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「大丈夫、かしら」
心配に満ちたセティの声が、背後で響く。
「ヴァリスとジェイなら、大丈夫さ」
海を見つめたまま、ハルはそう、吐き捨てた。
そう、ヴァリスとジェイは大丈夫だ。波に攫われる直前に、水中で呼吸できる魔法を掛けたから。問題は、ティアだ。ティアには、そのような魔法は掛けてない。自分が何もできないほど、辛いことはない。じりじりとした感情が、ハルの心を支配していた。
と。
目の前の波が、大きく膨らむ。
「ハル!」
セティが叫ぶ前に、ハルは後ろに飛び下がった。……慣れない砂に足を取られ、無様に尻餅をついてしまったが。
被ってしまった海水を、首を振って髪から落とす。やっと見えるようになったハルの瞳が、捉えたのは。
「ジェイ! ヴァリス!」
波打ち際で、二つの巨体が呻いている。だが、ティアは? 戸惑うハルの横で、もう一度波が膨らんだ。
次の瞬間。波と共に、小柄な影がハルの両腕に落ちる。ティアだ。それが分かるより先に、ハルの身体はもう一度、砂浜に尻餅をついていた。
「ティア! ティア!」
ぐったりとハルにもたれかかるティアの身体を、強く揺さぶる。すぐにティアは、目を開いた。
だが。
「ティア?」
開かれたティアの瞳の色に、戸惑う。紫水晶のような瞳は、しかし、全ての光を虚ろに弾いていた。
〈……ハル?〉
ハルに触れていた左手が、悪戯に宙を泳ぐ。ティアのその仕草だけで、ハルは、ティアの視力が失われていることに気付いた。
〈そんな……〉
運命は、確実にティアを蝕んでいる。
ハルはそっと、ティアの冷たい身体を抱きしめた。




