35.親の心子知らず
ブリア達が剣術場で稽古をしているのと同じ時、王宮内にある一室ではお茶会という名の雑談会が行われていた。
皇帝であるカル、皇后のハナー、ハート公爵のダン、夫人のザラ、スペード侯爵のケビン、夫人のクレアは若い頃からそれぞれの友達であった為今でもこうして時間が合えば集まり雑談会を開いていたのだ。
この一室からはちょうど稽古場が見えるので子供達の様子も伺う事が出来たのだ。
ロンが稽古場でブリアに対する恋心に気づいたその頃この部屋では親ならではの話が飛び交っていた。
「ブリア嬢は話には聞いていたが美しいだけではなく人に対する思いやりや優しさがある少女だと思っていたがまさかあの様な強さも兼ね揃えていたとは…」
カルが驚いたように呟いた。
「本当ですわね。あのロンをあそこまで大笑いさせるだなんて。親であるわたくし達ですらあの様に大笑いしている姿を初めて見回したわ。」
ハナーが微笑みながら言った。
「これは…ロンの嫁に来てほしいものだな…」
カルが遠くの方を見るような顔で呟いた。
「おいおい。ちょっと待ってくれ。誰がブリアを嫁にやると言ったのだ?」
つかさずケビンがカルに言った。
「ケビンは本当にブリア嬢の事になると過敏に反応するな。」
カルは苦笑いしながら言った。
「当たり前だ。目に入れても痛くない程の可愛い自慢の娘だ。ブリアはどこにも嫁にはやらないさ。」
ケビンは自信満々に応えた。
「いずれはどこかへ嫁がせねばならないだろう…」
横からダンが話に入ってきて言った。
「わたくしはアミルに嫁いできて頂きたいわね。キールとは本当に兄妹という感じですからね…」
ザラがニコニコと笑いながら言った。
「おいおい。アミルにも嫁がせる訳がないだろう。何度も言うがブリアは嫁にはやらないさ。」
ケビンは不満そうに言った。
「それではブリアが行き遅れる令嬢と言われてしまいますわよ?」
クレアがケビンに言う。
「良いのだ。行き遅れてもずっと侯爵家に居たら良いのだから。ブリアがずっと家にいてくれると思うと嬉しくなるな…」
ケビンはニヤニヤしながら言った。
「ブリア嬢もこのような過保護な父親を持つと大変ですわね…」
ハナーが困った様な表情で言う。
「過保護で何がいけないのだ。ブリアはあの様に幼い頃から興味がある物にはやれるまで諦めない子で危ない事にも首を突っ込んでしまうほど優しい気持ちを持ち美しい子だ…過保護にもなるだろう。しかし…ブリアの性格は誰に似たのだろうな…兄達とは性格が全く違うのだからな…」
ケビンは心配そうな表情で言った。
「間違いなくケビンであろう。顔はクレアにそっくりで美しいが性格は聞くところや見るところによるとケビンにそっくだぞ。」
カルが苦笑いしながら言った。
「私にか?そうか…私に似ているのか…こんなに嬉しいことはないな。」
ケビンは目尻を下げニヤニヤしながら嬉しそうに言った。
「本当にケビンはブリア大好きだな。」
ダンは呆れた様に言った。
「そうだ。ブリアの事が大好きなのだ。大切な娘だならな。」
ケビンは誇らしげに言った。
他の五人はやれやれといった表情で見ていた。
「それにしても…あのロンがあの様に感情をわたくし達や信頼しているお友達以外に出すとは本当に驚きだわ。少なからずブリア嬢のお陰ね。誘拐捜索の件はやはりわたくしもブリア嬢が女性であるから心配な部分はあるけれどブリア嬢が参加してくれたお陰でロンが変わったことはとても感謝しているわ。」
ハナーは笑顔で言った。
「そうだな…私も驚いたよ。いつも笑顔で取り繕った表情で自分を守っていた様なところがあったから親としても心配していたからな…皇太子の重圧というものもあるであろうしな…」
カルも言った。
「本当にブリア嬢は真っ直ぐで優しい子でうちの子供達もブリア嬢のお陰で楽しくしているみたいだもの。」
ザラも笑顔で言った。
「ブリア嬢がいるとその場が明るくなったりと見ているこちらまでほっこりしてしまう程だからね…」
ダンも笑顔で言った。
「やはり…ブリア嬢はロンもしくはロナに嫁いで貰いたいものだ…」
カルが微笑みながら言う。
「いや…うちのアミルに嫁いでくれると嬉しいよ。」
ダンも笑顔で言った。
「いやいや…ブリアはどこにもやらんと言ったばかりではないな。」
ケビンがムスッとして言い張った。
そんなケビンに皆がケラケラと笑ったのであった。
まさに、親同士の他愛もない会話であった。
当の子供達ときたら
『親の心子知らず』
であった。
今も、この一室で稽古場を見ながら自分達の話をされているなど思っても居ないだろう。
これからも親の悩みは尽きないだろう…




