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揺れた心

 気づけば視線で追ってしまう存在。

 きっと彼はそんな人間なのだろう。


 面白い外見だけじゃない。

 規格外の強さだけでもない。

 ただいるだけで、なぜか目が離せなくなる。

 そんな何かが成男にはあった。


 実際、コメント欄は半分以上が成男の話題で埋まっていた。


『閃光のシュークリーム、ガチで休む気ゼロだろこれw』

『そろそろカスタード漏れるんじゃね?体力どこから湧いてんだよ?そのために太ってんのか?』

『てかもう49階層だよな?初心者が24時間以内にダンジョンクリアしたって前例あんの?』

『おまえ知らねぇの?“魚の目王子”がダンジョンの公開初日にやってただろ』

『そうだやってたわ!……ってことは閃シューたち、ランク1位のアセンダーと同格ってことじゃん』

『いやほんと、この体で名前通りの閃光ムーブできるの意味不明すぎwww』

『たまにカメラ追いついてないよな。気づいたら首落ちてるとか時間消してね?』

『動きに無駄がなさすぎて、思わず声出るレベル』

『わかる。女性陣目当てで見てたはずなのに、気づいたら目が閃シュー追ってる』

『なんか……アイツ見てると胸の奥が熱くなるっていうか……いや自分で言っててキモいけど』

『キモ!キモモ!でも俺もキモモ!同意しかない!』

『それな。気づいたらこっちも力入ってるし、なぜか今は就活しようかなって気になってる』


 イメージガールとして起用されたカリスマモデルと、不幸な身の上を持つ若くて可愛い女子。

 そんな彼女たちよりも、視聴者の心を掴んでいるのは成男だった。


 戦場に立つ彼はどちらかと言えば無表情に近く、動きも淡々としている。

 敵を倒して嬉しそうにすることもない。

 なのに、とても楽しそうだった。


 見ている誰もがそう感じてしまう。

 他のアセンダーのように派手な技を見せるわけでも外見が良いわけでもないのに、自然と惹きつけられるのはそのせいだ。


 この場にいることを、戦うことを、生きることを目一杯楽しんでいる。

 その喜びが伝播するように、見ている人間の心も湧きたってくる。


「アイツ……なんであんなに楽しそうなのかしら?」


 ヒルコの口から思わずこぼれた呟き。

 丸一日一緒にいて、そばで彼らを見続けてるうちに、気づけば彼しか見ていない時間が増えていた。


 好きか嫌いかでいえば、嫌いなはず。

 だけど成男を見ていると、この冷たい体にも熱が宿ったような錯覚を覚えてしまう。

 それが不思議でつい見てしまう。


「アンタ……結局、最後までペース変えないで全力も出さなかったわね。このダンジョンも舐められたものだわ」


 口にしたのは、思ってもいない言葉だった。


「いや、オレはいつでも全力よ。前の動きよりも今の動き、今の動きよりも次の動きを研ぎ澄ますためにな」


 わかってはいた。

 彼は今一瞬を大切にしながら生きている。

 きっと呼吸ひとつ取っても、先ほどよりも今の方が上手く吸えているだろう。

 今ならわかる。

 刀を使わないのにも何か理由があるのだと。

 ならばなぜ、そんな言葉を口にしたのか。

 

「まぁ、ここはクリアできるでしょうけど、他のダンジョンはここの比じゃないわよ……覚悟なさい」


 ーーわからなかった。


「ほう、それは楽しみな話を聞いた!まっこと有難いことよ!」


 彼の反応が見てみたい。


「大体、最初から気になっていたけど……なんでアンタは瘴気が効かないどころか、自分からも漏れてるのよ」

 

 何に怒るのか。


「そういう星の下に産まれたゆえ、せっかくなので日々香気を高めておる」


 何に悲しむのか。


「高めるな!死人が出るわよ!」


 何に喜ぶのか。


「なに、そこらへんは巧くやる」


 知りたい、彼を。

 

「うまくなんて普通は出来ないの!」


 逆らうばかりで何もいうことを聞かない、生意気で無遠慮なこの人間のことを。


「何やってだおっさん!次行くぞー!」


 すっかり元気になった由貴の声を聞き、成男が再び歩き出す。

 

「ダンジョンとは良いものだな……ここは熱く生きられる!感謝するぞ、ヒルコ嬢!」


 またあの顔。

 見ていると胸が熱くなるような笑顔。


「パ、パパに言われてつくっただけよ!」


 なぜ自分が動揺しているのか。


「ヒルコ嬢は謙遜が過ぎる。ここの造りを見れば、強いこだわりも伝わるというもの。少なくともオレはここが、大好きだ!」


 それもわからない。

 ただ、初めての感情を持て余していた。


「早く早くー!なんかお腹らへんから元気が湧きすぎて、じっとしていられないんすよー!」


 由貴は、疲れや体の傷をものともせずに、その場で忙しなく動き回る。

 

「ふむ、どうやら由貴はもともと秘めていた力に目覚めたようだ」


 成男は嬉しそうに顎をさすって目を細めていた。

 

「人の魂というのは、駆けるほどに眩しく輝く……流星の如く美しいものよ」

 

 その瞳に映るのは賛美。

 人をこよなく愛する視線。


「由貴は熱く生きておる、オレも負けてはおれぬな!」


 ダンジョンの奥へ向けて歩き出す姿は、頼もしく力強い足取り。


「二人とも待って!ユキちゃん、警戒は怠らないのよ!」


 三人が進む姿を、ヒルコはただ眺めるしかなかった。

 そして、心に浮かんできた憂鬱さに戸惑いを見せる。


「彼は、最深部に行ってしまうのね……」

 

 そこに待ち受けるボス。

 

「どちらにせよ、これで終わり……」


 その存在に、なぜか会わせたくないと思ってしまった。


「この穴に飛び込んだら、ボスが待ってるんすよね?」


 階層には扉とは別に、次の階層へ向かう黒い穴がある。

 その階層にいる敵をすべて倒すと現れ、そこに飛び込んで次に進む。

 

 ボスがいる階層は特殊な仕様になっていた。

 他のモンスターは出て来ず通路の向こうに広間があり、そこでボスが待っている。


「なに、気負うことはない。今の由貴なら存分に戦えよう」


「さすがにそろそろお風呂も入りたいし、さっさと終わらせて帰りましょう」


 一日ぶっ通しで戦い続けた体は、疲労はもとより汚れも染みついていた。

 モンスターたちの返り血などはないが、地面の土汚れや埃までは消えてくれない。


「なんかあたし!今ならあと一日くらい寝ないで戦えそうです!」


「うむ!それもまた良し!このまま次のダンジョンも行ってみようか!」


「完全にハイねぇ……早く終わらせて休ませましょう」


 ボス階層へ向かい、黒い穴の中に次々と飛び込む三人。


 その後を、ヒルコは追えないでいた。

 

 足を止めている理由がわからない。

 ここの管理者として、ついて行くのが当たり前の状況。

 なのに穴へ入れない。


 観たくない景色があった。

 聞きたくない言葉があった。


「でも……行かなきゃ駄目よね……」


 宙に浮くように、音も立てず穴に消えるヒルコ。

 そして、遅れて辿り着いたボスの広間では、想像通りの景色が広がっていた。

広告の下にある☆☆☆☆☆から、作品の率直な評価をよろしくお願いします。


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