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01

《あらすじ》にも記載しました通り、ノリで書き始めたものです。更新速度などに問題も有りますでしょうが、広い心で読んでやってください。


目の前にあるのはドア。構内の片隅で、少し忘れ去られたような場所の壁に貼り付けられているも見えるが、その実結構な頻度で使用されている一室。

第八資材置場、ドアの右側の表札に貼りつけられ、そう主張する埃を被ったプレート。実際何で第八、だなんて数字になったのかは知らない。

自分も数度教授やらに頼まれて資材置場に入った事はあるが、大抵は第二、第三、稀に第四、第五といったところで。いったいそれから三つ飛ばした第八資材置場に何が保管されているのか、そもそもこの部屋の必要性があると言う事すら彼女には疑問だった。

いや、必要性はあるのか、と思う。

ぺとりとドアに貼りつけた利き耳は、室内から微かに何かが断続的に軋む音を拾っている。第八資材置場の中に人がいて、つまり利用者は居る。

その利用目的は正当ではないと思うが、まあ。

右耳を剥がして、また一歩ドアを俯瞰するように後退って、眺めた。

恐らく利用者は二人だろう、そして片方は知らない女、で、恐らく美人さん。

もう片方はよく知っている男で、まあ恐らく美人?なのだろう。

ドアの左側に張り出ている丸いドアノブに手をかける、くい、と手首を捻ると、あっさり何の抵抗もなく回った。つまり鍵は開いている。

無用心だ。

無用心、いや別に自分は中の二人に害意を持っているわけでも何でもない、少なくとも不利益な行動を取る人物ではない、これは確実。

いやしかし、しかしだ。もしこのドアノブに手を掛けたのが自分以外の、そう、講義中で講堂内以外は人もまばらな構内で、しかもこんな端の区画の忘れ去られたような資材置場のドアを開けてみようという奇特な人物で、それがもし中の二人のどちらかに何かしら悪意を持っている人物だったらどうするのだ。

居ないか、それは。

納得と、僅かな諦めの後捻ったノブを引いて、ドアを開けた。

するととたんにクリアに押し寄せる軋みの音と、粘着質な水音と、そして、恐らくは美人さんの綺麗な「なきごえ」。

ちなみにこの「なきごえ」は「啼き声」であって動物とかの「鳴き声」ではないらしい。前に教えてもらった、こういう時に使う漢字で表記されるのだそうだ。んなもん知るか。

断続的な音も、水音も、啼き声ももちろん漏れたらマズイ音だ(何が行われているかなんて、察してくれ口にだすのも悍ましい!)。僅かに開けたドアの隙間から入室し、直ぐ様、急いで、そして静かにドアを閉めた。鍵は開けたままでいいか。

資材置き場は、四角い部屋の手前右側にあるドア、そして奥の左角にある窓。

その間に壁になるように三つの棚が置かれている。

この棚が見事に天井まであり、右側の壁に沿って確保された通路スペースから棚で区切られた四つの通路が延びていた。

唯一有る窓の脇には、いつ頃使われていたのか判別つかない古い木製の作業机(多分木工科か何かのお古だ)が置かれていて、今となっては不届き者に不届きな使われ方をしている、のだ。ああ、世も末だ。

好きでここに居るわけでも、ましてや悪趣味な出歯亀をしたいわけじゃない、だからいつも呼び出されたら手前から二番目の通路の一番奥で、置かれた資材の空き箱の影に身を潜める。そうして意味もなくぎゅっと目をつむりながら、ノイズレスなイヤホンを耳に差し込んでえい、っとMP3プレーヤーでランダム再生。どうだ、慣れているだろう。

何故呼び出されるのかも、何故こうして待たされて悪趣味な出歯亀もどきをさせられているのかも不明のまま、ただ従わなければならないことだけは解っているから理不尽だ。

数十分か、それとも数時間か、どれくらいか知らないが、とにかくある程度時間が経ったところでドアが開く音がして、閉まる音がした。

出ていったのは美人な女の人だ、死角にいるから顔は知らないが、経験則から言って美人でなかったことはまず、無い。うん。

ああ、これで不本意かつ悪趣味な出歯亀タイム終了だ、いえい。

「しず、おい」

いえい、とちょっと爽快な気分になっていたのに、あああ。

閉じていた瞼を上げて、顔も上げる、すると相変わらず眉間に皺、ギラリと煌く三白眼のコンボで不機嫌そうにした美人さん。いや、美人さんとはちょっと違うか、前に言ったら怒られたしな。ワイルド系、とか、あれだちょっと年齢足りないけど美丈夫、とか言うのだ確か。

