02
久しぶりの御馳走(洋食屋のトマトチーズハンバーグ定食)でくちた腹をさすさすしつつ、数学のノートを天使なお友達にコピらせてもらって、さあ課題をするぞとカズのひとり暮らしするアパート?マンション?(違いがよくわからないが、カズの部屋は私の築20年の1Kアパートの5倍はある、確実に。ブルジョアめ)に乗り込んで、床暖でほくほくしつつお昼寝をした。
課題を忘れていたのでまたも御馳走になった夕飯の後にカズに教わりつつ、うんうん唸りつつ解いた。頑張ったよ私!
答え合わせも済ませてほっくほく、これで課題ほぼ満点だぞう。こすい私は不自然にならないように、意図的に間違った答えをカズに強請るのです。でもだって教授に数学得意だと思われたら悪夢だ。
時刻は九時前、よし帰宅、と教材を纏めてたらカズに捕まりました。
「おお?何?」
「帰んのか、しず」
「うん、帰るよ」
「そうか」
帰るのか?いえす。問われて答えたら何が起こる?何も起こりません何か捕まったまんまです。
「頷いたんならはーなーしーてー、っての」
「まだ無理」
「・・・んー、なら仕方ないな」
うごうご蠢いてみても離れないので、カズの腕力に抵抗しても実質無駄なんで放置する。多分まだ落ち着かないんだろう、うん。
バックからイヤフォンとMP3を取り出し、装・着!
したら見事に没収された。え、心強い暇潰し要員がー、返せー。
「カズ泥棒はいけない」
「後で返す」
「今必要なんだよ、こら」
「暇潰しなら要らねえだろ」
「カズが離れるまで暇潰し、新譜もらったばっかだし聞くのー」
取り返そうと奮闘したら、手の届かない所に置かれてしまった。ッちぃ、リーチの差が大きい。この無駄に図体でかいでくの坊め。くそう手足長いとか羨ましいな非国民めー!
「誰から?」
「友達」
「男」
「うん」
「へえ、お前も色気づいたか」
「うぇっへっへ」
またも可哀想な子を見る目で見られた。しつれいな!
別に男と言っても友達だ、色気とか必要ない、笑い方キモくてもいいんだよ。女友達居ないカズにはわからんだろうがな、フハハハ。リア充ばくはつしろ。
ちょっとニヒルを意識して笑ってみたら、残念な子を見る目で見られた。
しつれいな!
「何で寝不足なんだ?」
「ん?もう昼寝したよ」
「・・・何で寝不足になったって聞いてんだよ」
「えー・・・特に何も?」
「嘘吐いてねえだろうな?」
真顔になったカズさんや、私が寝不足だとそんなにおかしいか。
理由となりそうなものは無いでもない、うん、だがカズに言っても解決しないのだこれはな。ちょっとカズのこう、範疇を超える感じ?あれだ。
「・・・まー眠れぬ夜を過ごしたりもあるのだよ、乙女ですから」
「しず」
「まあいいじゃあないか」
「しず、俺に言えねえのか」
「うーん、ちょっとね」
ちょっと困る事だ、でもカズに言うことじゃない。言うべきなのは大家さんと警察である、うむ。知らない内に盗撮されてた写真がポストに入ってたとか警察だろ、明らかに。犯人さんが何を思って私のセミヌードを撮ったのか知らないが、私も腐ってもうら若き乙女だったということで、はい。
お陰で昨晩はちょい深夜まで事情聴取だじょ、眠かったー。大家さんに他の店子さんからセキュリティに難癖つけられたく無いから、黙ってて欲しいと言われた。口止め料で家賃割引してくれるってさ。うは。
「まあそういう事で」
「どういう事だよ」
「カズの範疇には無いのです」
「・・・・・しず」
「睨んでもだめー」
ギラリと光る三白眼、皆この目で見られたら震え上がって口を噤むけど、私は慣れてるから、平気、このぎらぎらで言う事を聞いたりはしない。
だって、警察の人は言っていた。ストーカーかもしれないと、優しい女の警部さんが、どんなものかもちゃんと教えてくれた。あれだって、独占欲が強い表れで、自己中心的で、猟奇的にもなる。だから迂闊に刺激しない、捜査で証拠が揃うまで、待てますか?と優しく聞かれた。その時にこちらで頼れる人は?とか言われたけど、私はひとり暮らしで、親しい人は友達と、あとカズしかいない。
でも独占欲が強くて、自己中心的で、猟奇的って、それはもしかして傍にいる人特に男性なんかに頼ったら余計に危ないんじゃあないか、下手をしたら頼った人に迷惑をかけるのだ。それはいけない。
刑事さんは私に携帯の電話番号をくれて、頑張れますか?と聞いた、私は頑張ります、と答えた。だから、頑張るぞ、と気合を入れたら気が高ぶって眠れなかったのだ。決して、ストーカーが恐くて眠れなかったわけじゃない、ないったらない。
