33話 華月とトーラス
真夜は華月と一緒に下校していた。
いつもの帰り道なのに、どこか新鮮な気がして、終始真夜は嬉しそうに華月に話していた。
主に日奈のことばかり話していたんだと思う。
「日奈ねーちゃんは、実は辛党なんよ。そんでもって甘いのは普段あまり食べない」
「え! そうだったの? じゃあもしかしたら私がドーナツ屋に誘ったとき、もしかしたら無理してドーナツ食べていたのかな?」
真夜は少し難しそうな顔をしていた。
「まあ、日奈ねーちゃん、自分の意見をあまり言わずに、結構我慢する癖あるから、気をつけろよ。特に真夜はぐいぐい来るだろ?」
「そうだね。日奈って結構自分のことを話そうとしない気がする。まあ、かくいう私もなんだけど、あはは」
「そうか? まあ、意外と日奈ねーちゃんと真夜は相性いいかもな。でも良かったな、日奈ねーちゃんにこんな明るい友達が出来て。オレも少し、いや、ずっと日奈ねーちゃんのこと心配してたからさ」
華月は少し懐かしむように、それでもどこか悲しげな目をしていた。
真夜はそんな華月を心配そうに、
「大丈夫?」
「あ、いや、オレのことはいい」
「そう? でも、今、ちょっとだけ、悲しそうな顔していたから、何かあったかなって」
「そうか? まあ、していたかもな。なあ、真夜」
「何?」
華月は真剣な眼差しで真夜を見つめる。
「真夜は日奈ねーちゃんの味方でいてくれ」
真夜は華月の言葉に何の迷いもなく、
「うん。分かっている」
と言って、微笑んでみせた。
「ああもう、こんな辛気臭い空気、やなこった」
「何? 急に?」
「あ、ごめん。てか、真夜。お前、日奈ねーちゃんの胃袋掴んだドーナツ屋に案内しろ」
「え、まあ、いいけど」
「そうか。なら、行こうぜ。オレは金ならあるぞ」
「うん、いいけど。その、お金持ち発言はちょっと嫌かな」
「なんだよ。まあ、気にすんな」
「あはは」
華月の発言に真夜は振り回されつつ、ただ少し楽しそうに微笑んでいた。
*
駅前のドーナツ屋にて真夜と華月はいた。
店内に入り込むと小麦のこんがりとした香ばしさが鼻孔をくすぐった。
華月はドーナツ屋に入ってすぐにこんなことをボソッと呟く。
「なんか悪い感じがする」
「なんでだよ」
「いや、オレのかーちゃんがあんまり甘いもの系のお店とか連れてってくれなくて」
「華月の家は厳しかったりするわけ?」
「いや、まあ、かーちゃんが旧椎名家だから? ちょっと厳しい家系だから、あるかも?」
「日奈の家が厳しいってことかな? 私、その辺の事情とかあんまり知らなかったりする」
「まあ、知らなくても良いんじゃないか? まあ、ちょっとだけ変わっている家族だけだし」
「なるほどね。でも、ちょっと気になるんだよね」
真夜はどこか釈然としない様子で、諦めきれない様子だった。
真夜と華月はドーナツを数個トレーに乗せて会計を済ませた。
それからテーブルに着いた。
真夜は椅子に座ってから、皿の上に乗せられたドーナツをじっくり眺める。
そこにはチョコレートドーナツ、ストロベリードーナツがあり、どれもいい香りが漂ってくる。
真夜は待ちきれずすぐにチョコレートドーナツから手に取り、口へ運ぶ。
口に運んだ瞬間ドーナツのサクサクした食感、甘く、時にはビターなチョコレートが口いっぱいに広がってくる。
「美味しい!」
真夜の口から思わず声が漏れた。
そんな様子をやれやれと言わんばかりに眺めつつ、華月はコーヒーを口に運んだ。
真夜はチョコレートドーナツを半分食べきり、皿にのせていくと、今度は華月の方の皿を眺める。
華月の皿には小麦色にこんがりとしたドーナツが二つ乗っている。
「華月、それ、味一緒でしょ?」
「え、まあ、オレあんまりドーナツ食べないからさ。ぶっちゃけどれがいいとかないかな」
「じゃあさ、私のドーナツ半分あげるからさ。ちょっとシェアしよ?」
「いや、良いんだって」
「そんな遠慮せず」
真夜はそう言ってからストロベリー味のドーナツを半分に割って、華月に渡した。
華月はやれやれと諦めて、自分のドーナツを半分に割って、真夜の皿に渡した。
それから真夜と華月はそれぞれがシェアしたドーナツを口に運んだ。
「これあんまり味しないじゃん。華月ももっと味がするドーナツにした方がいいじゃん」
「まあ、別に味なんて。それよりこのドーナツまあ、甘いかもな?」
「なんで疑問形? ウケる」
「ツボ浅いな。まあオレのこと気にせず、自分の好きなドーナツ、食べればいいわけ」
「はーい」
真夜は元気よく返事すると、ドーナツをまた頬張った。