「・・・なあに、カズ」

「お前、終わったら直ぐ出てこい。俺を待たすな」

カズ、という目の前の不届き者は、悲しい事に幼馴染だ。三つ年上で、天上天下唯我独尊、そして傍若無人。その幼馴染である私って苦労者だ。

カズは「お楽しみ」の最中にこうして、定期的に私を呼び出す。大抵は人気のない場所で、女の人を啼かせているカズの傍に。そして、女の人が去ったら直ぐに来いと無茶な事を言うのだ。

「勝手だね、ちみ」

「居ないのかと思うだろ」

「居るけど」

悪趣味な出歯亀を不本意にさせられて、それでも私は毎回カズの呼び出しに応える。何故かといえば、従わなければならないから。何故従わなければならないかといえば・・・。さて。

「しず、ほら立て」

「ここほこりくさい、くしゃみしそうだし」

「すればいい、・・・ちっと目赤いな。目薬あったか」

「持ってる」

用意いいなお前。ドライアイだからね。そういえばそうか、ほら早くしろ。ちょ、揺すると溢れる!

座ったまま、バックからポーチを、ポーチから目薬を取り出してそーっと目に垂らすが、立つのを急かすカズに妨害されてうまく点さらない、おい!

命中しないと他の場所にこぼれて薄いとはいえ化粧が崩れる、注意しながら拭きとって再挑戦しようとしたところで、焦れたらしいカズに目薬を持ったほうの二の腕を掴み上げられた。おいおい!

「ちょおカズ、妨害するな!」

「待たすなっつったろうが」

「MAXIMUMに勝手だ!ああもう」

「五月蝿え」

強制的に立ち上がらされたので目薬は諦めた、仕方ない。キャップだけは閉めて何とか、間に合った。何に間に合ったかって、セクハラ手前に抱きついてくるこの大男の抱擁にだ。

カズがわざわざ呼び出すわけも、コトが終わったら直ぐに来いと言うわけも、この性急な動作にある。呆れ。

何だか知らないが、女の人と性交をした後、カズは私に触らないと落ち着かないらしい。何それ、何フェチ?というか変態?と言いたいが(実際言った)致し方ないことらしい、非常に意味不明だがこの幼馴染にはそれなりに、彼なりにのっぴきならぬ事情があるらしいので、まあ・・・うーん、仕方ないかと了承している。

躰もデカい、態度もデカいのカズは、昔から遠巻きにされがちだ。まあ能力的にはずば抜けていることもあって、男からは憧れられたり、女の人の目がうっとりすることも少なくない、というか多すぎる。

そして本能に忠実なカズは、寄ってきた女の人を際限なく、美人を選んで選り好みしつつぱくり、ぱくりと食べてしまう。阿呆だ。

雄として当然の本能だとか言ってるが、要は下半身馬鹿の言い訳だと私は思っている。馬鹿だ、本当に馬鹿だ。それで嬉々としてつまみ食いをしつつ、それを「不本意かつ致し方ない事」とか宣って、私を呼び出す。

別に私がカズの特別であったり、カズが私の特別であったりする訳ではない。ただの腐れ縁の末に辿り着いた幼馴染という関係で、でも、それは少し特殊なだけ。すこしだけ、ほんの少しだけの違いだ。

互いに思い遣れる、他人同士では少し難しい事を出来る関係。特に周囲から「完璧」の評価を受けて実際にそうあれるカズは、私よりもう少しだけ難しい。

家族よりは浅くて、でも友人よりも親和的。私とこの幼馴染はそういう繋がりを持っている。

だから突っぱねても何ら問題のない理不尽な呼び出しを、私はカズにそれが必要だと心底わかっているからそうしない。女の人とそういう事をしなければいいのだとも思うが、でも「仕方ないな」と溜息を吐いて重い足を引きずってやる程度には、私はカズが大切だ。

カズも、こうして傲岸不遜にでも気遣いを強請る程度には、こちらに気を許しているのだろうと思う。本当に年月で腐っただけの関係だが、腐れただけでも意味はあったということ。

「しず・・・、しず、なあしず」

「何かな、カズ」

「あれだ・・・講義、大丈夫か」

「・・・代返頼んだけど、ノートコピッてもキツいよ。よりによって数学・・・」

「必修のか」

「うん、マジでちょい泣きそう」

講義のある時間帯にここに来て待機していたわたしは、当然講義を欠席した、そして不運なことにそれは必修かつ苦手科目だ、泣ける。

四期生で既に単位を取り終わり、ゼミの出席だけしていればいいカズと一期生の私の都合はちょっと違う。一期生なんて選択必修講義の嵐だ。文系で理系学科の生徒ほど忙しくないとは言え、必修は落とせない。