「帰るよ、カズ」
「しっかり話したらな」
「むう、ですからそれは無理でしてね」
「無理なわけねえだろ、おら、言わねえと一晩中このまんまだぞ」
腕に捕まったまま、ゆさゆさと躰を揺するカズに合わせてわたしもゆらゆら。
一晩中、このまんま。
カズのおっきな躰に守られてたら、きっとぐっすり眠れるだろう。ここは安全な場所だと、私はちゃあんと知っている。カズのマンションの部屋のセキュリティ抜群だし、それに何よりカズは、とっても強い。どれくらい強いかと言うと、ぎらぎらした目のせいで難癖つけられ続けて、カズは気が長いわけでもないから喧嘩をして、負け無しなくらいに。私もカズと仲の悪い怖い顔をした人達にいろいろされそうになったことはあった。けど、それもカズが傍に居れば安心安全、いつでも快適なセキュリティを提供します、ばーいカズ。
「しず、なあ、俺が世話焼くのんなに嫌か?」
「うーん、そうじゃないよ。でもカズじゃ無理だもん」
「誰だったらいい」
「そりゃけー・・・」
「けー?何だ」
うとうとしながら答えていたら、危ない危ない。ぽろっと言っちゃいそうになりました、わあうっかりさん。
でも全部言ってない、せーふ。と思っていたら顎をガチっと掴まれた、そのままグィーっと上を向かされる、首痛いれすカズ様。
「おい。まさか警察じゃねえだろうな」
「うん」
「警察か」
「ちがうよー」
「そうか、お前警察の世話んなってんのか、ほう」
「え、何で!?」
視線を合わせながら嘘を吐くって本当に難易度が高い、特にカズ相手だと最早無理ゲーだ、えええええ。警察のお世話になった事実がカズにバレてしまった、家賃4割引が・・・あ、カズに黙っててもらえばいいのか。
ああでも事は警察沙汰だから、せいぜい刃傷沙汰までしか対応できないカズじゃあ無理だ、そもそも一般市民に逮捕権がない。
目は合わせたまま、カズの目尻がキュゥゥウっと上がっていく、うわあ怖い顔。
さっきの怖い顔は人に言う事を聞かせるためのもので、でもこれは、怒っているときの怖い顔だ。つまり、カズはとっても不機嫌です。
「・・・・・しず、自分で話して発言権有りか、俺が調べて発言権無しか選べ」
「・・・は、話す!話すよ!」
話さないと発言権無しとか理不尽な!話すだけならタダだし、私はしっかりかっちり話した、今度は偽り混合率0%だ。
盗撮写真と怪文書がポストにあった、警察に通報したらストーカーですねって言われた、刑事さんが美人で優しかった電話番号GET!しちゃったやむふ、大家さんから大人の事情で黙っててねって言われて家賃四割引、やったね!
全部話し終わったらもの凄い呆れられた。えええええ。
「んで恐くて夜眠れねえとか、餓鬼か」
「・・・だってさあ」
「俺に電話すりゃあよかっただろ。んなの」
「深夜だった」
「10時に寝床入るほどお子様じゃねえぞ、俺は」
「それは暗に私をお子様だと・・・」
「お子様だろうが、ったく阿呆らしい」
ガシガシ頭を引っ掻き回されて、元々くせっ毛私の髪はまるで鳥の巣のようにこんもりとなってしまった。何してくれるカズ。これ梳かすのとっても大変なんだぞ!
「んで、どうすんだ」
「え?待ってればいいんでしょ?」
「・・・お気楽バカ娘が」
「違うの?」
だって警察の捜査とか私にはどうにもならないじゃないか、だったら待つしか無い。願わくばあの刑事さんがとっても優秀であることを祈るのみ。それ以外に何か出来ることあったけか?と首を捻ると、後ろ頭をカズに軽く叩かれた、いたひ。
携帯を貸せと言われたのでバックから取り出して渡すと、何やらどっかに電話をかけるカズ。え、なにしてるの私の携帯で!
「カズ、何してるの?」
「ちょい黙れ――ああ、どうも・・・いや違います―――」
カズはいくらか電話口で話すと、私に携帯を向けてきた、え、何話すの?
「えと、もしもし・・・」
『ああ、静留さんこんばんは。先程の方は貴女の幼馴染さんでいいのかしら』
「カズは、はい、そうです・・・けど?」
『ああよかった・・・、少し誤解しちゃったわね。じゃあもう一度換わっていただける?』
「え、はい、・・・カズ、刑事さん換わってって」
「ああ、換わりました――・・・ええ、先程聞き出した所で」
カズが本当に珍しく、電話口であっても敬語なのをまじまじと見ていたら、見るな、とでも言うように首をグキっとやられた、またいたひ。
連投。
そしてありがちな展開。




