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「……待たせたな」
水が動く気配に、はっと顔を上げる。
「もう、笛は良いぞ」
海神サイモナートが帰ってきたのだ。
「おかげで、うまく片付いた。礼を言う」
「いえ」
頭を下げる気配に、慌てて首を横に振る。これくらい、ティアには何ともないことだ。
「では、悪いがこれも、預かってくれ」
今まで空っぽだった目の中に、何か異物が入るのを感じる。痛くないのは、サイモナートが気を遣ってくれているのだろう。少しの緊張に震えながら、ティアはそんなことを考えていた。
「では、浜辺へ戻ろうか。仲間達が心配しているぞ」
サイモナートの言葉に、はっとする。ヴァリスかジェイかハルが、『悪意』に捕まっていたのだろうか?
「大丈夫だ」
ティアの疑問に、サイモナートが答える。
「仲間達は皆、浜辺で待っている」
「はい」
待っているのなら、帰らなくてはならない。
ティアはにこりと笑うと、サイモナートが起こした強い波に身を任せた。




