です。」
「誘拐されているのに、そこまで考えて」
「ね、俺の麗しの秘書官は有能でしょ。」
どさくさに紛れて私の肩に手を置いて来た殿下の手を軽く払い除けながら、「別にトラブル慣れしているだけです。」と簡潔に答えた。ぶっちゃけた話、ヘブライがもっと頭が回り、用心深い人間だったらあの黒ずくめの男たちを使うことなどできなかっただろう。…それこそ詰みという訳だったのだが。悪運は尽きなかったようで良かった。隣にいるヴァイゼ様と目が合い、彼はにっこりと微笑んだが私は視線を逸らした。
王宮というのは厄介な場所だ。
人の思惑や欲が混在しカオス化している所が王宮という所だ。別にカオス化している所なんて大小はあるものの何処にでもある。ただ、王宮はそれが特に強い場所だ。今はヴァイゼ様を初めとした王族一家が皆仲が良く、穏やかな性質の持ち主だから安定している。そして、彼らは思考を放棄した馬鹿じゃない。しっかり自分達で考え判断することができる人達だ。私利私欲に塗れた人々と真正面から勝負が出来ているのだ。私の国だって、他国に比べれば平和の方の分類には入るがそこにいる人達が皆今の現状に満足している訳じゃない。今回のヘブライ然り少なからず不平不満を持つ人々はいる。だけど、それは私のような国の役人やここにいる王族など国政に関わる人間が知っていればいい。ヴァイゼ様の近くにいるということは、今回のような事に巻き込まれる可能性が常に潜んでいるという事だ。それに関しての不満は私にはない。それを百の承知で飛び込んだ訳だし、その分給料は弾んでくれているし。皮肉なもので、そのお陰で悪運だけは強化されていっている気もするけど。
…この人は生まれた時からこの環境に身を置いている。
「フェリ、客室一個用意してくれているらしいから、そこで今日言ってた約束しないか?」
「いいですよ。」
この事件の顛末を粗方話終わり、マッカーサー隊長は私達に軽く礼をして自分の今日泊まる宿に戻った。
「じゃあ、ワインでいい?南部の」
「それよりかは私はカクテルで。」
オッケー、用意するねと近くにいた侍女たちに指示を振ってくれた。…本来は私の仕事なんだけども。その後、私達の前には簡単な酒のつまみが用意された。その中には私の大好物の一つであるキャラメルでコーティングされたピーナッツがあった。本当に嫌味な位にさらっと気が使える。…本当、こういうところが女慣れというか何と言うか。「ありがとうございます」とお礼を言つつ、ピーナッツに手を伸ばした。
「ね、フェリ」
「何でしょう?」
「今さっきまで話していた土砂崩れのことだけど、もし俺が助からないとか3日目直前に見つかるかもしれないということは考えなかったの?」
そのことか、と思った。考えなかったと言ったら嘘だ。仕事上常に最悪を考えなければならない。
「考えました。それでも私も殿下も助かる方法を考えました。…だって、ヴァイゼ様嫌いでしょ。自分の為や所為で誰か犠牲になったするのは。」
「よくわかってるね、フェリは。」
流石、俺の秘書官だねと笑うヴァイゼ様を見る。ヴァイゼ様は偶にこういう寂しそうな顔で笑う。本人は多分自覚ないであろう。…彼はこういう所がほっとけない。
「それに私だって、死ぬ訳には行かないと」
「フェリ」
「…ヴァイゼ様に文句の一つや二つも言えずに死ぬ訳には行かないと。それにまだ私はやりたいことが山程残ってるんですよ。人生を謳歌せずに死ねません。」
「フェリさん?」
ヴァイゼ様が首を傾げた途端、目の前のテーブルでドンと音を立ててグラスを置く。
「大体ですね、何で私を助けたんですか!」
「いや、だって…」
「わかってますよ。私が埋もれるよりヴァイゼ殿下が埋もれた方が何倍も人を動かせるって。あのとき、ヴァイゼ様が私を庇うことが一番2人が助かる可能性が高かったということも…でも、貴方は王族です。」
「そうだね、ごめん。浅はかだった。気をつける。」
「…2度とやらないじゃないんですね。」
「痛い所をつくね。」
苦笑しながら、ヴァイゼ様は否定しなかった。こうなると、彼は頑なに意見を曲げない。
はぁと、軽く溜息を吐く。
「ごめんね、面倒くさい王子で。」
「自覚してるなら治して下さいよ。」
「う〜ん、まぁ、、善処はするよ。」
絶対に直さない人の言い方だな、と思いつつ空いたグラスに酒を注ぐ。…王族としての行動は間違ってたけど。
「私…一言も言ってなかったですね…」
「ん?何を?」
「助けてくれてありがとうございます。ヴァイゼ様が信じてくれたように私も信じて良かったです。」
にっこりと微笑む。
_この時の私は忘れていた。ヴァイゼ様に滅多に微笑むということをしないということを。
「…」
「何ですか?急に黙って…え?顔を反対に向けて」
顔を見ようとすると、ヴァイゼ様が思っ切り逆に顔を向ける。負けじと再度覗き込もうとするが、また逆に顔を向けられる。何回を繰り返して内に、「もう!何ですか!いいよですよ、もう!」と私が白旗を上げるまで繰り広げられていた。




