24話 日和
時刻は6時ごろ。夕日が見える頃合。
神社を出てからはキャナルシティという商業施設に入り、少し早めに夕食を取ることにした。そこでは5階まで上がり、一軒のラーメン屋に入ることにした。
キャナルシティ5階にはラーメンスタジアムといった場所がある。ここでは様々なラーメン店が並んでおり、地元民、ラーメン好きに愛される場所である。昨年9月に一時休業になったが、4月からまたリニューアルオープンされるそうだ。また行きたいなあ。引っ越してから、なぜ福岡は再開する店が多いんだ……。
日奈と真昼はラーメン屋の入口で食券機にてラーメンを選んでいた。
「んー。私はこれにしようかな?」
真昼はそう言いながら、豚骨ラーメンとチャーハンセットを選ぶ。
「えっと、私は……」
日奈は数分、食券機のタッチパネルをスクロールしながら悩み、醤油らーめんにした。
「日奈ちゃん。私、奢るよ」
「いや、良いですよ。私、払いますから」
「いいって。それに私言ったでしょ。今日一日、私が日奈ちゃん買うって」
「わ、私を買うって人前で言わないでください!」
「あはは。まあまあ。でも、私がお金入れるよ」
「はい……」
日奈は言い返すのを諦めておとなしくなった。
それを少し面白がりつつも真昼は食券機にお金を投入した。
食券を取り出してからラーメン屋の店員に促され、二人は席に座った。
「いやー。ラーメンって久しぶりだよね、私。日奈ちゃんはよくラーメンとか行くの?」
「えっと、まあ、裕くんに誘われたら、行きます……」
「なるほどね。日奈ちゃんは裕くんのこと好きなんだねー」
「いや、ないです」
「ほお、否定が早い。そのこころは?」
「その、そもそも幼馴染って関係だけで良いんです。それに中学の時、私、裕くんのこと振ってますし」
「へー、裕くん、一回告ったんだ」
「ええ。あの時、私のことそう思っていたんだという衝撃はあったんですけど、それ以上になんというか、裕くんに対して恋愛感情になれないというか。私って、あまり人を好きになったことがないんですよね。あはは」
日奈は自嘲的に笑っていい、それを真昼はどこか優しい目で見ていた。
それから真昼から衝撃的な言葉が放たれる。
「今、フリーだったら、私と付き合ってみる?」
「え、え、真昼さん……?」
日奈は動揺した。
まさか自分みたいな人に付き合ってみるだなんて。確かに憧れの、意中相手ではあるけど。
「ま、ま、真昼さん? じょ、冗談が上手いですねー」
「冗談じゃないよ。私、日奈ちゃんのこと、好き」
「や、やめてくださいよ。それにここ店の中ですから」
「あはは。そうだねー」
日奈はちょっと納得できずに、ずっと動揺していた。
ラーメンを食べ終わり、店を出た二人。二人はしばらく途方もなく歩いていた。
「日奈ちゃん。さっきの告白。返事聞いても?」
「え、そ、その。わ、私が、つ、付き合うだなんて、なんというか」
日奈は真昼から目線をそらし恥ずかしそうに言った。
目線を逸らした先に、一台の黒塗りの高級車が止まっていた。
車の後部座席から一人の和服を着た女性が出てくる。
日奈はそれを見た瞬間、ゾッとした。
「あれ? あの人、どこかで……」
真昼も女性の存在に気づいたわけか、そう呟いた。そして首を傾げた。
和服を着た女性は日奈の方へと近づいてくる。
日奈は思わず地面を見て目線を逸らし、それを見ないようにした。心の中では、どうしてという言葉が渦巻いていた。今すぐにも逃げ出したいと思うようになっていた。
和服を着た女性は日奈の前で立ち止まった。
「あら、久しぶりね、日奈」
「はい。お母様」
和服を着た女性の正体は日奈の母親だった。
日奈の母は少し日奈のことを睨みつけるように
「最近、随分と成績落ちた見たいですわね」
「えっと、その、はい……」
「そう。それじゃ約束を守れなかったわけね」
「えっと、はい……」
日奈は母親とある約束を交わしていた。
それは日奈が今一人暮らしできるための条件であった。
条件とは、学校で良い成績を取らず赤点を取ってしまった場合、一人暮らしをやめさせるというものだった。
「日奈。分かっているかしら」
「ええ、わ、私……」
日奈は少し助けを求めるように真昼の方を見た。
真昼は少しため息をつき、日奈の母の前に立ちはだかる。
「ん。あなたは。真昼?」
日奈の母はさらに目細めて、真昼を見た。
「ええ、お久しぶりです、日和さん」
「ええ。それよりも何であなたが私の娘と一緒に?」
「えっと、それは、その。デートなんですよ。私たち付き合っているんですよ」
「は?」
「だから、そのつまりはですね。私たちの邪魔をしないで、さっさと帰ってほしいっていうか……、え、なんで……」
日和は眼光をギラつかせて真昼の頬を叩いた。
真昼は動揺し、叩かれた頬を撫でた。
「あなたね! あなたがいつも娘の邪魔をしているわけね! なんでいつもあなたは私の言うことが聞けないわけ!」
「えっと、その」
日和の激昂に、真昼は言い返せなかった。
「日奈! 家に帰るわよ! こんな悪女と一緒に居たら日奈がダメになる!」
日和は無理やり日奈の手を引っぱって連れて行こうとしていた。
「離して! ねぇ、お母様!」
「早くしなさい! ってなんで動かないかしら!」
日奈はされるがままに手を引っ張られていた。
そんな二人の様子を見た真昼は、日和の頬を叩いた。
日和は叩かれたことに少し動揺するも、すぐに平然を装った。
「真昼。何のつもりですか?」
日和は軽蔑の眼差しを送った。
それに対して真昼はいたずらっぽく笑いながら、
「これは私なりの反抗ですよ。日奈ちゃん、逃げるよ!」
「え、真昼さん!?」
日奈は動揺しつつも、真昼に引っ張られ、一緒に走った。
「ちょっと待ちなさい!」
日和の声が遠くから聞こえた。