「教えてやる、泣くな」

課題もやって。そこは自分でやれ。池上教授の課題発展だから無理。だから教えてやるってんだろ。やーりぃ、答え合わせよろしく。おう。

ここでうまい話があって、カズは理系なのだ、いえい。しかも成績は優秀、文系必修の課題なんてちょちょいのちょいだ、が、為にならないと代わりにやってくれないので、せめて好成績を狙うのだ、そしてそのノートを代返頼んだ友達に見せてお礼をする、万事解決。世の理は全て循環しているのだよ、むふ。

「んーねっ、カズ」

「何だ」

「私はハラペコだ」

座り込んでいただけだとしても、一限に遅刻しそうで朝急いでいた私、自業自得だけど朝から何も食べていない、あ、いや、友達からお情けでチョコとガムをもらった。一緒に口に放り込んだらガムが溶けたよワンダホー。

カズの腕はぐるりと躰に回ったままだが、そのまま気にせずひょこひょこと跳ねる。拘束しづらくなったのか、腕が緩んだ、そのまま抜けだして、狭い通路の中で一歩離れてお腹を摩った。うーん凹んでますね。

「・・・わかった、奢る」

「いえい」

やったやった、奢りですってよ。カズはお金持ちなので、お昼ご飯は学食のさもしい素うどんでなくて、ちょっとリッチに学生の味方な洋食屋さんにしてもらおう、というかしよう。いつも弁当作るけど今日寝坊したから持ってこれなかったし。ワンコインランチでお腹ほくほくさせてやる。そうとなればランチに間に合うように早くここを出よう。

「カズ、急がないとランチ、ランチセットが消えてしまう」

「いや、もうランチって時間じゃねえよ」

「・・・え」

「・・・今、二時半」

「え。私ここ来たの十二時過ぎ・・・」

慌ててバックから携帯を出そうと試みれば、それより早く視界にカズの腕時計が。うわ、短針が二と三の間にありますよどうしましょう!

そもそも私は二時から講義がある、いや選択だけど。慌ててメールで同選択の友達に連絡したら、代返してくれたらしい、え、マジこの娘天使や。因みに数学必修代返してくれた娘と同一人物である。数学の課題は任せろと返信して、携帯を閉じた。デジタル表示の時計の数字が目に沁みる、うーわー・・・だ。

「お前、寝てたのか」

「寝不足だった自覚は、ある」

「寝不足?」

心底不思議な言葉を聞いた、というように首を傾げられたが、もの凄い失礼だ。私だって眠れぬ夜を過ごしたりするのだよ、べつに年中お気楽娘ってわけでもないんだぞ。受験前ですら睡眠八時間確保してたけど。

「しずが寝不足?おい、熱・・・は無いな」

「私は未だかつてこんなに失礼な男を見たことがないよカズ」

「俺はしず程お気楽な奴見たことねえよ」

ひでえなおい。

真顔で言い切ったカズに私は絶望した、友達からも言われるが、私にだって悩みはあるしこう、何だほら、いっぱし溜まっていくストレスとかもあるんだ、少しくらい。それが限界点突破して眠れなくなったりして、寝不足かつ寝坊しちゃったりするんだぞ。

沈黙した私にカズは流石に慌てたらしい、医科生でもないのに脈とか計り始めやがった、どこまでもふとどきなやろうだ。ちくしょうおぼえてろ。

「もーいーよ、もーいーです。カズの甲斐性無しめうわーんっ」

「わざとらしい泣き真似だな、ってこら待ておい」

バックを素早く抱えて下手な泣き真似しつつ逃亡する振りをしたら一応引き止められた、でもカズの目が可哀想な子を見る感じになってる、こいつはなんて失礼なんだ。

「私の心は打ち棄てられた雑巾よりも惨めな扱いを受けた、お腹も減ってさもしいよお・・・」

「要は腹減りなんだろ、ほら、行くぞ」

「・・・うー」

「グズるな、可愛くねえよ」

何ィ?・・・いや、別に自分がグズって可愛いとは微塵も思ってないけど。愚図ったら昼ごはんのランクが少しアップしないかな、とかいう目論見があったりしちゃったりしなかったりする。そうですハラペコですよ。

申し訳程度に抵抗しつつ引きずられて行ったランチは、私の希望で学生の味方な洋食屋で、でもお得なワンコインランチセットじゃないトマトチーズハンバーグ定食でした、ごちそうさまでふ。



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