質問攻め
「はあーっ! すっごく気持ちよかったーっ!」
へし折った大木を前に、ヒカリンは右手に残る破壊の感触を噛み締めて身悶えしていた。初日以来ずっと求めて続けていた「デカくて硬いものを殴る」欲求がようやく満たされ、大満足である。
そんなヒカリンの肩を背後にいたレイが、ツンツンと二度と突っついた。
「……ちょっと。今のは何?」
「何って、ドカーンと殴っただけだよ? 入り口を出すために壊さなきゃいけなかったんだよね?」
ヒカリンがキョトンとした表情で振り返ると、レイは必死な表情で。
「そうじゃなくて! どうして攻撃スキルも使わずに、あんなバカみたいな火力が出せるのかって聞いてんのよ!」
「それはねー…………あっ。ダメだ」
「……は?」
ヒカリンは何かを思い出したように、急に口元を両手で覆い隠した。
「レイ。オンラインのお話で言ってたよね? むやみに自分のステータスを人に教えちゃいけないって! だから教えられないや。ごめんね!」
学んだ知識をさっそく活かせたことに満足し、自慢げにウインクを決めるヒカリン。
直後、レイのこめかみにピキリと太い青筋が走った。
「……あれは、信用できるパーティメンバーの場合は例外なの。いいから見せなさい。アタシを信用してるなら見せられるでしょ」
「えぇぇー……。でも、今のレイのすっごい圧を見てると、ちょっぴり信用ならないかも……」
素直すぎる本音をうっかり口にした瞬間。
ヒカリンの両頬がレイの両手によって、むにーっと横に引っ張られた。
「わ、わはった! わはったはらひっぱはいへー!」
両頬を限界まで伸ばされたまま、涙目でギブアップを宣言し。
ヒカリンは渋々、自身のステータス画面を展開した。
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名前:ヒカリン レベル:14 職業:ファイター
HP:1/1 【10-9】
MP:1/1 【10-9】
STR 445(筋力) 【10+435】
AGI 1(速度) 【9+35-41】
VIT 112(防御) 【12+100】
INT 1(知力) 【10-9】
LUC 1(幸運) 【20-19】
パッシブスキル:【破壊者】【不退転】【努力家】【軽量化】【空脚】【汚れて朽ぬ体】
アクティブスキル:【加熱】
スキルポイント:6
所持金 : 584G
装備:【剛腕・アガートラーム】【機動ノ要】【機動ノ足掛かり】【神秘のケープ】。
所持アイテム:なし
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「なっ……!?」
ヒカリンのステータス画面を見た瞬間、レイの口から素っ頓狂な声が漏れた。
何に驚いたのかは定かではない。なんたって、突っ込むべき点が多すぎるのだから。
「なによこの極端すぎるステータス……。STRとVIT以外が全部『1』固定になってるのは、チート武器のマイナス補正で縛られてるって予想がつくけど……」
「おぉーっ! 大正解だよ! レイってばすっごいね!」
【剛腕・アガートラーム】の代償を一瞬で見抜くレイのゲーマー力。ヒカリンはそれに感激し、パチパチと拍手を送る。
しかし、レイの表情は全く晴れない。
理解し難い事実が、彼女の脳内をパニックに陥らせていたからだ。
「……ならどうしてAGIが1のくせに、アタシと並んで歩けてるのよ! デュエルの時だって、ハエみたいに空中で動き回ってたじゃない!」
レイが凄い剣幕で詰め寄ってくる。
ハエ扱いされた事にツッコミたかったが、また頬を引っ張られるのはご免なので、ヒカリンは反論しないで素直に白状することにした。
「それは【軽量化】のスキルのおかげだよ。AGIの規定値に補正がかかるから、数字だと1にみえても速くなれるんだって」
「そんなふざけたスキル、どこで手に入れたのよ! というか、アンタのスキル欄どうなってんの!? 見たことも聞いたこともないスキルしか並んでないんだけど!」
「そりゃあ、ほとんどが【ユニーク装備】のスキルだもん。世界に一つしかない装備のスキルなんだから、みんなが持ってないのは当たり前じゃないかな?」
ヒカリンは当然のように、悪びれもせずケロッと答えた。
「ほ、ほとんどがユニーク装備……?」
レイは顔を引き攣らせ、改めてヒカリンの装備欄を凝視する。
「ちょっと待って。アンタの装備欄、本当に全部見たことない名前なんだけど……」
震える指でステータス画面をなぞる。そして、最後の一枠でピタリと動きを止めた。
「……あっ、【神秘のケープ】だけは知ってるわ。始まりの街で売られてる、無駄に高くて使えない産廃ユニーク装備でしょ。…………って、なんで初心者のアンタが、あんな大金を貯められてんの!?」
「ええーっと……レイ? いっぺんに疑問を投げられすぎても、全部は答えられないよぉ……」
怒涛の質問攻めにヒカリンがたじろぐ。
そんなヒカリンの肩を、レイはガシッと強く掴んで前後にガクガクと揺さぶった。
「アタシは発売日から毎日頑張ってたのに! なんでアンタが【ユニーク装備】をそんなに持ってんのよーーっ!」
静かな平原に、青髪少女の魂の叫びがこだました。




