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プロローグ

初投稿です

ほそぼそとやっていけたらと思ってます

「はぁ……。今日も準備運動でみんなに笑われちゃったよ……」


 ぽかぽかとした春風が吹く、横戸よこと高校からの帰り道。

 心地よい空気とは裏腹に、トボトボとした足取りで歩いている菱川ひしかわ陽奈ひなは心の愚痴を呟いた。


「あー。腕立てが出来なくて、だろ? もういい加減聞き飽きたぜ。お前のしょーもねぇ悩みは」


「しょ、しょーもなくないよ! 私にとっては死活問題! 特大のコンプレクスなの! 大体どうして、高校から準備運動で腕立て伏せが入ってるのさ!」


 それを頭の後ろに腕を組みながら、興味なさそうに答える幼馴染の矢野やの颯太そうたに、陽奈は抗議の声を騒ぎたてる。


 ……まあ、颯太がこの反応になるのも無理はない。

 なんたって陽奈は、この話題を先週から繰り返しているのだ。


 体育の授業が終われば駆け寄ってきて愚痴り、下校の時間になれば思い出したかのように愚痴る。

 聞く側からすると溜まったものではない。


「人には向き不向きってのがあるんだよ。……つうか、腕立てができなくて困る場面なんてどこにあんだよ? 日常生活で力がほしい、って思ったことあるか?」


「お風呂の後、牛乳瓶をあけられない」


 それは日常生活じゃなくて、銭湯に行った時限定ではないのだろうか。

 そんな疑問が颯太の頭によぎったが、追及はしなかった。

 下手に突っ込めば、話の出口が遠ざかるのを理解しているのだ。


 ……しかしこうなると、本当に何か解決策を見つけなければ颯太の平凡は訪れない。

 陽奈は一度明るくなればしばらくは何が起きても気にしないし、逆に一度沈んでしまえばとことんまで沈んでしまう単純な性格をしている。

 イコールそれは、喜びの餌を与えねば永遠にこの話題をしてくる、という意味でもあるのだ。


「ああ……。私はこのまま一生バカにされ続けるんだ……。陰でペットボトルの蓋も開けられない奴って、思われてるんだ……」


 信号待ちの交差点、陽奈はうなだれながらぼやき続ける。


「そのままバカにされすぎて、気づいたらいじめられちゃってて……。体育の評定は1になって、お母さんにも怒られて……。それから最後には、学校に行く気力もなくなっ──」


「だぁぁぁっ! やめろやめろ! 聞いてるこっちが鬱になってくるわっ!」


「腕立て伏せから話が飛躍しすぎだ」と付け足し、颯太がぼやき声を止めさせる。

 叫んだことで周りの人からの視線が強くなるが、その程度では止まらない。

 颯太は先ほどから考えていた案を陽奈に告げることにした。


「いいか陽奈! 今のお前は鬱寸前、ボロメンタルだ! だから一旦、流行りのVRMMOでストレス発散してみたらどうだ!?」


「ぶ、ぶいあーる、えむえむおー? ……あっ、颯太がハマってるゲームの種類だよね? 頭にゴーグルつけながら寝るやつ。それと、恥ずかしいから声の大きさは下げよう?」


 まるで馬をなだめるように、陽奈は荒ぶりかけた颯太に声をかける。

 その原因が自分であることが、陽奈は分かっているのかいないのか。

 とはいえ、視線が恥ずかしいのは颯太も同じらしく、咳払いをして声の大きさを下げることにした様だ。


「……おほん。ゴーグルじゃなくてVR機器な。フルダイブ型のVRMMO。仮想空間にログインして、自分のキャラを操作して冒険とかするやつだ」


「自分の好きなことになると楽しそうに喋るねー。で、ストレス発散でどうしてゲームなの? 他にも色々あるじゃん。ショッピングとか、美味しいものを食べに行くとか、うんど……とかさ」


 運動、と言いかけて。

 脳内でスポーツから筋力へ話題変換が起こったため、言葉が尻すぼみになる陽奈。


「ショッピングも美味いもんも金がかかるだろ? バイトもしてない俺たちには無理だ。運動だって、今のお前だと逆にストレスが溜まるだろうし……」


 陽奈からの疑問に論理的に答え、しかし最後のは触れにくい話題だからか、同じく尻すぼみになる颯太。


「「…………」」


 不意に訪れる気まずい空気。

 だが颯太は、交差点の信号が青に変わった流れに乗じ、話の向きを無理やりVRMMOへ戻した。


「……で、数あるVRMMOの中でも俺のおすすめは『ファンタスティック・オンライン』だ。略してファンオン。二ヶ月前に販売されたやつで、販売会社がVRMMO最先端の超有名所なんだぜ」


 自信ありげにそう言って、颯太はスマホを取り出すと、公式サイトのページを陽奈に見せる。

 そこには、巨大なドラゴンに乗って剣や杖を掲げる男女たちが描かれた、まさにファンタジー全開のメインビジュアルが映っていた。

 キャッチコピーには、「はじめから理想の力を使った冒険へ──」と書かれている。


「な、なんかすごいそー……。けど、こんなの私にできるのかなぁ……?」


「大丈夫だって。初心者にもわかりやすく、ナビゲーターがついてるから。それにゲームの中だとステータスを自由に振れるから、お前みたいにリアル筋力ゼロでも、ゲーム内じゃ怪力女子になれるぞ」


「ほんとに!? 腕立て伏せ10回くらいできるかな!」


「やれるやれる。ステータスを力に全振りすれば、デケェ岩だって投げれるぞ」


 その言葉に陽奈は目を輝かせた。

 非力な自分が怪力キャラになる珍妙なビジョンに、喜びを隠せない様だ。


「……よーし、その案採用! ぶいあーるの機械は、合格祝いにお父さんに買ってもらったのがどこかにしまってあるはずだから、あとはソフトだね!」


 喜びに切り替わった陽奈の動きは早い。

 ソフトの代金が自分の残高で足りるか、財布を取り出して確認し始めた。


「いちにーさん……って、万札あった! これなら絶対足りるよー!」


 財布から一万円札を取り出し、それを堂々と天に掲げる。


「その金があれば、やりたがってたストレス発散法を全部できると思うけどな……」


 その姿を見て、颯太が呆れた様に言葉をかける。

 というのも颯太の中では、スマホゲーの新春イベントが忙しいせいでVRMMOをやる暇がなかったため、ソフトを貸す気でいたのだ。


 だから金のかからないストレス発散として、VRMMOを陽奈に紹介したのだが……陽奈は理解してなかったらしい。

 それどころか自信満々に言い返してきた。


「分かってないな颯太はー。ショッピングも美味しいものもその場しのぎ! 一時いっときの幸福だよ? それに比べてゲームは、買えば無限にタダで遊べる! ならゲームを選ぶしかないよね!?」


「最近のは有料追加コンテンツがあるから、後から課金をしなきゃいけない可能性もあるんだけどな。……まあ興味出たならよかったわ。ちょっくら寄り道してモール寄るか」


「おうともさー!」


 リズムよくステップを踏みながら、陽奈は歩みを進めて行く。


 (まっ。万が一陽奈がVRMMOにハマればソフトがなきゃ一緒にできねぇし、買わせるのもいっか。どうせ陽奈の金だし)


 そんなことを呑気に思いながら、颯太は明るくなった陽奈の背中を眺めていた。


「ふんふふーん♪ ちっからもちになれるっかな〜」


菱川陽奈は140後半の小柄な女子でお団子頭が特徴。

矢野颯太は170前半の男子で目つきの悪いのが特徴です。

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