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家での出来事

「へー。ここじゃな!」

 世間話をしながらコイツと隣で歩きながら帰ってきた。俺の家の外見は至って普通だ。新しすぎるわけもなく、古すぎるわけでもない。だけど、その素朴感が他とは違う、この家のチャームポイントになっていた。

「どーぞ」

「おっじゃっましまーす!」

 玄関を開けて手で招く。すると元気よくドアをくぐった。まったく、元気な人だ。

 ドアを閉めて、鍵を掛ける。そしていつも通りに靴を脱いで上がろうとした時、俺は見てしまった。

「ねぇ」

「ん? どうしたんだ!」

「……土足厳禁」

 その言葉を聞いてもなお、きょとんとした顔で俺を見つめてくる。なんでわかってないんだ。

「靴。ここで脱いで」

「なんでだ!」

「汚いから」

 そいつは渋々といった感じで靴を脱いだ。そしてトボトボ2階へ上がっていった。1階は先程見て、興味をうしなったのだろう。

 我が家は3階建てで、1階がお風呂や洗面所。2階がリビングやキッチン。3階に俺の部屋がある。

 最近は3階にいることが多くなった。最近は、仕事も激務かしており、中々休む暇もない。今日はたまたま休みだったので気分転換にと、散歩に出かけたのだが……それが間違いだったらしい。

「うひょー! 布団きもちぇー!」

 そいつがシャワーも入らずにリビングに敷いてある布団にくるまってゴロゴロ転がっていた。

「いや、さっきまで地面に転がってたよな?」

「え? そうじゃが?」

 ……。自覚している。なのに悪気がない、ただ純粋な目でこっちをまじまじと見つめている。怒りたくなかったが仕方ない。犠牲は付き物だ。

「シャワーに行ってこい!」

「う、うるさいぞ! わ、わかった……」

 怒声が響いた。それがコイツに聞いたようで、なによりだ。これが聞かなかったら俺は手段がなかった。

 アイツは1階に降りようとして階段に一歩足を踏み入れた瞬間、ピタリと、止まった。

「なぁ……ニンゲン」

「どうした?」

「……着替えとかって……」

「あ」

 そうだ。着替えだ。それにタオルも含めている。コイツの顔が一気に不安一色に曇っていく。不味い、それにつられて俺も不安になってきた。

「ちょっと待ってろ!」

 俺は3階に向かった。あそこには着替えやタオルを収納している棚がある。そこから適当なTシャツとタオルを取り出して、アイツの所に行った。

 そいつはこれらを受け取ってもじもじしている。

「ありがと……。あの……下着とかって……」

「……男物しかないぞ」

「……だよねー……。ノーパンでいいや……どーせTシャツとかオーバーサイズだし」

 爆弾発言をしたかもしれないが、そうしてもらう他ないだろう。コイツは無駄にウエストが細く、俺の下着などずり落ちてしまうだろう。だから、俺は何も言わなかった。そして、お風呂場に向かうアイツを見送った。


「ふぅ……案外いい湯じゃのう……」

 1時間後。奴が帰ってきた。やはり、女子のお風呂は長いものなのは全国共通なのか。

 お茶の間、という言葉が似合う部屋で机の近くに座った。その際、髪がフワッと俺の顔を撫でる。

 なぜか、俺と使ってるシャンプーは一緒のはずなのに、コイツの方がいい匂いがする。

「それで……聞きたいことが山程あるんだが……」

「おう! 何でも聞いちょれ!」

 奴の方を見る。白い無地のTシャツが肩までずり落ちている。だが本人は気にも留めなかった。

「えー……まず、どうしてあんな所に?」

 俺は構わず質問をした。こういうのは見ておく時に見るべきだろう。

「……実は普通に腹ペコで……」

 コイツは舌を出してテヘペロといった感じだ。

「そういえば、名前聞いてなかったな。俺は伊勢だ」

「よかろう! ワシはNa-Ga壱岐じゃ!」

「えーと……壱岐でいい?」

「いいぞ! よろしくな伊勢!」

 俺は壱岐と何気ない握手を交わした。それたけで、親睦が深まったように思える。自己紹介の基本である名前を相手に伝えて、握手をするだけでこんなにコイツを見る目が変わるとはね。

「それで……」

 一つ前置きをする。

「看取ってほしいって、どういうこと?」

 一瞬、言葉に詰まったように思えたが、そんなことはないような気がする。

 無邪気な笑顔を貼り付けていつもの調子を取り戻している。

「言ったはずじゃ。ワシはこの先長くないんじゃ。寿命でのう」

 壱岐は淡々と説明をした。まず、壱岐の身内は全員息を引き取った。それで、住む場所に一人のところ、ご飯に困って彷徨い、奇絶。その際に立ち寄ったのが俺、というわけだ。

「孤独死は嫌でのう……。先に逝った奴が羨ましい限りじゃわい」

「……やっぱり違和感すごいな……」

「え? なにがじゃ」

 言い回しとかは完全におばぁちゃんだ。だけども見た目は年を取っていなく、それよりも、10代に見えるくらい、肌が白かった。そして、全ての顔のバーツのバランスが良い。ついでに身長も低い。

 こんなのが寿命だとはニワカには信じ難い話だった。だけど、身内が死んだという話は本当らしい。しばし、涙ぐんでいた場面もある。

「おーけー。わかった。じゃあ看取ってやるよ……」

「お! ほんとか! ありがてぇ!」

 壱岐は俺の肩をバシバシと叩く。これは嬉しい感情に入っているらしい。顔が笑っている。

「それで……あと何年くらい生きる予定なの?」

「んー……30年とか?」

 俺はすぐさまずっこけた。30年……? 結構生きるじゃん……。

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