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プロローグ続

プロローグ続


不気味な夢の余韻と激しい頭痛に耐えながら、ルシフェルはゆっくりとベッドから起き上がった。


冷や汗で肌にへばりつくシャツを鬱陶しく思いながら、部屋の隅に立てかけてある古びた剣へ視線をやる。 なぜだか分からない。けれど、胸の奥を激しく突き動かす正体不明の「悪寒」が、彼に武器を取るよう強く求めていた。


ルシフェルは吸い寄せられるように歩み寄り、柄を強く握りしめた。ずっしりとした鉄の重みだけが、過剰に波立つ鼓動をわずかに鎮めてくれる。


胸騒ぎを抑えきれず、彼は剣を帯に差してそのまま家を出た。


重い扉を開けた先に待っていたのは——いつもと変わらない、穏やかで平和な日常だった。


陽の光が柔らかく街並みを照らし、鳥のさえずりと人々の穏やかな話し声が風に乗って運ばれてくる。狂気に満ちたあの歌も、鏡の中の異様な自分も、ここには影すら存在しない。


(……なんだ、考えすぎか)


胸を撫で下ろそうとしたその時、背後から軽やかな足音が近づいてきた。


「ルシィ!」


聞き慣れた可愛らしい声。振り返ると、そこには花のような笑顔を浮かべた少女——リコリスが立っていた。 彼女はルシフェルに駆け寄ると、少し首をかしげ、甘えたような声で尋ねてきた。


「ねえねえ、今日は何の日か覚えてる?」


ルシフェルは呆れたように息を吐き出しながらも、固まっていた表情をゆるめた。


「忘れるわけないだろ。リコリスの誕生日だ」


「ふふ、正解! ちゃんと覚えててくれたんだね」


嬉しそうに微笑む彼女の姿に、胸の嫌な予感は霧散していくかのように思えた。しかし、彼女が次に口にしたおねだりが、再び世界の歯車を静かに狂わせ始める。


「ねえ、お祝いに私のお気に入りのお花畑に行こうよ!……あ、ゴブリンが出るかもしれないから、ルシィが守ってね?」


悪戯っぽく笑うリコリスの手を取られ、ルシフェルは導かれるように村の外れへと歩き出した。




プロローグ続続





街の外れへと続く一本道を、二人は並んで歩く。 眩しい日差しを浴びながら歩くリコリスの横顔を見つめ、ルシフェルはふと思い出したようにポケットへ手を差し入れた。


指先に触れる、冷たくも滑らかな金属の質感。


「……そうだ。忘れないうちに渡しておくよ」


歩みを止め、小さな革製の小箱を取り出す。突然のことにリコリスは足を止め、目を丸くして彼を見つめた。


「えっ……これって……?」


「誕生日プレゼントだ。……まあ、受け取ってくれ」


ルシフェルが蓋を開けると、そこには繊細な意匠が施された銀のリングが収まっていた。その中央で、深みのある一粒のルビーが太陽の光を反射し、真紅の煌めきを放っている。


「うわぁ……! すごい、綺麗なルビー……!」


リコリスは息をのむと、パッと表情を輝かせた。ルシフェルは少し照れくさそうに視線を逸らしながら、彼女の指にそっと銀の指輪をはめてやる。彼女の白い肌に、紅い輝きが良く映えていた。


「ありがとう、ルシィ! 一生大切にするね!」


満面の笑みを浮かべ、何度も指輪を愛おしそうに眺めるリコリス。その姿に、ルシフェルも胸の奥が温かくなるのを感じていた。


——だが、その幸福感は長くは続かなかった。


目的のお花畑へ辿り着いた瞬間、風向きが変わる。 満開の花々が咲き誇る美しく広大な景観とは裏腹に、鼻をつくような強烈な異臭が、突如として立ち込めたのだ。


「……っ!? なんだ、この臭いは……」


腐肉と硝煙が混ざり合ったような腐敗臭に、ルシフェルは思わず口元を覆う。危険を感じて剣の柄に手をかけたその時、耳元で歌声が聞こえ始めた。


あの夢の中で幾度となく聞いた、狂気的な旋律。


「……リコリス?」


驚いて隣を見ると、リコリスの口元が微かに動いていた。まるで歌を口ずさんでいるかのように。だが、聞こえてくる声は彼女のものではなかった。脳の奥底に直接響くような、夢の中にいた「影」の不気味な声だ。


歌声が響くにつれ、強烈な頭痛と吐き気がルシフェルを襲う。視界がグラグラと歪み、重い眠気が襲いかかってくる。


(くそっ……意識が……っ)


抗おうとするものの膝から崩れ落ち、視界が途切れかける。 うとうとと混濁していく意識のなか、必死の思いで目を開けた瞬間——


ルシフェルは目を見開いた。 さっきまで目の前にいたはずのリコリスの姿が、まるで霧のように跡形もなく消え去っていたのだ。指輪の残像だけを残して。


静まり返った花畑に、どこからともなく嘲笑うような囁きが木霊する。


『宴はもう始まっているよ?……ルシィ?』


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